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Vol.71・白い月の昼
しおりを挟む燦々と降り注ぐ太陽に、流れる汗を拭い、俺は空を見た。太陽が鎮座する反対側の空に、うっすらと白い月が見える。
日差しは強いがそれほど暑くはない。涼やかな心地よい風が頬を撫でてゆく。汗が流れるのは労働のせいだ。
時折、城下にたゆたう海の匂いが鼻をくすぐる。
なんて美しい光景だろう。
一体、何がどうなって、こんなことになってしまったのか。
俺は、世界を脅かす魔王を討伐せんとやってきた冒険者の端くれだった。だが蓋を開けてみれば、魔王と呼ばれていたのは年端もいかない少女で、俺と同様にやってきた冒険者たちを次々と懐柔して、ここには小さな町が出来ていた。
朝は日の出と共に起床し、昼は強制でも過剰でもない健全な労働に励み、ほどよい疲労を湛えた体にほどよく酒と、素朴だが美味い飯を入れれば、心地よい眠りで一日を終える。
「少しは慣れたか?」
魔王、もといこの城の王である少女が声をかけてきた。
「おかげさまで」
この城は、元々古代文明を築いた国であったらしい。中央の発展やそれに伴う戦争からも、まるで忘れ去られたような辺境の地で誰からも気づかれぬまま独自に統治を行っていた。
だが、そのため静かに人が減っていき、最後には流行り病で、少女が一人取り残されたのだそうだ。
やがて勝手に噂だけが独り歩きし、俺のようにやって来た者たちが、初めは幼い少女を不憫に思い面倒を見るために、そのうち快適になって次々訪れる者たちを勧誘し、大所帯になった。
誰からともなく城に残る者、外に家を建てる者と別れていき、立派な生活圏が確立されていった。
少女は生まれ持った統治者の器なのか、人心を掴むのに長けていて、自然と王として皆が敬意を表するようになった。ここでは争いも起こらず毎日が平和である。
「王、あまり人が増えたら揉め事が起きるんじゃないですかね?」
皮肉を投げてみたが彼女はきょとんとしている。
「そうだろうか? まあ、土地には限界があるからこれ以上規模が大きくなることはあるまい。ここで生まれた子どもたちも、中には外に憧れて中央に向かう者も出てくるだろう。きっと、ちょうどよくなっているよ」
「はあ……そんなもんですかね」
若いのにこの達観したような風情。感化されて無頼者たちがにこにこしているのは面白い。でも、それが自然なのかもしれない。
「今日はもうやめて飲みに行かないか?」
仲間の一人が声をかけてきた。
「いいじゃないか、行ってこい行ってこい」
王が笑って送り出すのに俺も笑って農具をしまう。
冒険者は孤独だった。誰も信用できないと思っていた。
でもここでは、常に清々しい風が心に吹いている。
きっと俺は、真の自由を手に入れたのだ。
fin
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鶴上さま、感想コメントありがとうございます!
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