ルート・オブ・アッシュの見習い魔女(王国ヴィダルの森の中)

有栖川 款

文字の大きさ
29 / 31
王子の求婚

王子の求婚2

しおりを挟む

 城に帰ると、師匠とメンディスはもう帰り支度をしていた。通されていた客間にいるというので直接そちらに向かうと、今にも出発しそうな準備万端といった態度だ。尤も、魔法か箒かメンディスかでひとっ飛びなわけだから、帰るのは簡単だ。
「お師匠様、もう帰るんですか?」
「そうよー。用事も終わったし、ラシルも片付いたし、早く帰ってロマンスノベルの新作を読まなきゃいけないのよ」
「ええ、そんな理由?」
 ラシルも片付いたしって、粗大ゴミみたいに言わないで。とは思うが、以下略。
 まあ確かに師匠が何はさておき、メンディス以外で一番大事なのはロマンスノベルだって知ってますけど。
 でも本当は。
「あのぅ、お師匠様…わたしはどうしたら…」
「どうしたらって、あなた、結局アシュラン王子の求婚を受けたの?」
「…受けたというか…アシュラン様がみんなに言いふらしちゃったので、何となく決定しちゃったみたいな…」
 言葉を濁すと、師匠はええー? と眉を顰めた。
「駄目よそんなの。一生に一度のプロポーズをそんな曖昧にしちゃうなんて私の美意識が許さないわ。王子も私と同類だと思ったのに…何をやってるのかしら?」
 ちょっと王子は? などとその辺の侍女などに聞くものだから、みんなビビッてしまっている。
「アシュラン様は、王様のところに寄りましたけど…」
 もちろんそれはシルヴァのことを頼みに行ったのと、とりあえずシルヴァを部屋に隠しておくためだ。
 師匠の言葉を聞いて、ああ、アシュラン様も口癖のように美意識が美意識がって言ってたな、と思い出しておかしくなった。聞いたことがある気がしたのは師匠の口癖だったからか。そりゃあロマンスノベルが愛読書の師匠ならば、プロポーズのシチュエーションにはこだわりがあるだろう。
(…そう言えば、メンディスとは、どうだったのかな?)
 と、今まで気にも留めなかったことが気になった。普通の夫婦とは違うかもしれないけれど、事実上は変わらない大切なパートナーであることは間違いない。
 いつか機会があったら聞いてみよう、とラシルは思った。師匠では素直に話さないかもしれないから、駄目ならメンディスに。
「リコ様、お呼びですか?」
 アシュランが顔を出して、師匠が食って掛かろうとしたところではたと気づいた。
「あら。まぁ、いいじゃないの。そうよね、そうでなくっちゃ」
「そうでしょう? 義母上、義父上、どうか証人になってくださいね」
「オッケー!」
 軽く答える師匠に、ラシルが戸惑う。
(ええっと、今アシュラン様、お師匠様とメンディスのことを、義母上、義父上って言った?)
 そしてアシュランを見れば。
 さっきまで着ていた、王族にしてはラフな普段着とは違う、白い上下は光り輝くような光沢を放ち。知っているわけではないので自信はないが、おそらく肩に縫い付けられているのは王家の紋章だろう。国を挙げての正式な式典などでしか着ないような正装で、アシュランはラシルの前まで来ると、すっと跪いた。
「え、ええ!?」
 そしておもむろに片手でラシルの手を取ると、反対側の手を自分の胸に掲げ、厳かに告げた。
「私、王国ヴィダルの王子、アシュラン・ヴィダルは、ルート・オブ・アッシュの見習い魔女、ラシルに求婚します。――――受けていただけますね?」
 最後の最後だけちょっと悪戯っぽく笑って、ラシルを見上げた。
 ラシルは―――泣いてしまって、涙でもうアシュランの顔が見えなくなった。
「はい――――お受けします」
 ようやく声を発すると、よかった、と素の安堵が聞こえ、それから立ち上がったアシュランがラシルを抱きしめた。
「ありがとう、ラシル。…好きだよ」
 ああ、その言葉が聞きたかったんです、とラシルは思った。
「わたしも、アシュラン様が、大好きです」
 腕の中でそう言うと、しあわせにする、と力強い言葉が聞こえた。
 ゆっくりと腕を離しかけて――――今度こそ、アシュランはラシルの唇にキスをした。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

処理中です...