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王国の歴史とドラゴン使い
王国の歴史とドラゴン使い
しおりを挟むラシルが目を覚ますと、アシュランが覗き込んでいた。
「ああっ! あ、アシュラン様……」
「よかった、気がついて」
アシュランはほっとしたように微笑んだ。気づくとずっとラシルの手を握っていたようで、アシュランの手のぬくもりが馴染んでいる。
「あ、あ、あのぅ…わたし、どうしちゃったんですか」
手を離してほしい、と言いたいのに言えず違うことを聞いてしまった。いや、本当は離してほしいとは思っていないのだが。何というかいたたまれないというか。単に恥ずかしいというか。でも、決して嫌なわけではなく、嬉しいと感じる自分が恥ずかしいのか。
「気を失って倒れたんだよ」
「…はあ、それは何となく…」
どうしてそんなことになったのか、と考えて思い出した。ラシルはずっと見習いの魔女だと思ってきたが、実は魔女ではなくドラゴン使いだったと、そう言われたのだ。
でもでも。
「あのぅ、アシュラン様?」
「何だい?」
アシュランは、婚約者云々の時からラシルが王子様、ではなくアシュラン様、と言い始めたことに気をよくしていた。王子様というのはただの名詞であって固有名詞ではない。御伽噺の王子の域から抜け出せない感じがして気にかかっていた。
だから、ラシルの中で、アシュランの存在がやっと現実的になったような。その程度の自信なのが残念といえば残念だが。
ラシルはそんな王子の気持ちを知ってか知らずか、というか間違いなく知らないだろうが、混乱した頭を整理するためにも、ちっとも理解できていなかったことを訊いた。
「あのぅ…ドラゴン使いって、何ですか?」
がくっと頭を垂れたアシュランは、深く溜息をついた。
「…そこから説明が要るのか…」
そう呟くと気を取り直したように微笑み顔を上げた。
「体調はどう? 大丈夫なら、それも含めて父上から説明してもらうよ」
父上、という言葉でやっとラシルは今自分がいる場所が森の中ではないことに気づいた。見渡す部屋は白い壁がぐるりと囲んでいて、調度品も豪奢な高級そうなものばかり。
「ここは―――…お城、ですか?」
城の客間のような部屋のベッドに寝かされていたようだ。
「うん、そう。王国ヴィダルの王城だよ」
ということは、わたしはどれだけ気を失っていたんだろう、とラシルは思った。あの広場から何日も歩かなければいけない森の奥。
アシュランはラシルの疑問を感じ取ったようで、くすりと小さく笑った。
「あれから一日も経ってないよ。ラシルの師匠リコ様が魔法で俺たちを運んでくれたからね」
「あ、そうか…お師匠様も、来てたんだ…」
そしてラシルがドラゴン使いだと告げたのは、他でもない師匠だった筈だ。
ラシルは、何とか整理がつき始めた頭を軽く振って、アシュランを見つめ返してにっこり笑った。
「体調は大丈夫です。王様のところに連れて行ってください」
アシュランはうん、とやさしく頷いた。握ったラシルの手をそのまま引き上げて立ち上がるのを手伝うと、部屋を出て並んで歩く。
廊下を歩きながらラシルはあっと声を上げた。
「どうしたの」
「あああ、王国ヴィダルの城門を見たかったのにー」
再びがくっと頭が下がるアシュラン。確かに他の国ではそう見かけない、国をぐるりと囲む巨大な外壁は一見の価値はある。
しかし。
「そんなの、いつでも見られるよ」
何でもない口調でそっけなく言う。
「本当ですかぁ?」
ラシルは疑惑の目を向ける。
アシュランは、ずっとこの国にいればね、と小さな声で呟いてみるが当然ラシルには聞こえなかったようだった。
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