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Vol.53・働く人々①
しおりを挟むやってらんねぇなぁ。
ドがつく田舎の小さな工場で俺は働いている。
一応正社員だし、田舎だと、それなりに『いいところ』『ちゃんとしたところ』にお勤めね、と言われるのかもしれない。
けど忙しい割に給料は知れてるし、繁忙期は毎日朝早く出勤して遅くまで残業が当たり前、休みもなくなったりする。
結婚すると子育てするには共働き必須みたいになるが、その分土地の安さで若い内に家を建てて、外側から見ればそこそこ幸せ、周りの同世代も皆そんな感じだ。
過疎化がどうとか少子高齢化がどうとか議論は尽きないが、単純な若者の感覚だと、高校出てさっさと都会に出たもん勝ちだよな、と内心思う。
それは選択肢の幅が格段に広がるってことだ。
都会でバリバリやるのは大変だと人は言うだろうが、それはその人間次第だし、必ずしも大成しないといけないわけじゃない。
転職する場が多くある。アルバイトやパート先も多いだろう。うまく行く、というのがどういう状況を指すのかわからないが、そもそも選べない、選べるものが少ない、というのは窮屈だ。田舎の問題は案外そういうところにあるんじゃないかと思う。
裕福な家庭ではなかったから進学する選択肢はなかったし、少しでも都会に就職するのも、未だ根強い長男だから、という無言の圧力みたいなものに負けて地元で就職するしかなかった。
ああ、やってらんねぇなぁ。
高校の同級生だった妻はしっかり者で、パートしながら子育ても頑張ってくれているし、子どもたちも可愛い。それだって親が近くにいて助けてくれるからこそで、俺は十分に幸せなんだと思う。
でも、特に好きでもない仕事があまりにも忙しく疲労が蓄積すると、どこにも行き場のない思いがむくむくと沸いてくる。
このまま歳を取って、一生終わるんだろうか、と。周りの大人たちのように。
人と比べるのではなく、何を持っているかでもなく、心の底からの充足感を求めるのは贅沢なんだろうか。
三週間ぶりの休みが取れた日曜日、疲れているからとゆっくり寝かせてくれた家族に感謝しつつ、体は日常の習慣を覚えていてそれほど遅くまでは眠れずに、いつもより少しだけ遅めに起きた。
「おはよう、もっと寝てもよかったのに」
「んー、何か目が覚めて」
わかる、案外寝れないよね、と朝食の準備をしてくれながら妻が同意する。自分は先に食べたのかコーヒーだけを置いて俺の前に座る。
「あのさ、パパ。私ね、YouTubeをやろうと思って」
「え?」
「毎日同じことの繰り返しで、生きてる意味がわからなくなってさ、あ、そんな重い感じじゃないんだけど、何か変化があればもっと楽しくなるかなと思って」
なんだ、妻も同じように感じてたのか。俺は一人で悶々としているような、勝手な被害者意識みたいなものがあったのかも。
「いいじゃん、俺も一緒にやりたい」
そう言うと、妻は久しぶりに物凄く嬉しそうに笑った。
fin
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