1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.58・バカンス

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『本日はご乗船ありがとうございます。当船はギャラクシー航宙地球行き365便、船長はシャール、副船長はアブラヒムです。地球までの短い船旅を、どうぞお楽しみ下さい』

 船内アナウンスに心浮き立って、私はワクワクしてきた。

 夢にまで見た地球でのバカンス。夢にまで見た、というのは勿論比喩だけれど、そのくらい楽しみにしていた久しぶりの地球。どのくらい滞在するかも、まだ決めていない。ツアープランも船内で最終決定することにした。

「あなたも地球は初めてですか?」

 隣に座っている方が声をかけてきて、控えめながら同じようにワクワクしているのがわかった。

「いえ、私は何回も経験しているんです」

 自慢気に聞こえないように抑えながら答えたけれど、隠しきれていなかったかもしれない。

 その方は大袈裟なくらい驚いて、羨ましがってくれた。

「そうなんですか!? 羨ましい! 私は初めてなんですよ」

「そうなんですか、地球はいいところですよ、とてもエキサイティングで」

「皆さん、そう仰るんですよね。ますます期待が高まります」

 そういえば、と言葉を続ける。

「地球のどちらに行かれるか決めてます? お勧めとかありますか? 私、まだ迷っていて」

 ああ、確かに。どこに行ってもエキサイティングだけれど、場所によってまったく違う経験が出来るから、それは好みによるだろうな、とは思う。

「そうですね、日本とかお勧めですよ。食べ物が美味しくて、私も今回は日本に行く予定です」

「そうなんですか、なるほど、食べ物が美味しいのは魅力的ですよね」

 そうそう、と頷いていると、周りの方々も話に乗っかってきた。

「私はアメリカに行ってスーパースターになるつもりなんですよ」

「あら、それも素敵」

「私はねぇ、フランスで三ツ星のシェフになろうかと」

「おお、それも格好いいですね」

 後ろの席の方が、こほん、と咳払いをして、ドヤ顔で宣言する。

「私はね、会社を興して成功したあと、事業に失敗してギャングに狙われたり、ホームレスになろうかと」

 私も含め皆がおお、とどよめく。

「チャレンジャーですね」

「本当、すごくエキサイティングな経験が出来そうですね」

 盛り上がる会話を横目に、そういうのもいいけれど、と私のプランが固まってきた。

『皆様、当船はまもなく地球に到着致します』

 私は日本の地方に生まれて、田舎に嫌気がさして都会に出た後、人間関係に疲弊して田舎に帰り小さな会社を興し、地元に貢献して心も経済も豊かな暮らしをする。小さな山あり谷ありぐらいの、穏やかな人生もたまにはいい。波乱万丈は何回も体験したから。

『それでは皆様、よい旅を』

 いざ、地球での百年のバカンスへ。





    fin
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感想 1

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