女神なんかじゃない

月野さと

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57話 3人の時間

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 その日は、アーサーと、サラと、ルカと3人で一緒に過ごした。

 陛下は、はしゃぐルカと遊んで、たくさんルカの話を聞いて、夕食を3人でとった。
 ルカの話は、母の料理で一番好きなモノ、好きな遊び、お気に入りの絵本、たわいもない話ばかりで、それでも、国王陛下は楽しそうにルカの話を聞いていた。

「かあさまの料理は、世界一美味しいよ♪ねぇ、かあさま!とうさまにも、作ってあげてよ!」
「サラの手料理か、食べてみたいな。」
「えっ?いいえ、恐れ多いです。ねぇ、ルカ。陛下は国一番の料理人が作ってる料理を召し上がってるのよ?かあさまの料理なんて、恥ずかしくてお出しできないわ。」
 もう、やめてよ~!とサラが慌てていると、アーサーは言った。
「サラ。気が向いた時で構わないから、私に作ってくれないか?」
 陛下は、少し恥ずかしそうに言う。そんな顔を見てしまうと、ダメとは言えずに・・・頷く。
「解りました。」
 私がそう了承すると、陛下は嬉しそうに笑った。
 その時の陛下の顔が、ルカにそっくりだった。 

 陛下は、強くて、優しくて、美しくて、可愛らしい人だった。

 たった1日、一緒に居ただけでも、陛下に惹かれる自分が居た。そして、ルカの様子を見ていると、やはり父親が必要だったのだと実感する。
 しきりに「とうさま!とうさま!」と陛下にまとわりつき、何から何まで質問攻めにして、今まで離れていた時間を一気に埋めるかのように、擦り寄っていた。
 ルカは、陛下に肩車をねだり、軽々と持ち上げられ、たくましい腕に抱きしめられて満たされた顔をした。何を聞いても真剣に答えてくれる。その考え方に触れて、その偉大さにルカは目を輝かせた。
 極めつけは、男同士でお風呂に入って帰って来た時には、すっかり母には解らない仲の良さになっていた。
 ルカは、陛下に夢中だった。

 国王陛下の優しい眼差し、私への思いやり、ルカへの慈しみを感じた。
 記憶は、欠片も戻らないけれど、ルカの父親がこんな素敵な人で良かったと思った。
 
 幸せだった。
 3人でゆっくり過ごす、この時間は幸せだった。 

 穏やかな時間はあっという間に過ぎて、
 夜は1つのベッドで、3人で眠った。

 安堵感に満たされる。

 私達を大事にしてくれてる。この人のことを、思い出したい。そう思えた。
 



 翌朝、アーサーは仕事の準備を始めた。

「今日も一緒にいたいが、政務があってな。2人はゆっくりしていろ。」
 ルカは、アーサーの後を追いかける。
「とーさま!一緒に行っていい?お仕事見たい!」

 そう駄々をこねて、ゴードンも良い機会でしょうと了承し、2人で行ってしまった。

 部屋には、侍女のテルマさんと私だけになり、私は思い切って聞いた。
「あの、私が記憶を無くす前のことを教えてください。」
 自分の知らない過去を聞くというのは、不思議な感覚で、少しの恐怖があった。

 テルマさんは、たくさん話をしてくれた。
 異世界からこの世界に来た時から、記憶を無くす前の事まで。
 だけど、その話は聞けば聞くほどに、物語の内容を聞かされているような気分だった。本当に何も覚えていない。自分の話とは、到底思えなかった。

「サラ様と陛下は、本当に相思相愛で、仲睦まじくしていらっしゃいました。」
 そう言われても、まったく想像がつかない。
 大国の王様で、あれほどに美しく高貴な人を目の前に、普通に緊張してしまう。以前はどんなふうに会話をしていたのだろうか?
 混乱する私をよそに、テルマさんは話を続けた。
「サラ様がいなくなられて、陛下は食事も睡眠もままならなくなり、本当にお辛そうでした。」
 ・・・数年たつのに、側室も妃も居ないという。陛下の雰囲気から、まだ私を想っていてくれるのは明白だ。
 そんなに愛した人から、覚えていないと言われて、彼はどんな気持ちだったろう?
 
 私自身、できることなら、思い出したい。

「サラ様。記憶が無くて不安かもしれませんが、私や他の人間が全てサポートしますから、どうか陛下の傍に居てあげてください。」
 テルマは、サラの手を握った。

 傍に居るだけでいい。ここに居るだけで良い。
 みんなが、そう言ってくれて、嬉しかった。ホッとした。

 けれども・・・。

 本当にそうなのだろうか?居るだけでいいわけ無いだろう。
 王妃ともなれば、しなければならない事がたくさんありそうだ。

 彼が、王様という立場だけではない。
 美しく、強く、優しく、こんなに魅力的な人が、私のどこが好きなのだろう?ここに居る全ての人が、今の私ではない、昔の私を慕っていて、彼も昔の私を愛しているんだ。
 今、私に向けられている愛情は、永遠に続くとは思えない。後宮が作られたと聞いた。陛下は1度もお渡りをしていないそうだけど、今後もそうとは限らない。
 そして、何よりも記憶を無くす前は、女神だった。私は価値のある人間だったんだろう。でも、今は何の力も無い。女神じゃなくなった私は、分をわきまえた方が良いのかもしれない・・・。

 ルカを置いて、出て行けと言われる日が、来るのかもしれない・・・。
 そんな事を考えて、落ち込む。




 その頃、
 ルカはアーサーの後を、追いかけて歩いていた。
 そして、しきりにカッコイイ!カッコイイ!と喜んだ。
「僕も父上のように、立派な王になる!」
 と、ポーズを決めている。
 ゴードンが笑いながら「我が国は安泰ですな」とご満悦だった。

 アーサーの膝の上に乗ったり、大臣たちにオヤツを貰ったり、騎士団たちに馬に乗せてもらったりしていた。

 お城の雰囲気が、急に賑やかになり、明るい雰囲気に包まれていた。



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