ルート・オブ・アッシュの見習い魔女(王国ヴィダルの森の中)

有栖川 款

文字の大きさ
22 / 31
王国の歴史とドラゴン使い

王国の歴史とドラゴン使い

しおりを挟む

 ラシルが目を覚ますと、アシュランが覗き込んでいた。
「ああっ! あ、アシュラン様……」
「よかった、気がついて」
 アシュランはほっとしたように微笑んだ。気づくとずっとラシルの手を握っていたようで、アシュランの手のぬくもりが馴染んでいる。
「あ、あ、あのぅ…わたし、どうしちゃったんですか」
 手を離してほしい、と言いたいのに言えず違うことを聞いてしまった。いや、本当は離してほしいとは思っていないのだが。何というかいたたまれないというか。単に恥ずかしいというか。でも、決して嫌なわけではなく、嬉しいと感じる自分が恥ずかしいのか。
「気を失って倒れたんだよ」
「…はあ、それは何となく…」
 どうしてそんなことになったのか、と考えて思い出した。ラシルはずっと見習いの魔女だと思ってきたが、実は魔女ではなくドラゴン使いだったと、そう言われたのだ。
 でもでも。
「あのぅ、アシュラン様?」
「何だい?」
 アシュランは、婚約者云々の時からラシルが王子様、ではなくアシュラン様、と言い始めたことに気をよくしていた。王子様というのはただの名詞であって固有名詞ではない。御伽噺の王子の域から抜け出せない感じがして気にかかっていた。
 だから、ラシルの中で、アシュランの存在がやっと現実的になったような。その程度の自信なのが残念といえば残念だが。
 ラシルはそんな王子の気持ちを知ってか知らずか、というか間違いなく知らないだろうが、混乱した頭を整理するためにも、ちっとも理解できていなかったことを訊いた。
「あのぅ…ドラゴン使いって、何ですか?」
 がくっと頭を垂れたアシュランは、深く溜息をついた。
「…そこから説明が要るのか…」
 そう呟くと気を取り直したように微笑み顔を上げた。
「体調はどう? 大丈夫なら、それも含めて父上から説明してもらうよ」
 父上、という言葉でやっとラシルは今自分がいる場所が森の中ではないことに気づいた。見渡す部屋は白い壁がぐるりと囲んでいて、調度品も豪奢な高級そうなものばかり。
「ここは―――…お城、ですか?」
 城の客間のような部屋のベッドに寝かされていたようだ。
「うん、そう。王国ヴィダルの王城だよ」
 ということは、わたしはどれだけ気を失っていたんだろう、とラシルは思った。あの広場から何日も歩かなければいけない森の奥。
 アシュランはラシルの疑問を感じ取ったようで、くすりと小さく笑った。
「あれから一日も経ってないよ。ラシルの師匠リコ様が魔法で俺たちを運んでくれたからね」
「あ、そうか…お師匠様も、来てたんだ…」
 そしてラシルがドラゴン使いだと告げたのは、他でもない師匠だった筈だ。
 ラシルは、何とか整理がつき始めた頭を軽く振って、アシュランを見つめ返してにっこり笑った。
「体調は大丈夫です。王様のところに連れて行ってください」
 アシュランはうん、とやさしく頷いた。握ったラシルの手をそのまま引き上げて立ち上がるのを手伝うと、部屋を出て並んで歩く。
 廊下を歩きながらラシルはあっと声を上げた。
「どうしたの」
「あああ、王国ヴィダルの城門を見たかったのにー」
 再びがくっと頭が下がるアシュラン。確かに他の国ではそう見かけない、国をぐるりと囲む巨大な外壁は一見の価値はある。
 しかし。
「そんなの、いつでも見られるよ」
 何でもない口調でそっけなく言う。
「本当ですかぁ?」
 ラシルは疑惑の目を向ける。
 アシュランは、ずっとこの国にいればね、と小さな声で呟いてみるが当然ラシルには聞こえなかったようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...