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22話 国葬
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神殿の中に入ると、それは厳かな空気を感じた。
式は始まっていて、祭壇の前には神官が立ち、おそらく、ありがたいお言葉を述べていた。大勢の人が参列していて、全員が喪服だ。
私とダンは、上の階に上がり、警備用の狭い通路から見下ろす。
「祭壇の前にいるのが、神官でもある皇太子だ。」
ダンの説明に、私は黙って耳を傾ける。
皇太子だという神官の男性を見る。まだ若い、20代前半に見える。
「式が終わったら、一人一人の名を刻む。これだけの人数だからなぁ。終わるまでには、だいぶ時間がかかる。あぁ。ほら、ジルはあそこだ。」
指差した方を見る。
祭壇の下に立つ、ジルを見つけた。
厳しい顔をしていて、キリッと立つ姿はカッコイイ。惚れ惚れしてしまう。
じっと見ていると、ジルが何かに気がついたような顔をした。彼の視線の方向を見ると、最前列に居た、喪服の女性がフラついているのが見えた。
ジルは、静かにその女性の所に向かう。
体調がすぐれないのか?彼は、女性の手を取り、支えるようにして、広場を出て行ってしまった。
その姿を見て、なぜだか、心臓をギュウっと掴まれたような気持ちになる。
ジルは女性を支えているだけなのに…何故だか、嫉妬のような感情をおぼえてしまった。
彼は騎士だ。人を助けたりするのは通常業務のはず。
そう、自分に言い聞かせていると、ダンが言った。
「あの女性は、ジルの親友のご夫人だ。この戦争で夫を亡くし、未亡人になった。」
…!
私は思わず、静かにダンの顔を見つめる。彼は、私を見つめて言った。
「ジルにとっては幼馴染で、親友の妻。」
「じゃぁ、ジルにとっては、大事な人ですね。大丈夫でしょうか?かなり、フラついていたし、顔色も悪かったみたい。」
「……」
私はふと思い出す。
「さっき、常備薬として、風邪薬と一緒に胃薬なども買ったんです。気分悪いなら効果あるかも!」
小さいバッグを開けて見せる。すると、ダンは私を見て、苦笑した。
「ミレイは、良いやつだなぁ。んじゃ、様子見に行くか?」
私達は、足早に廊下を歩いて行って、とある部屋の前まで来た。
扉は開いていて、中から声が聞こえてくる。女性の声だった。
「大丈夫よ。お医者様は必要ないわ。」
はぁっと、女性がため息をつく。そこへ、ジルが言った。
「しかし…顔色が良くない。アニエス、きちんと食事しているのか?夜は眠れているか?侍女はどうした?」
「……心配してくれるなら、どうして、うちに来てくれないの?」
女性の声は、責めると言うよりは、寂しそうな声だった。
「……」
その質問に、ジルは何も答えない。
「ねぇ、ジル。今日の葬儀には来てくれるのよね?」
「…当たり前だろう?」
「それなら、その時に少し話をしたいの。2人きりで。」
「アニエス、それは…」
「ジル!お願いよ!私…」
「ウオッホン!」
その時、私の後ろに立っていたダンが咳払いをする。
私は、ビクーーーッ!!と背中の毛が逆立つほどに驚いた。見上げると、ダンは一歩前に踏み出しながら言った。
「失礼します!隊長。」
ダンは、そう言って、私に目配せして、扉の前に出るように視線を動かす。
えー?っとたじろぎながらも、私は開いている扉の前に立った。
部屋の中を見ると、綺麗な女性が座っていて、その前にはジルがいて、こちらを見ていた。
「…ミレイ?」
ジルは驚いた顔をする。まぁ、そうだよね。
「お、お疲れ様です…」
私は思わず、職場での挨拶わわしてしまう。そして、どうしたら良いものかと、ダンの方に視線を移す。すると、彼は私をチラリと見てから、ジルの方に視線を移して言った。
「隊長、ミレイが薬を持っているから、もし気分が悪いなら胃薬はどうか?と、言うので連れてきました。」
ジルは、ホッとしたように顔を緩めた。
「そうか。ありがとう。では、その薬を…」
「必要ないわ!病気ではないのよ。すぐに治るから、本当に心配いらないの。」
そう言った女性の手が、お腹をさすった。
病気では無い。医者は必要ない。その様子から、なんとなく…女の感が働く。
私は、なんとなく、ピンときた。
「あの…その格好では、体が冷えてしまうのでは?この建物は冷えますし、良かったら、このショールをどうぞ。」
昨日買ってもらったばかりのショールだし、綺麗めだと思う。サラリとぬいで、女性の近くに行く。
座っている女性の膝に、ショールを置きながら、私は小声で聞いた。
「…おなか、大丈夫そうですか?」
アニエスは、ミレイから渡されたショールを、お腹に引き寄せた。
あまりに美しい人だったので、見惚れてしまう。けれど、この女性は細くて華奢過ぎる。私まで心配になる程だ。
「私の勘違いだったらごめんなさい。でも…もし、その……妊娠…しているなら…」
「黙ってちょうだい!」
アニエスは、ミレイの言葉を遮った。
「…妊娠?」
ジルの顔が驚きのあまりに、目が見開かれる。
そして、アニエスの前に跪くと、彼女の腕を掴んだ。
「アニエス!そうなのか?…子供が、お腹に、子がいるのか?」
アニエスは困惑した顔をした。目を泳がせて、言いにくそうにする。
「アニエス?」
ジルが、必死に問い詰めると、アニエスは観念したように、目を閉じて、大きく息をつくと頷いた。
「…ええ。そうよ。お腹に子供がいるの。今、4ヶ月目よ。」
ジルは、ぱぁっと、目を輝かせた。
式は始まっていて、祭壇の前には神官が立ち、おそらく、ありがたいお言葉を述べていた。大勢の人が参列していて、全員が喪服だ。
私とダンは、上の階に上がり、警備用の狭い通路から見下ろす。
「祭壇の前にいるのが、神官でもある皇太子だ。」
ダンの説明に、私は黙って耳を傾ける。
皇太子だという神官の男性を見る。まだ若い、20代前半に見える。
「式が終わったら、一人一人の名を刻む。これだけの人数だからなぁ。終わるまでには、だいぶ時間がかかる。あぁ。ほら、ジルはあそこだ。」
指差した方を見る。
祭壇の下に立つ、ジルを見つけた。
厳しい顔をしていて、キリッと立つ姿はカッコイイ。惚れ惚れしてしまう。
じっと見ていると、ジルが何かに気がついたような顔をした。彼の視線の方向を見ると、最前列に居た、喪服の女性がフラついているのが見えた。
ジルは、静かにその女性の所に向かう。
体調がすぐれないのか?彼は、女性の手を取り、支えるようにして、広場を出て行ってしまった。
その姿を見て、なぜだか、心臓をギュウっと掴まれたような気持ちになる。
ジルは女性を支えているだけなのに…何故だか、嫉妬のような感情をおぼえてしまった。
彼は騎士だ。人を助けたりするのは通常業務のはず。
そう、自分に言い聞かせていると、ダンが言った。
「あの女性は、ジルの親友のご夫人だ。この戦争で夫を亡くし、未亡人になった。」
…!
私は思わず、静かにダンの顔を見つめる。彼は、私を見つめて言った。
「ジルにとっては幼馴染で、親友の妻。」
「じゃぁ、ジルにとっては、大事な人ですね。大丈夫でしょうか?かなり、フラついていたし、顔色も悪かったみたい。」
「……」
私はふと思い出す。
「さっき、常備薬として、風邪薬と一緒に胃薬なども買ったんです。気分悪いなら効果あるかも!」
小さいバッグを開けて見せる。すると、ダンは私を見て、苦笑した。
「ミレイは、良いやつだなぁ。んじゃ、様子見に行くか?」
私達は、足早に廊下を歩いて行って、とある部屋の前まで来た。
扉は開いていて、中から声が聞こえてくる。女性の声だった。
「大丈夫よ。お医者様は必要ないわ。」
はぁっと、女性がため息をつく。そこへ、ジルが言った。
「しかし…顔色が良くない。アニエス、きちんと食事しているのか?夜は眠れているか?侍女はどうした?」
「……心配してくれるなら、どうして、うちに来てくれないの?」
女性の声は、責めると言うよりは、寂しそうな声だった。
「……」
その質問に、ジルは何も答えない。
「ねぇ、ジル。今日の葬儀には来てくれるのよね?」
「…当たり前だろう?」
「それなら、その時に少し話をしたいの。2人きりで。」
「アニエス、それは…」
「ジル!お願いよ!私…」
「ウオッホン!」
その時、私の後ろに立っていたダンが咳払いをする。
私は、ビクーーーッ!!と背中の毛が逆立つほどに驚いた。見上げると、ダンは一歩前に踏み出しながら言った。
「失礼します!隊長。」
ダンは、そう言って、私に目配せして、扉の前に出るように視線を動かす。
えー?っとたじろぎながらも、私は開いている扉の前に立った。
部屋の中を見ると、綺麗な女性が座っていて、その前にはジルがいて、こちらを見ていた。
「…ミレイ?」
ジルは驚いた顔をする。まぁ、そうだよね。
「お、お疲れ様です…」
私は思わず、職場での挨拶わわしてしまう。そして、どうしたら良いものかと、ダンの方に視線を移す。すると、彼は私をチラリと見てから、ジルの方に視線を移して言った。
「隊長、ミレイが薬を持っているから、もし気分が悪いなら胃薬はどうか?と、言うので連れてきました。」
ジルは、ホッとしたように顔を緩めた。
「そうか。ありがとう。では、その薬を…」
「必要ないわ!病気ではないのよ。すぐに治るから、本当に心配いらないの。」
そう言った女性の手が、お腹をさすった。
病気では無い。医者は必要ない。その様子から、なんとなく…女の感が働く。
私は、なんとなく、ピンときた。
「あの…その格好では、体が冷えてしまうのでは?この建物は冷えますし、良かったら、このショールをどうぞ。」
昨日買ってもらったばかりのショールだし、綺麗めだと思う。サラリとぬいで、女性の近くに行く。
座っている女性の膝に、ショールを置きながら、私は小声で聞いた。
「…おなか、大丈夫そうですか?」
アニエスは、ミレイから渡されたショールを、お腹に引き寄せた。
あまりに美しい人だったので、見惚れてしまう。けれど、この女性は細くて華奢過ぎる。私まで心配になる程だ。
「私の勘違いだったらごめんなさい。でも…もし、その……妊娠…しているなら…」
「黙ってちょうだい!」
アニエスは、ミレイの言葉を遮った。
「…妊娠?」
ジルの顔が驚きのあまりに、目が見開かれる。
そして、アニエスの前に跪くと、彼女の腕を掴んだ。
「アニエス!そうなのか?…子供が、お腹に、子がいるのか?」
アニエスは困惑した顔をした。目を泳がせて、言いにくそうにする。
「アニエス?」
ジルが、必死に問い詰めると、アニエスは観念したように、目を閉じて、大きく息をつくと頷いた。
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ジルは、ぱぁっと、目を輝かせた。
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