3 / 31
王国ヴィダルの森の中
王国ヴィダルの森の中2
しおりを挟むさて。
文字通り一人取り残された森の中。
ラシルは立ち尽くすのをやめて、とりあえず歩き始めた。
目的地はどこで、目的は何か。
それは知っている。わかっては、いる。
けれど理解しているかというと、疑問符が飛び交っている。
それは自分には決してできないこと、だと思う。
だからこそ。
今度は本当に分厚い眼鏡の奥からポロポロと涙がこぼれた。
(お師匠さまは、ついにわたしを見限って愛想を尽かしたんです…)
そうしてラシルは仕方なく歩き出した。
一縷の望みが、胸の隅っこになかったわけではないから、それだけを希望に。
目的地はここ。
王国ヴィダルの森の中。
そして目的は。
――――――森に蔓延るドラゴンを退治すること。
*
その国は、深い森の中にあった。
どこから向かっても森を抜けなければ辿り着くことができず、人工的な整備を一切しない深い森の中央に、その国はあった。
周囲をぐるりと取り囲んだ森の真ん中に、突然小さな王国が現れることを正確に知っているのは、もしかしたら空を舞う鳥たちだけかもしれない。
殆ど人の手によって整備されていない森は鬱蒼と繁り近づく人を拒むせいか、鎖国でないにも関わらず、近隣の諸外国との交流も殆どない。
近隣の国から大して距離があるわけでもないが、簡単に行こうと思って行ける場所ではなく、それでなくとも国交であれば仰々しい行列がぞろぞろと向かわなければならなくなる。そして国境線を越えると現れる森には当然野生の獣も多く生息しているため、積極的に交流を図ろうとする国もないようだ。そして王国は小さくそれほど豊かでもなく、特別魅力を湛えた交易の材があるわけでもなかった。
森から国を、そして国民を守るために王国の周りには巨大な石造りの外壁が聳え、諸外国に比べれば狭い箱庭のような壁の内側に人々が住んでいる。
そこは平和で、穏やかで、まるで世界から取り残された御伽噺のように、時間の流れが止まったような王国で人々は暮らしている。
何故、その国が深い森の中にあるのか。
何故、諸外国との交流を積極的に進めないのか。
小さな国の温厚な人々には、疑問すら湧かない。
だから。
その国は平和なのだった。
連綿と続く長い歴史が、それを証明している。遠い過去から続く王族の家系には一切の乱れもなく繋がり続け、そしてこの国は戦火に巻き込まれたことも一度もない。
王国の名は、ヴィダル。
辺境の、忘れ去られたような国である。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる