27 / 31
真実の縁談
真実の縁談3
しおりを挟む話が大体終わったので、もういいかなとアシュランが口を開いた。
「だからね、ラシル? つまり俺と結婚するかどうかっていう話なんだけど」
「ええ!?」
いきなりアシュランが投げた爆弾に、ラシルはのけぞった。近い近い、さっきより近づいてます!
「ラシル……話、聞いてた?」
「聞いてましたよ!」
だからもうちょっと離れてください、とラシルの内面の動揺は伝わらない。
っていうか、わたし、一体どうしてアシュラン様と二晩も! 同じベッドで、寝るなんてことができたんだろう! 今頃思い出しても顔が熱くなる。しかもただ同じベッドの上だったというだけではない。だ、だ、だ、抱きしめられたみたいに寄り添って―――今なら無理! 耐えられない!
「お見合いをするなら、結婚するかしないかしかないんだけど…」
ふてくされたようなアシュランにラシルははっとした。
「でも、アシュラン様、わたしたち、まだお見合いしてませんけど」
「えー? そういう問題?」
「ち…違いますか?」
違うよ、とアシュランは言い捨てた。
「だって何度もお見合いするより、ラシルとはずっとたくさん話をしたし一緒にもいたでしょ? 俺としてはそれで十分なんだけど」
ええ、ちょっと待ってちょっと待って。
ラシルはもう慌てふためいて師匠に救いを求める。
「…お師匠様、お見合いって、すぐ返事しなきゃいけないんですか!?」
「…そうね、時と場合によると思うけど、この場合早い方がいいんじゃない?」
師匠は面白そうに言うが、ちょっとさみしそうな顔にも見えるのは気のせいか。ラシルがそう思いたいだけなのか。
「っていうかさぁ、あなたがアシュラン王子を好きか嫌いかでいいんじゃないの? 好きなのに結婚しないなんていう話はないでしょ」
それがわからないから聞いてるんですー! とは口に出しては言えない。だってラシルは恋をしたことがなくて、人を好きになるってどういうことなのかわからなくて。
とはいえ。
ラシルが自分の気持ちをわからないのに、周りはみんなわかっているようなのは何故なの? 大人だから?
「…あの、わたし、ドラゴンを森に返してきますっ!」
とりあえず問題を先送りにして、早急に対処するべきことから取り組むことにした。
ラシルは急いで立ち上がって、逃げるように部屋を飛び出した。
ドアを開ける時に廊下と部屋の絨毯の切り替えに躓いて転んだのは、まあラシルらしいことで、おそらく城門まで行くにも何度転ぶか躓くか、想像するに難くない。
「ラシルが一人で門まで行けるとは思えないので、もちろん俺はついていきますけど…念のため、薬師を呼んでおきましょうかね」
呟いたアシュランに、リコもメンディスも真面目な顔でお願いします、と頭を下げた。
*
王の執務室を慌てて飛び出したはいいが、右も左もわからない王城にいることを今更のように思い出した。
「うう、どうしてこんなに落ち着きがなくて、慌てんぼうなんだろう、わたし…」
泣きそうになるそんな顔も、眼鏡が要らなくなったラシルでは輝いて見える。廊下を歩く王城内外の人々が、男女問わず皆誰だろうかと興味津々といった体でラシルを見ていた。
「…とりあえず、誰かに聞けばいいでしょうか」
と、顔を上げて歩き出そうとすると、目の前を塞がれた。
「あ…ベルナールさん!」
森の中では黒尽くめだった彼も、今はもう側近らしい服装になっている。
いつもは冷静な既婚者ベルナールも、ラシルの愛らしい笑顔に、ほんの一瞬動揺を見せた。
「ラシル様…迷子になるといけませんので、アシュラン様がいらっしゃるまでお待ちください」
「え、ええ? アシュラン様、来るんですか?」
「…追いかけてこないと思いますか?」
「思いません…」
アシュランの性格で、そしてラシルの性質を知っていれば来ないわけはないが。そもそもアシュランと一緒にいるのがいたたまれないから出てきたのに!
ベルナールはにっこりと、けれど静かにラシルの行く手を阻んでいるので、ラシルはもう動けない。
どちらにしても、誰の手も借りずに城門まで向かうのは無理があるだろう。だとすればアシュランの方がずっといい。それに二人になれるのなら、もう少し落ち着いて話ができるかもしれないし。
そう思っていると程なくアシュランがやってきた。
「本当に無謀だね、ラシルは」
「…ごめんなさい」
ほら行くよ、と何でもないようにラシルの手を取って歩き始めた。
廊下ですれ違う人々は、さすがに王子と歩いていると不躾な視線こそ投げてはこないが、反対にこそこそ覗き見るようでアシュランは却って不機嫌になった。
「お前たち、そんなにじろじろ見るなよ! これは、俺のお嫁さんだから!」
誰にともなくそう叫ぶと、あちこちからきゃあっと甲高い歓声が上がった。体のいい噂話を提供したようだ。
「あ、あの! …お嫁さんって…」
「俺がもう決めた。ラシルには選択権はないしね」
「ど、どうしてですか?」
わたしにだって選ぶ権利はある! などと声高に言いたいわけではない。恥ずかしいだけなのだから。ただ、アシュランがラシルを…好きだと思ってくれてるのか、それが不安なのだと気づいた。
「ラシルがドラゴン使いの末裔だということは、ばれると命を狙われる恐れもあるってことだよ。そうなればどっちにしても守れるのはヴィダルしかないし…それなら国でかごの鳥になるよりは、俺と結婚すればいい話じゃないの。ラシルは、そんなに嫌なの?」
俺と結婚するのが。
拗ねたように訊かれて、はっとした。
「嫌じゃありません!」
咄嗟に反論して、にやっと笑ったアシュランにしまった、と思うがもう遅い。
「そうか、わかったぞ」
アシュランは何か気づいたような顔をして、
「何がですか?」
とラシルは訊いたが、でもあとで、とはぐらかされた。
城門は、王城からそう離れてはいなかった。
空に届きそうな高い外壁が聳え立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる