女神なんかじゃない

月野さと

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61話 騎士団長

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 後宮の女性に会った日の夜。
 アーサーはサラを抱かなかった。
 いつものように部屋にやってきて、一緒にベッドに横になると「おやすみ」と言っただけだった。
「・・・・」
 いやいや、決して物足りなかったわけじゃないし、毎日いたしたいわけでは無い!!だけど、どうして今日だったのだろう?とか、もう私に飽きたのではないか?とか、そんな事をモンモンと考えてしまって、眠れなかった。

 そこへ、ガチャリと部屋の扉が開く音がして、トテトテと子供の足音がした。程なくして、ベッド脇から「かあさま!かあさま、一緒に寝ていい?」と声がした。体を起こすと、ベッドが大きく軋んだ。
 陛下の低い声が響く。
「ルカ、3人で一緒に寝よう。おいで。」
「父上♪」
 ひょいっと、ルカが乗ってきて、サラとアーサーの間に入る。
 最初の日のように、3人で横になる。
 
 サラは暗闇の中で思った。
 本来なら、王子は1人で寝ないといけないのだろうと思う。こんな平民の子供のように甘やかしてはいけないのだろう。しかし、陛下は、私とルカを甘やかした。
 それが、心のよりどころになった。

 ルカと私は、今までずっと2人で1つの布団で寝て、狭い家で、肩寄せあって生きてきた。
 それを理解してくれているかのようだった。  
  
 


◇◇◇◇◇

 翌朝
 朝食を終えて、陛下は先に部屋を出ていった。
 程なくして、ゴードン宰相が部屋にやって来た。


「え?!ルカはまだ3歳なんですよ?」

 相変わらずの無表情で、ゴードンは言う。
「早すぎることはありません。文字の読み書きから始まり、乗馬や剣術まで教育は必須です。王子には強い魔力もありますから、そちらの教育も始めなければなりません。」
 専門の講師たちが、ズラリとゴードン宰相の後ろに並んでいた。
「また、ルカ王子には、言葉使いやマナーなども教育が必要です。平民と同じではなりません。王城に来られてから1ヵ月。そろそろ教育をはじめさせて頂きます。」
「でも・・・。」
 サラは、ルカに目を落とす。
 ルカも、サラを見上げる。
「かーさま、僕、おべんきょーするの?」

 その時、ゴードンの前に出てきたのは、レオンだった。
「そうですよ。お勉強です。」
 レオンは、ルカの目の前まで来ると、目の高さを合わせるように跪く。
「王子が、ご自分の力で母上を守れるように。お父上と同じように立派な王になる為にです。」
 ルカは、目を輝かせた。
「レオンが教えてくれるの?」
「残念ながら、講師は私では無いのですが、ご所望でしたら私がお教えしましょう。」
「うん!僕、レオンが良い!」
 さっさと環境に適応して、受け入れていくルカに、サラは戸惑いを隠せなかった。
 
「サラ様。」
 と、テルマが後ろから声をかける。
「国王陛下も、3歳頃から教育を受けられております。王族では普通の事なのです。大丈夫ですよ。」
「・・・そうなんですね。」
 そうして、教育してくれる講師たちの紹介を受けて、ルカは連れて行かれてしまった。


「ふぅ。」
 ソファーに座って、ため息をつく。
「サラ様、少しお休みになってはいかがですか?昨夜も陛下がいらして、お疲れなのでは?」
 そう言われて、赤面する。
「え?!あ、はい。大丈夫です!!」
 正直言って、眠い。昨日は何も無かったけれど、この1ヵ月、ほぼ毎日、陛下は私を抱いた。
 情に絆されて、受け入れているうちに、何か温かい感情が沸いてきて、不思議と嫌ではなかった。でも、愛しているかと聞かれると、そこまでは、分からなかった。

「・・・・私は、もう記憶が戻らないと思うんです。」
 ぼそりと呟く。 
「凄く優しくて、大事にしてくれるのに、愛されてるって解るのに。その想いに答えられない。」
 言い出したら、止まらなくなって、涙があふれてくる。
「私には自信がありません。後宮のご令嬢たちや、テルマさんや陛下や、他の方々たちの優しさや期待に応えることも、納得させることも、出来る気がしません。みんなが、どう思っているか、毎日毎日怖くて怖くて、逃げ出したくなる!」

 部屋を退出しようとしていた、講師の一人、アモン団長が立ち止まる。

「あの、サラ様。気分転換に、外に出ませんか?」

 


 誘われるままに、サラは厩に来ていた。

「ここは、城の後ろで、厩と放牧できる場所もあるんですよ。」
 お城の裏側、そこにはたくさんの馬たちが居た。
「うわぁ♪何ですか何ですか?この子は!!綺麗な白馬ですね!こっちは、黒い宝石のような毛並み!」
 サラは興奮した。町では見ないような、立派なサラブレットばかりだった。
 アモン団長は笑った。
「昔、サラ様をここへご案内した時も、喜ばれていたので、今も好みは変わらずで良かったです。」
「・・・昔の私?」
「はい。馬に乗ったことは無いと仰ってましたが、サラ様はなんにでも興味を持たれる方でしたから、楽しそうでした。」

「・・・馬、乗ってもいいですか?」
「え?」
「町で暮らすには必要だったので、今は1人で乗れるんですよ?」
 そうなのだ。ルカを産んでから練習した。馬車も動かせる。

 アモン団長と、少しだけ遠乗りをすることにした。

「驚きましたね。とてもお上手です!」
 褒められて、思いっきり走らせてみる。
 早いスピードで風を切る。
 気持ちが良くて、少しだけ心が晴れてくる。
 少し高台に出て、そこで足を止めた。広がる大地に目を移す。

「綺麗な国。街は大きくて、緑豊かで。」
 アモン団長が、それを聞いて笑う。
「サラ様のおかげです。あなたがこの国を守った。以前のあなたは、その女神の力でこの国を守ったんです。」
「・・・テルマさんから聞きました。何処のお伽話かと信じられません。だって、今の私は・・・。」

 アモン団長は、微笑む。
「何の力も持っていない。記憶もない。しかし、何も変わりません。大丈夫です。」
 サラは、アモン団長を見る。
「私たち騎士団は、生活魔法しか使えない者が多い。謙虚で現実的な人間が多いのは、魔法省に居る人間よりも劣っているように思う人間が多いからでしょう。実際、戦争になれば魔術師団の方が役に立つ。」

 誰かと自分を比べてしまう。そうゆう気持ち。すごく解る。

「しかし、不確かなものに囚われては、なりません。」
 アモン団長は馬から降りて、乗っていた馬にポンポンと手を当てる。
「騎士団は、精神を鍛えることから始まります。自分自身に負けては、出来ることも出来なくなる。不安は、不確かな物です。不安を強く感じたり、信じてしまえば現実となる。」
 サラは、自分自身に言い聞かせるように、聞いた。

 不安は、現実になる。

「過去にとらわれ過ぎず、諸先輩方の陰に縛られ過ぎず、失敗を恐れ過ぎず、未来に足をすくわれるようなことなど無いように。しっかりと地に足をつけて、前を見て歩いて行くのです。」

 囚われすぎない‥。

 サラは、向かい風を受けて、大きく深呼吸をする。
 胸いっぱいに新しい空気を入れて、吐き出した。
 そして、質問した。
「みんなの期待に応えられなくても?」

「人の期待や時代の風潮など、自分に吹く風です。いずれ、通り過ぎます。」

「風に乗るも良し、通り過ぎるのもよし?」

「そうゆうことです。」

「騎士は、凄いですね。強いなぁ。」

 アモン団長は、馬の顔を抱えるようにして撫でる。
「騎士は、馬が相棒です。いつも、相棒と一緒に風を切って走り戦います。どんな風が吹いても1人じゃない。」

 サラも、馬さんの頬を撫でてみる。
 馬の温かさが伝わって来た。
 言葉が無くたって、温かさが伝わって、ホッとする。

 急に国王陛下を思い出す。
 あぁ、だから彼は、私と抱き合うのかもしれない。なんて思った。 

 それから、少し散歩をして、お城に戻った。
 馬を厩に入れてきますと言って、アモン団長が行ってしまった。

 私は傍にあった藁の山に腰を下ろす。
 藁の山はふかふかで、急に睡魔が襲ってきた。

 心地よい風と、温かい陽射しの中。

 そのまま、目を閉じた。




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