1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.68・スカンジナビアの森

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 どうしたものか。

 毎日庭に出てぐるりと見渡しては溜め息をつく。

 見渡す限り、というと大袈裟だが、そのくらいの気分になる庭の雑草。私の身長を軽く越して生い茂る。南国の草木ではないがまるでジャングルのようだ。

 祖父母の古い家を譲り受けて、家賃もいらなくなるならラッキーと移り住んだはいいが、人がいなくなって手入れもされなくなった庭は縦横無尽に草木が蔓延っていた。

 家屋も古くてあちこちがたがきているし、湿気も多い。田舎ならではで虫も多くしょっちゅう遭遇しては悲鳴を上げている。

 が、それ以上に困っているのは庭の一角にある畑だ。素人の草刈りレベルで追いつかない範囲の広さがあるし、あちこちゴミが埋まっていたり凹凸も激しく、私ひとりの手には余る。そもそも街育ちの私は草刈り機も使ったことがなく手を出しあぐねている。

 それなら業者でも雇えばいいと言われるだろうが、如何せん予算がない。私は独り者のしがない物書きで、家賃がいらない状況で何とか食べていける有り様なのだ。

 かといって今更雇われて働くには、社会不適合が過ぎて断念せざるを得ない。

 どうしたものか、と、毎日畑だった森のような草木を眺めては思索に耽ったところで何の解決策も出てこないことも知ってはいる。

 そんなある日、買い物から帰り、畑を見て同じように溜め息が出たあと、ふと、長年使っている鞄のロゴに目が行った。

 そこには、英語でスカンジナビアの森と書いてある。

 スカンジナビアは北欧の数ヵ国に跨がる地域だ。航空会社の名前のほうが聞き馴染みがあるかもしれない。

 有名な作家の作品にも似たようなタイトルがあるな、と思った。

 森。森か。

 田舎のいいところは静かなところだ。人工的な音や人々の声が煩くない。けれどまったくの静寂ではなく、風がよく通るし、鳥の声も近い。都会では感じられない自然の息吹がよくわかる。ここに来てよく眠れるようになった。

 そう考えれば、この草木の成長も自然の恵みといえるのかもしれない。山が高いから空も太陽も近い。季節の移り変わりがよくわかる。それはなんと豊かなことだろう。

 そう思うと、ずっと煩わしいと、悩みの種だった畑の跡地が、急にとても美しいものに思えてきた。

 冬になれば、草木もきっと枯れて地面が顔を出すだろう。対策はそれから考えても遅くはない。

 そして私は、青々と繁った草木を見ながら、しばし行ったこともないスカンジナビアの森に思いを馳せてみる。




     fin
 
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感想 1

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