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62話 雨降って地固まる
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目を覚ますと、ベッドの上だった。
目の前には、頬杖をついている国王陛下の顔があった。
陛下の、もう片方の手は、私の髪を撫でていた。
「へ・・・陛下?!」
慌てて、上半身を起こすと、慌てふためく姿が面白い、と言わんばかりに、陛下は笑った。
「驚かせたか。寝顔が可愛くてついな。」
どうやら、遠乗りをしてから気持ちよく、お昼寝してしまったようだった。時計を見ると、時間はもうすぐ正午だった。なんで陛下が部屋にいるのかと思ったけど、なるほど、お昼休みなんだなと思った。
「・・・すまなかった。」
「え?」
国王陛下は、サラに誤った。急な事に普通に驚く。
少し言いずらそうに、少し恥ずかしそうに、でも、言葉を続けてくれる。
「サラ、私はお前に思い出して欲しかったんだ。昔のお前が恋しかった。私の気持ちと同じだけ、愛されたいと思っていた。」
水色の瞳は、サラの黒髪を見つめていた。その黒髪を、クルクルと指に巻き付けて遊ぶ。
「しかし、それは間違っていた。」
真っすぐな眼差しを、向けられる。
「同じ量だけ同じ数だけ愛を返されなくても、サラは私に幸せをくれる。」
「・・・私が?」
意外そうな私に、陛下は微笑んで頷く。
「サラとルカが、笑っていられる場所。それが、今の私の幸せだった。」
そう言って、ゴロンと寝転がって、天井を向いて微笑む。
「いつか、サラが言った言葉を思い出したんだ。」
陛下は、思い出に浸るかのように目を閉じた。長い金色のまつ毛が、太陽光に当たって、キラキラと光る。
「女神などではない、女神よりも神よりも、人は、目の前の人を信じなきゃいけない。お前は、そう言った。」
ふふふ。と思い出し笑いをしてから、上目遣いでサラを見る。
「そうだ。昔のサラではない。今のサラと向き合おう。大事なものは、いつも今、目の前にある。」
私の中で、陛下の中で、ずっとあった蟠りが、溶けだしていく感じがした。
なんだかホッとして、涙が出てしまう。
陛下は、私の涙を指で拭って、笑って言う。
「ルカの、腹の虫が鳴ったのを聞いて、そんな大事な事に気が付いたんだ。ふふふ。不思議だろう?」
そんなことを言うので、つい笑ってしまった。
「なんですか、それ。」
ひとしきり、2人で笑って、穏やかな日差しの届く部屋の中、静かな時間が流れる。
「サラ。・・・もしも、おまえが望むなら、この城から出て・・・」
「私、ルカと一緒にココにいます。ルカが、陛下の傍を選んだんです。だから、私もここにいます。ルカには父親が必要です。」
この人が、何を言おうとしたのかが解った。
同じだけの気持ちを返してあげられないけれど、寄り添っていたい思う。
「私は、陛下の事を、もっと知りたいです。」
水色の目が大きく開いて、直視されると、少しドキドキする。体を起こして、ゆっくりと、冷たくて大きな手が私の頬に触れる。
「口づけをしても、構わないか?」
「えっ、な・・なんで聞くんですか?」
「おまえの気持ちを尊重したいからだ。」
「わ、私は、あなたの妻です。えと、妃ですから、聞かなくて良いのです!」
そう言うと、陛下は少し顔をほころばせて、私を引き寄せた。
目を閉じると、触れるだけの優しいキスをされる。
そのまま、陛下の胸にコテンと頭を預ける。
不思議と、安心感と大丈夫だという気持ちが沸き上がる。
ここから、これから2人の関係を作って行こう。そう思えた。
「私は、もう、思い出せないのかもしれません。だけど、」
自分の腕を陛下の背中に回す。
「だけど陛下が、私とルカを愛してくれてること、すごく伝わってきます。どうしようもないくらい、伝わってくるんです。」
ギュウと抱きしめてみる。
「私、どうして、思い出せないんでしょう?こんなに愛されていたのに、何1つ思い出せないなんて・・・」
水色の瞳を見上げて、確かめるように聞く。
「私は、陛下や皆さんを幻滅させていませんか?前と違い過ぎて、ガッカリさせてませんか?私は、皆さんが優しすぎて、この場所が居心地よくて、変わらずに愛されたくて、怖かったんです。皆さんが私に優しいのも、愛してくれるのも、それは全部、私の知らない昔の私のおかげだから。それは、きっと今の私じゃないから。」
ギュウって抱きしめ返してくれる。優しくて大きな腕に、すがる。
「悪かった。不安にさせて、本当に悪かった。おまえが混乱していることも、解っていたはずなのに。」
「いいえ、アモン団長も、テルマさんも、陛下も、私のままでいいと言って下さいました。だから、ここに居ます。ここに居させてください。」
サラは、陛下の胸に顔を押し付けて、アーサーは、サラの頭に頬を乗せて、暫く、ぼーーっとする。
彼の胸から、鼓動が聞こえてきた。
ただ、こうして抱きしめ合うだけで、心が落ち着いてくる。
ふと、陛下が言った。
「遠回りしていたな。」
「そうかもしれません。」
ふふっとアーサーが笑う。
「だいたい、以前のお前は、お前が思うような人間ではない。ただの危なっかしいジャジャ馬で皆、手を焼いていた。昔みたいに好き勝手言いたい放題言っても良いが、しおらしい今のままのほうがゴードンは喜ぶ。」
「・・・テルマさんは、そんなふうには言ってませんでしたよ。」
「あいつは、お前を本気で慕ってるからな。美化しすぎだ。」
「うーん。そんな面倒なジャジャ馬の、どこが皆さん好きだったんですか?」
あはははは。と、陛下は笑う。
「素直で、真っ直ぐで。そうだな、誰に対しても分け隔てが無い所かもしれないな。私に対しても呼び捨てだった。」
「え!?国王陛下にですか?」
私の顔を覗きながら、本当に楽しそうに陛下は笑う。
「だから、安心しろ。おまえが何を言おうと、何をしようと誰も嫌いになどならない。」
それを聞いて、なんだか、本当にホッとした。
本当に、私が、私のままでいいんだ。
記憶の無い私から生まれて来た子供は、天使のように美しい子供だった。
魔力を持っていて、魔法まで使う。どんどん、不安と恐怖を抱えていた。怖かった。
だけど、ここに来て、魔力は普通で、見た目も一緒で、この安堵感は、居心地の良さに変わった。
ルカも私も、ここでは、そのままでいいんだ。
そう思うと、嬉しかった。嬉しくて涙がこぼれた。
その時だった、バターンと扉が開いて、ルカが入ってくる。
「あーーー!!父上!かーさまを泣かせた!!」
バタバタと走ってきて、私に抱きつく。
「父上!かーさまを泣かせたら、ダメ!!」
陛下は、そんなルカを見て、頼もしそうに微笑んでから、すぐに不適に笑う。
「ほう、でもなルカ。子供のお前には解らないだろうが、父上だけが、サラを泣かせても許されるんだぞ?」
「?え?なんで?」
「ちょっ!!陛下!何を言い出すんですかっ?!」
サラが赤面する。
「何って、少々早いが教えてやってもいい。男女が仲良くなるということを。」
急に、いたずらっ子の顔をして、アーサーは楽しそうにする。
「わーー!ダメです!ダメ!バカ、バカーーー!」
アーサーは、本当におかしくて笑った。
バカと言われて、少しだけ距離が縮んだ気がしてしまう。つい、悪乗りする。
「なるほど。バカだからな、ルカにバカな発言をしても良いか?」
サラは、赤面しながら、ポカポカとアーサーの胸を叩く。
「もう!!いい加減にしてください!子供の前なんですから!」
ルカは、なんのことか分からずに、父と母を眺める。
「父上と、かーさま、仲良しになった。」
そう言って、嬉しそうに笑った。
目の前には、頬杖をついている国王陛下の顔があった。
陛下の、もう片方の手は、私の髪を撫でていた。
「へ・・・陛下?!」
慌てて、上半身を起こすと、慌てふためく姿が面白い、と言わんばかりに、陛下は笑った。
「驚かせたか。寝顔が可愛くてついな。」
どうやら、遠乗りをしてから気持ちよく、お昼寝してしまったようだった。時計を見ると、時間はもうすぐ正午だった。なんで陛下が部屋にいるのかと思ったけど、なるほど、お昼休みなんだなと思った。
「・・・すまなかった。」
「え?」
国王陛下は、サラに誤った。急な事に普通に驚く。
少し言いずらそうに、少し恥ずかしそうに、でも、言葉を続けてくれる。
「サラ、私はお前に思い出して欲しかったんだ。昔のお前が恋しかった。私の気持ちと同じだけ、愛されたいと思っていた。」
水色の瞳は、サラの黒髪を見つめていた。その黒髪を、クルクルと指に巻き付けて遊ぶ。
「しかし、それは間違っていた。」
真っすぐな眼差しを、向けられる。
「同じ量だけ同じ数だけ愛を返されなくても、サラは私に幸せをくれる。」
「・・・私が?」
意外そうな私に、陛下は微笑んで頷く。
「サラとルカが、笑っていられる場所。それが、今の私の幸せだった。」
そう言って、ゴロンと寝転がって、天井を向いて微笑む。
「いつか、サラが言った言葉を思い出したんだ。」
陛下は、思い出に浸るかのように目を閉じた。長い金色のまつ毛が、太陽光に当たって、キラキラと光る。
「女神などではない、女神よりも神よりも、人は、目の前の人を信じなきゃいけない。お前は、そう言った。」
ふふふ。と思い出し笑いをしてから、上目遣いでサラを見る。
「そうだ。昔のサラではない。今のサラと向き合おう。大事なものは、いつも今、目の前にある。」
私の中で、陛下の中で、ずっとあった蟠りが、溶けだしていく感じがした。
なんだかホッとして、涙が出てしまう。
陛下は、私の涙を指で拭って、笑って言う。
「ルカの、腹の虫が鳴ったのを聞いて、そんな大事な事に気が付いたんだ。ふふふ。不思議だろう?」
そんなことを言うので、つい笑ってしまった。
「なんですか、それ。」
ひとしきり、2人で笑って、穏やかな日差しの届く部屋の中、静かな時間が流れる。
「サラ。・・・もしも、おまえが望むなら、この城から出て・・・」
「私、ルカと一緒にココにいます。ルカが、陛下の傍を選んだんです。だから、私もここにいます。ルカには父親が必要です。」
この人が、何を言おうとしたのかが解った。
同じだけの気持ちを返してあげられないけれど、寄り添っていたい思う。
「私は、陛下の事を、もっと知りたいです。」
水色の目が大きく開いて、直視されると、少しドキドキする。体を起こして、ゆっくりと、冷たくて大きな手が私の頬に触れる。
「口づけをしても、構わないか?」
「えっ、な・・なんで聞くんですか?」
「おまえの気持ちを尊重したいからだ。」
「わ、私は、あなたの妻です。えと、妃ですから、聞かなくて良いのです!」
そう言うと、陛下は少し顔をほころばせて、私を引き寄せた。
目を閉じると、触れるだけの優しいキスをされる。
そのまま、陛下の胸にコテンと頭を預ける。
不思議と、安心感と大丈夫だという気持ちが沸き上がる。
ここから、これから2人の関係を作って行こう。そう思えた。
「私は、もう、思い出せないのかもしれません。だけど、」
自分の腕を陛下の背中に回す。
「だけど陛下が、私とルカを愛してくれてること、すごく伝わってきます。どうしようもないくらい、伝わってくるんです。」
ギュウと抱きしめてみる。
「私、どうして、思い出せないんでしょう?こんなに愛されていたのに、何1つ思い出せないなんて・・・」
水色の瞳を見上げて、確かめるように聞く。
「私は、陛下や皆さんを幻滅させていませんか?前と違い過ぎて、ガッカリさせてませんか?私は、皆さんが優しすぎて、この場所が居心地よくて、変わらずに愛されたくて、怖かったんです。皆さんが私に優しいのも、愛してくれるのも、それは全部、私の知らない昔の私のおかげだから。それは、きっと今の私じゃないから。」
ギュウって抱きしめ返してくれる。優しくて大きな腕に、すがる。
「悪かった。不安にさせて、本当に悪かった。おまえが混乱していることも、解っていたはずなのに。」
「いいえ、アモン団長も、テルマさんも、陛下も、私のままでいいと言って下さいました。だから、ここに居ます。ここに居させてください。」
サラは、陛下の胸に顔を押し付けて、アーサーは、サラの頭に頬を乗せて、暫く、ぼーーっとする。
彼の胸から、鼓動が聞こえてきた。
ただ、こうして抱きしめ合うだけで、心が落ち着いてくる。
ふと、陛下が言った。
「遠回りしていたな。」
「そうかもしれません。」
ふふっとアーサーが笑う。
「だいたい、以前のお前は、お前が思うような人間ではない。ただの危なっかしいジャジャ馬で皆、手を焼いていた。昔みたいに好き勝手言いたい放題言っても良いが、しおらしい今のままのほうがゴードンは喜ぶ。」
「・・・テルマさんは、そんなふうには言ってませんでしたよ。」
「あいつは、お前を本気で慕ってるからな。美化しすぎだ。」
「うーん。そんな面倒なジャジャ馬の、どこが皆さん好きだったんですか?」
あはははは。と、陛下は笑う。
「素直で、真っ直ぐで。そうだな、誰に対しても分け隔てが無い所かもしれないな。私に対しても呼び捨てだった。」
「え!?国王陛下にですか?」
私の顔を覗きながら、本当に楽しそうに陛下は笑う。
「だから、安心しろ。おまえが何を言おうと、何をしようと誰も嫌いになどならない。」
それを聞いて、なんだか、本当にホッとした。
本当に、私が、私のままでいいんだ。
記憶の無い私から生まれて来た子供は、天使のように美しい子供だった。
魔力を持っていて、魔法まで使う。どんどん、不安と恐怖を抱えていた。怖かった。
だけど、ここに来て、魔力は普通で、見た目も一緒で、この安堵感は、居心地の良さに変わった。
ルカも私も、ここでは、そのままでいいんだ。
そう思うと、嬉しかった。嬉しくて涙がこぼれた。
その時だった、バターンと扉が開いて、ルカが入ってくる。
「あーーー!!父上!かーさまを泣かせた!!」
バタバタと走ってきて、私に抱きつく。
「父上!かーさまを泣かせたら、ダメ!!」
陛下は、そんなルカを見て、頼もしそうに微笑んでから、すぐに不適に笑う。
「ほう、でもなルカ。子供のお前には解らないだろうが、父上だけが、サラを泣かせても許されるんだぞ?」
「?え?なんで?」
「ちょっ!!陛下!何を言い出すんですかっ?!」
サラが赤面する。
「何って、少々早いが教えてやってもいい。男女が仲良くなるということを。」
急に、いたずらっ子の顔をして、アーサーは楽しそうにする。
「わーー!ダメです!ダメ!バカ、バカーーー!」
アーサーは、本当におかしくて笑った。
バカと言われて、少しだけ距離が縮んだ気がしてしまう。つい、悪乗りする。
「なるほど。バカだからな、ルカにバカな発言をしても良いか?」
サラは、赤面しながら、ポカポカとアーサーの胸を叩く。
「もう!!いい加減にしてください!子供の前なんですから!」
ルカは、なんのことか分からずに、父と母を眺める。
「父上と、かーさま、仲良しになった。」
そう言って、嬉しそうに笑った。
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