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王子の求婚
王子の求婚3
しおりを挟む「さあ、いいもの見れたし、もう帰ろうっと」
明るく言った割には、結構な長い時間が経っていたので、きっと師匠も泣いていたんだろうなと思ったが、それは言わないことにした。
「あのぅ、お師匠様…わたし、このままヴィダルにいないといけないんですか?」
プロポーズを受けたといっても今すぐ結婚するわけではないだろう。いろいろ準備とか、あるんじゃないの。
「あのね、うちからは支度金とか出せないし、その辺は王国が全部いいようにしてくれるって言うから、あなたはそれに従えばいいの。それにさあ、曲がりなりにも王太子妃、そしていずれは王妃になるんだからね? あなたのドジっぷりでは心配なんだけど! 結婚式までにみっちり花嫁修業をさせていただけるそうだから、頑張りなさい!」
「は、はい!」
でも、一度もルート・オブ・アッシュに帰れないのだろうか、といじましい気持ちはどうしても残る。
師匠は全部見透かしたように、言葉を続けた。
「言ったでしょう? ドラゴンを倒せなかったら、もう帰ってこなくていいわよって」
「ああ! あれってそういう意味だったんですか!?」
そういう意味も含んでたわよ、というのは馘首ということではなく、初めから嫁に出すつもりだったから。
でも、と師匠は意地悪く笑った。
「結婚した後だって、別にいつでも帰りたい時に里帰りすればいいでしょ。あなたの実家なんだから」
じゃあね、結婚式には呼んでよね、と後姿で手を振る。
「……お師匠様…!!」
その背中を追いかけて、師匠とメンディスの間に突撃して二人の背中に両手を回した。
「……ありがとう、お父さん、お母さん」
「…しあわせにね」
リコは振り返らない。
メンディスは、片手でがしがしとラシルの頭を撫でた。
「はい!」
そしてそのまま二人は、二度と振り返らなかった。
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