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第8話 記憶を失う6日前
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2人で黙って廊下を歩きながら、考える。
この家に来てから、義父はずっと優しかった。あんな風に、怒鳴ったりした所を見たことが無かった。
しかし、ルナルドは言う。
「気にしなくていい。リリアナたちが来るまでは、父はあんな感じだったんだ。母に家を出て行かれてから、父は、世間を見返すために、俺に、全て完璧で全てにおいて誰にも負けず、優秀であることを求めてきた。」
ルナルドは、あまりに厳しく育てられて、ずっと、父からは愛されていないと感じていた。周囲から認められても、称賛されても、それは、自分が優秀であるから認められるだけで、常に努力して1番でなければ、存在価値が無いのだとすら思っていた。
「覚えている?リリアナは、言ってくれたんだ。」
学校の期末試験の3日前から、ルナルドは高熱を出した事があった。
まだ、11歳だったリリアナは、何度もルナルドの部屋に訪れては、飲み物や、お気に入りのぬいぐるみを持ってやって来た。
朦朧とする中で、ベッドから起き上がり、ルナルドは机に向かった。
「勉強・・・しなきゃ・・・もう、3日も・・してない。」
ペンを掴むと、リリアナがそのペンを奪った。
「お兄様ダメ!寝てなきゃダメ!」
「・・・邪魔するな。あっちに行け!」
リリアナは、ルナルドの脇腹を掴んで、椅子から引きずり降ろそうとする。
「3日も、お熱出てるんだよ?ダメだよ!お勉強の何が、そんなに大事なの?明日のテストなんて、お休みしなきゃダメだよ!」
いつも、のんきなリリアナを、疎ましく思いながらも、これまでは優しくしてきた。それは、完璧な兄を演じる為だった。完璧でなければならない。常に、人としても完璧な紳士でなければならない。
だけど、その時は、そんな余裕が無かった。
「うるさい!テストを休んだら、何もかも終わりだ!常に1番じゃなきゃ・・・お前には解らない!」
はじめてだったと思う。リリアナに怒ったのも、それから、リリアナが怒ったのも。
「解んないよ!お兄様の体より大事なものなんて、無いもの!お勉強も、武道も、なにもかも、どうでもいいよ!頑張らなくていいよ!お兄様が元気で、笑っててくれるだけで、私は、それだけでいいもん!!」
ルナルドは、自分の心臓が、ドクンと鼓動するのを感じた。
「なんで、そんなに勉強するの?なんで、そんなに1番じゃ無きゃダメなの?なんで、文句の1つも言わないの?1番じゃなくて良い!完璧じゃなくていい!私はお兄様が大好きだから、もっと仲良くなりたいし、嫌いな物とか苦手な物も知りたい!夜遅くまで、すっごく頑張ってるの知ってるけど、でも、もう大丈夫だよ!そこまでしなくても、大丈夫だよ!絶対、大丈夫だよ!」
その、大丈夫という言葉が、ルナルドの心を打った。
リリアナは、熱で3日お風呂に入っていない俺でも、好きだと言って、同じ布団に入って来た。
結局テストを受けれなくて、結果が出せなくても、そんなことは、どうでもいいと言う。
笑って傍にいてくれればいいと、元気になってよかったと、それだけでいいと、言ってくれた。
理由なんてない。ただ、存在だけを認めてくれる。
リリアナの傍だけが、安心して自分のままでいられる場所だった。
「だから、何があっても一緒にいたい。必ず、父上を説得するから。」
ぎゅうっと手を握りしめて、見つめ合った。
リリアナは頷いて、言った。
「うん。私達のお父様だもの。きっと話せばわかってくれるわ。」
相変わらずの楽観的なリリアナの言葉に、ルナルドは信じてみようと思った。
血の繋がった父親なのだ。リリアナがそうしてくれたように、息子である自分の幸せを願ってくれる気持ちが、きっとどこかに有るはず。
話せばわかってくれる。きっと、自分の幸せを理解してくれるはず。そう信じた。
しかし、次の日。
2人が学校に行くと、父の伯爵は、執事やメイドに問い詰めた。すると、頻繁に2人で外出したり、部屋で2人きりになることが多かったことを知る。
「お前達!なぜ報告しなかった?!血の繋がらない兄妹が、おかしいとは思わなかったのか!その最近行ったという本屋に行く!馬車を出せ!」
伯爵は地下室のある本屋に行き、店主の話を聞いた。そして、2人が来ても、もう二度と部屋を貸さないようにキツく約束をした。
伯爵は頭を抱えた。
2人は、取り返しのつかない関係にまで行っているのだと、思えた。
やっと手にした、安定した幸せと、自慢の息子。他の貴族たちからも、是非にルナルドとの婚約をと言われて、優越感を得ていた。
王城で働く事になれば、もしかすると、王族との姻戚関係もあるかもしれないと、噂すらされていた。
それを・・・これからだというのに・・・!
伯爵は、早くなんとかしなくてはと、焦った。
そして、下働きに指示を出した。
「ルナルドにもリリアナにも、何も知らせるな!」
その計画は、実行されたのである。
リリアナとルナルドは、一緒に学校から帰ってくるなり、父親に怒鳴られた。
「おまえたち!同じ馬車に乗って帰って来たのか!別々の馬車になしなさい!」
ルナルドは、平常心で答えた。
「父上。同じ時間に授業が終わって、馬車が別だなんて、返って人に不思議がられます。」
リリアナも言った。
「お義父様。今日、少しお話したいのですが、お時間いただけませんか?」
義父は、リリアナを睨んでから首を振る。
「私は忙しいんだ。」
「それでは、晩餐の時に、少しお話を聞いて頂けますか?」
リリアナが、できるだけ穏やかに言うと、義父は、黙って部屋に戻ってしまった。
それっきり、部屋から出て来ることは無く、顔を合わせる事は無かった。
この家に来てから、義父はずっと優しかった。あんな風に、怒鳴ったりした所を見たことが無かった。
しかし、ルナルドは言う。
「気にしなくていい。リリアナたちが来るまでは、父はあんな感じだったんだ。母に家を出て行かれてから、父は、世間を見返すために、俺に、全て完璧で全てにおいて誰にも負けず、優秀であることを求めてきた。」
ルナルドは、あまりに厳しく育てられて、ずっと、父からは愛されていないと感じていた。周囲から認められても、称賛されても、それは、自分が優秀であるから認められるだけで、常に努力して1番でなければ、存在価値が無いのだとすら思っていた。
「覚えている?リリアナは、言ってくれたんだ。」
学校の期末試験の3日前から、ルナルドは高熱を出した事があった。
まだ、11歳だったリリアナは、何度もルナルドの部屋に訪れては、飲み物や、お気に入りのぬいぐるみを持ってやって来た。
朦朧とする中で、ベッドから起き上がり、ルナルドは机に向かった。
「勉強・・・しなきゃ・・・もう、3日も・・してない。」
ペンを掴むと、リリアナがそのペンを奪った。
「お兄様ダメ!寝てなきゃダメ!」
「・・・邪魔するな。あっちに行け!」
リリアナは、ルナルドの脇腹を掴んで、椅子から引きずり降ろそうとする。
「3日も、お熱出てるんだよ?ダメだよ!お勉強の何が、そんなに大事なの?明日のテストなんて、お休みしなきゃダメだよ!」
いつも、のんきなリリアナを、疎ましく思いながらも、これまでは優しくしてきた。それは、完璧な兄を演じる為だった。完璧でなければならない。常に、人としても完璧な紳士でなければならない。
だけど、その時は、そんな余裕が無かった。
「うるさい!テストを休んだら、何もかも終わりだ!常に1番じゃなきゃ・・・お前には解らない!」
はじめてだったと思う。リリアナに怒ったのも、それから、リリアナが怒ったのも。
「解んないよ!お兄様の体より大事なものなんて、無いもの!お勉強も、武道も、なにもかも、どうでもいいよ!頑張らなくていいよ!お兄様が元気で、笑っててくれるだけで、私は、それだけでいいもん!!」
ルナルドは、自分の心臓が、ドクンと鼓動するのを感じた。
「なんで、そんなに勉強するの?なんで、そんなに1番じゃ無きゃダメなの?なんで、文句の1つも言わないの?1番じゃなくて良い!完璧じゃなくていい!私はお兄様が大好きだから、もっと仲良くなりたいし、嫌いな物とか苦手な物も知りたい!夜遅くまで、すっごく頑張ってるの知ってるけど、でも、もう大丈夫だよ!そこまでしなくても、大丈夫だよ!絶対、大丈夫だよ!」
その、大丈夫という言葉が、ルナルドの心を打った。
リリアナは、熱で3日お風呂に入っていない俺でも、好きだと言って、同じ布団に入って来た。
結局テストを受けれなくて、結果が出せなくても、そんなことは、どうでもいいと言う。
笑って傍にいてくれればいいと、元気になってよかったと、それだけでいいと、言ってくれた。
理由なんてない。ただ、存在だけを認めてくれる。
リリアナの傍だけが、安心して自分のままでいられる場所だった。
「だから、何があっても一緒にいたい。必ず、父上を説得するから。」
ぎゅうっと手を握りしめて、見つめ合った。
リリアナは頷いて、言った。
「うん。私達のお父様だもの。きっと話せばわかってくれるわ。」
相変わらずの楽観的なリリアナの言葉に、ルナルドは信じてみようと思った。
血の繋がった父親なのだ。リリアナがそうしてくれたように、息子である自分の幸せを願ってくれる気持ちが、きっとどこかに有るはず。
話せばわかってくれる。きっと、自分の幸せを理解してくれるはず。そう信じた。
しかし、次の日。
2人が学校に行くと、父の伯爵は、執事やメイドに問い詰めた。すると、頻繁に2人で外出したり、部屋で2人きりになることが多かったことを知る。
「お前達!なぜ報告しなかった?!血の繋がらない兄妹が、おかしいとは思わなかったのか!その最近行ったという本屋に行く!馬車を出せ!」
伯爵は地下室のある本屋に行き、店主の話を聞いた。そして、2人が来ても、もう二度と部屋を貸さないようにキツく約束をした。
伯爵は頭を抱えた。
2人は、取り返しのつかない関係にまで行っているのだと、思えた。
やっと手にした、安定した幸せと、自慢の息子。他の貴族たちからも、是非にルナルドとの婚約をと言われて、優越感を得ていた。
王城で働く事になれば、もしかすると、王族との姻戚関係もあるかもしれないと、噂すらされていた。
それを・・・これからだというのに・・・!
伯爵は、早くなんとかしなくてはと、焦った。
そして、下働きに指示を出した。
「ルナルドにもリリアナにも、何も知らせるな!」
その計画は、実行されたのである。
リリアナとルナルドは、一緒に学校から帰ってくるなり、父親に怒鳴られた。
「おまえたち!同じ馬車に乗って帰って来たのか!別々の馬車になしなさい!」
ルナルドは、平常心で答えた。
「父上。同じ時間に授業が終わって、馬車が別だなんて、返って人に不思議がられます。」
リリアナも言った。
「お義父様。今日、少しお話したいのですが、お時間いただけませんか?」
義父は、リリアナを睨んでから首を振る。
「私は忙しいんだ。」
「それでは、晩餐の時に、少しお話を聞いて頂けますか?」
リリアナが、できるだけ穏やかに言うと、義父は、黙って部屋に戻ってしまった。
それっきり、部屋から出て来ることは無く、顔を合わせる事は無かった。
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