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Ⅲ.大好きな卵編
73.俺は、新たな道を歩むだけ②
しおりを挟む俺は、巡礼から帰還後、神官を辞めた。
速攻で辞めた。
街について、ヒクイドリと水牛に大興奮の子供たちと、大人気なく大喜びの院長と、度肝を抜かれて固まるケビンにルルドを預けて、大神殿へと直行し、即座に辞めた。
というか、そうできる手筈を、巡礼の出発前に整えて行った。
巡礼の報告書だって、これまで同様にその都度記載していたから、改めてまとめる時間も必要もなかった。
で、予想通り、俺が神官を辞める処理が意図的に滞っていて。
これまた予想通り、報告書に関して追記やら添付文書を求められて。
まどろっこしいやり取りにいい加減嫌気がさした俺は、多少の武力も行使して、己の権利を勝ち取った。
もう俺には必要のない竜にまつわる伝書や書類、資料のすべてを神官どもの目の前で燃やしてやった。
ぎゃあぎゃあと喚きながら、なんとか火を消そうとする神官どもの顔と言ったら。
竜気でつけた炎が水で消えるわけねぇだろ。
崩れた大神殿の天井に、灰と炎が立ち上るさまは中々壮観だった。
あー……もっと早く、こうすればよかった。
で、晴れて自由の身となってすっきりさっぱりして帰ってみたら。
ルルドもすっきりさっぱり消えてたわけだが。
………あの時の俺に気持ちを、どう表そうか。
やっぱり、案の定、予想通り。なんで、どうして、ふざけんな。
あんなにいっぺんに色んな情動が沸き起こるもんなんだな。
ルルドに言いたいことは、山ほどある。
とりあえず……。
あんだけごねて連れてきたヒクイドリや水牛はどうすんだ、とか。
お前の畑もワームも、どうするつもりだ、とか。
色々と言いたいことはあるけどよ……。
肝心の本人がいないんじゃあな。
言ってぶつけることもできやしねーよ。
「しかし……お前こそが、真に竜に仕える者として相応しい――」
「同じように自分から神官を辞めたお前が、俺にんなこと言えんのかよ?」
カインは巡礼から戻り、報告書を提出するや否や、神官を辞する意を表明した。
まだ調査中であるものの、ほぼ事実確定の200年前の家門の責を負う意図もあるらしい。
「………俺は、神官でいる資格がない。けれど、ヴァレリウスは違う……と、思う」
「知るか」
これから神殿という組織、神官という地位は間違いなく大きな変革を余儀なくされる。
一つには、今の権威、権力を集約するに至った最大の要因である200年前の予言が、成就してしまったからだ。
あの予言を旗印に、神殿は信仰を集め、人々を押さえつけてきたんだ。今後は、同じ手は通用しねぇ。
で、もう一つに。
俺たちが手にしていた、竜石という竜石が跡形もなく消えた。
ルルドと、竜の長たちがユーリを元の世界へと帰したとき、巡礼一行の持っていた竜石が消えたことはすぐにわかった。
間近で竜の力に触れたからだと考えていたが、どうやら影響はこの世全体に及んだらしい。
聞けばちょうど、ユーがこの世から姿を消したときと一致するのだから、まず間違いないだろう。
竜石は、人が竜気を扱うのに必要不可欠な竜気の結晶だ。
それが失われたということは、つまり人はもう竜気術を使えねぇことを意味する。
つまり。
あれだけ権威意識と特権意識、選民思想にまみれた連中は、あの時をもって、ただの人になったってわけだ。
アイデンティティの喪失に、半狂乱になる連中の馬鹿っぷりには、呆れを通り越して、笑いを通り越して、もはや無の境地だった。
だって、俺には関係いねぇし。
「相応しいとか、相応しくねぇとか、資格が在るとか無いとか、どうでもいいんだよ。
結局、『竜に見放された子』や、『竜に愛された子』と同じだろうが。
もう勝手に役割を押し付けられんのは、うんざりなんだよ」
俺は、全部どうでもいい。興味もねぇことだ。
「お前の理想はお前が叶えろ。俺に押し付けんな。
そういうのが、一番うぜぇんだよ」
カインがどう思うかなんて、俺には関係ねぇ。
だったら、お前は何のために巡礼に行ったんだよ。
石碑に名前が刻まれてんだから、許されたことにしとけよ。
やりたいことがあんなら、自分でやりやがれ。
「すまない……。そういうつもりでは……。
俺はただ、ヴァレリウスの在り方は素晴らしいと……そう言いたかっただけで……。
いや、これまでひどい態度をとって、碌に知ろうともしなかった俺が言えたことでは無いのだが……きっと、ヴァレリウスならば、為せることが――」
「だからっ……そういうところだっつーの」
「そういうところ……」
「俺が何するかは、俺が決める。お前が決めんな」
「…………ああ、そうか」
もはや呆れ果てた表情で睨む俺に、カインは口を閉ざし、暫しもごもごと考えこむ。
「ヴァレリウスの選択に、俺がとやかくいうことでは無かった。すまない。忘れてくれ」
真面目か。
「別に。気にしねぇよ」
つーか、どうでもいい。
「それで、本当にカーリー家の領地に行くのか?……かなり、辺境だと聞くが」
「ああ。前々から決めてたことだしな」
神官を辞めた俺は、院長の所有する地方に行くことにした。
「何か……やりたいことでも――」
「やりたくねぇことしないでいいように、だよ」
俺が言葉を遮れば、カインはまたマズい、という表情で黙り込んだ。
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