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Vol.19・夜桜乱舞
しおりを挟む月明かりもない夜道を、私はとぼとぼと歩いていた。
とぼとぼ、ってよく意味がわからないけど、気持ちを上手く表現していると思う。
言葉にはそういえば、そんなふうに様々な擬音があって、本当にそんな音が聞こえる気がしてくるから不思議だ。
などと、冷静なのか動転しているのかよくわからない頭がぐるぐると思考を続けている。
ずっと、好きだった人に振られた。
シャイで、物静かな人だった。
恋愛に関して、そんなに猪突猛進なわけじゃないけど、あのひとだけはどうしても手に入れたくて、頑張ってアプローチした。
ストーカーみたいなことは、まさかしない。
それでも、熱心なアプローチも度を越していたのか、或いは、それだけ追いかけられても私に興味が持てなかったのか。
本当のところはわからない。
あの、シャイであまり思いを口にしない人が、ごめん、と言った。
その一言が、私の心を抉った。
あの、シャイであまり自分の思いを言葉にしない人に、それだけ嫌な思いをさせてきたのは私なんだと思うと。
私の気持ちを受け入れられなかったことと同じくらい、哀しかった。
それでも尚、欲しいものを手に入れられなかった苦しさは、そう簡単に消えてはくれないんだ。
愛別離苦。求不得苦。
四苦八苦って言葉の意味を、いつかどこかで教えてもらったことがあった。
愛するものと離れなければいけない苦しみ。
求めるものが得られない苦しみ。
そういえば、と気づいてふと自嘲の笑みが漏れる。
今日は確か、四苦八苦を説いたお釈迦さまの誕生日じゃなかったっけ。
遥か昔に悟りを開いた人は、言うことが違うよね、なんて笑う。
どれだけ理屈を並べても、苦しい時は苦しくて、哀しいときは哀しくて、それを癒すのは悟りではなく時間なのだろう。
いつもなら一人では歩かない、街灯もまばらな暗い公園のそばで、月明かりもないのに何だか仄明るい気がして立ち止まる。誰かいるのだろうか、それとも何かの明かりが漏れている?
昼間でもあまり子供たちが遊ばないような、小さな寂れかけた公園に一歩足を踏み入れると。
――――ざあああっ、と、風が吹いた。
そこには、満開の桜が、一斉に花弁を散らしていた。
咲ききった命を誇らしげに、明かりもない暗闇の中にその姿を浮かび上がらせて。
何かが、私の中で音を立てた。
それを言葉には、できなかった。
舞い落ちる桜の花びらに抱かれて、私は堰を切ったように号泣した。
Fin
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