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vol.32・降り注ぐ星空の下で
しおりを挟むあの大きな地震の夜、満天の星空が頭上に見えたそうだ。
街だと常に明かりがあるし、そんな盛大な星空を見る機会は確かにそうないのだろう。
世界が壊れたみたいに呆然としていても、美しいものに目を奪われるのは自然なことだ。
否。
そんなときだからこそ、人は美しいものをその目に映し、哀しみに打ちひしがれる心を浄化するのだ。
哀しみをすべて洗い流すことはできなくても。
僕が生まれ育ったのは田舎の山奥で、日頃から満天の星空が見えた。
冬場になれば特に凛として清々しいほどの宙を見上げることができる。
祖父が使っていた農機具や収穫後の米をしまう倉庫は、吹き抜けの天辺に窓が開けてあり、今で言うロフトのような二階部分に上がって寝転ぶと星空に包み込まれるような気がした。
小学生の頃、数少ない近所の友達は大体どの家も似たような倉庫があったから、それぞれの倉庫を渡り歩いてお泊まり会をしてみたり、華やかな遊びがない代わりに壮大な宇宙へ思いを馳せる冒険を繰り返した。大人になってもそれは宝物のような時間だったと思う。
時折、夏休みに誰かの家の孫が遊びに来ることがあって、そういう子どもたちともよく遊んだものだった。都会的な空気を醸し出す街の子は、洗練されて見えて子ども心にも憧れたし、反対にそういう子が山や川で遊んで喜んでくれると、何もない田舎の良さを自慢したくなるような誇らしい気持ちにもなったものだった。
両親が年老いたから、という理由をつけて田舎に帰ることにしたのは、短い結婚生活にピリオドを打った冬のことだった。
生まれてずっと都会でしか暮らしたことのない妻は、何度か連れてきたこの田舎を酷く嫌がったし、そんな子供時代を一度も経験していないらしく、どうしても感覚が合わない部分は否めなかった。環境は違ってもお互い歩み寄る気持ちがあれば理解できるものも、受け入れなければ隔たれたままだ。結局、僕はずっと彼女に田舎者だと莫迦にされているような屈辱感のようなものを払拭できなかった。
子どももいなかったからあっさりと自由になり、お互いの新しい人生を踏み出すことにして、僕は静かな環境に身を置くことを決めた。どこか意地もあったかもしれない。
実家へ向かう道すがら気づいたことを両親に問うてみる。年老いたとは言え両親はまだまだ健在だ。
「角の家、明かりがついてたけど、あそこのおじいちゃんたち、もう亡くなってるんじゃなかったっけ?」
「ああ、お孫さんが住んでるんよ。ほら、あんたも子どもの頃一緒に遊んだことあるやろね? 女の子。田舎に住みたい言うてリフォームしてなぁ」
白いワンピースを着た明るい笑顔の少女が思い浮かんで、僕は余分に買ってきたお土産を手に実家を出た。
何かを期待するわけではなかったけれど、ほんの少し胸が躍る。自分のことは棚に上げて、独身だといいな、などと思ってしまう。そうでなくても。
降り注ぐ星空の下で、思い出を語れる友がいるのは、どんなに幸せなことだろう。
冷えてきた冬の空、きらめき始めた星空を見上げて、そんなことを思った。
Fin
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