1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.40・曇り空は憂鬱

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 曇り空は憂鬱。

 急に暖かく春らしくなってきたけれど、今日は何だか天気がビミョー。
 
 雨が降りそうな完全なる(というのも妙だが)曇天でもなく、春霞なのか花粉なのか黄砂かPM2.5とやらなのか、青空と雲の境が曖昧なぼんやりした天気。
 
 こんな日は眠くなる。
 
 会社の昼休み、ぼんやりと窓から空を眺めて。
 
 日向ぼっこで幸せそうな猫みたいに、一日中ぼーっと過ごせるのなら悪くはないのかもしれないが。
 
 フルタイムワーキングマザーにはそんな暇なんかありゃしない。早朝から起きて洗濯機を回し、その間に朝食とお弁当を大急ぎで作り、寝起きの悪い夫と小学生男子を叩き起こしてご飯を食べさせ支度をさせ、自分も朝食を掻き込むように流し込んで後片付けを超特急で済ませると、二人を見送り荷物と保育園児を連れて出勤する。
 
 帰りは定時にダッシュで退勤し最寄りのスーパーで週二回は買い物をして保育園に迎えに行き学童に迎えに行き、帰宅するとお風呂を入れつつ夕飯の支度。夫が帰る前に夕飯を済ませお風呂に入らせて寝かしつけるとやっと一息はつけるが、疲労困憊である。
 
 それでも、長男が次男と一緒にお風呂に入ってくれるようになったり、家事育児に非協力的というよりは、スキルが無さすぎる夫が妥協策として購入してくれた洗濯乾燥機とお掃除ロボットのお陰で、少しはましになった。いつになれば終わるのだろうと思っていた暗闇にようやく光が差す兆しが見えてきた。
 
 でも。人というのは我が儘なものだ。こんなほんの僅かでも気持ちに空白ができると考えてしまう。
 
 私は、何をしたいんだろう?
 
 今日も怒涛の一日を終えて一息ついたリビングでそんな言葉が浮かんできた時、キンコン、とLINEの通知音。
 
『ごめん、今日は終電ギリギリになりそう』
 
 ということは夫の帰宅は深夜だ。
 
 私は、ふと立ち上がって冷蔵庫のビールを手に取る。お酒なんて久しぶり。明日は休みだし、たまにはいいよね。
 
 テレビもつける気にならずひとり静かにチビチビと呑む。ああ、これって意外にいい気分転換かも。お酒が入ると存外ポジティブになるので、前向きな考え事にもいいかもしれない。
 
「……そっか、仕事、辞めちゃおうかな」
 
 友人知人が殆ど結婚しても仕事を続けていたから、何となく続けるもんだ、と思っていただけで、不満はないが特別好きでもやりたいわけでもなかった。家計の見直しは必要だけれど、夫の稼ぎだけでやれなくはない気がしてきた。
 
「ちょっとのんびりして、それから趣味でも資格でも、何か探そうかな」
 
 心からやりたいと、思うことを。
 
 夜空と同じように、曇り空の上にだって星々は瞬いていて、天気に文句を言うのは人間ぐらいだろう。晴れても雨でも曇り空でも、どんな日も好きでいたい。
 
 だから私も、今まで頑張ってきた自分を目一杯褒め称えて、夫の帰りを待つことにした。
 
 
 
 
Fin

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