女神なんかじゃない

月野さと

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63話 舞踏会の日

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 舞踏会の日がやってきた。

 身支度を整えると、緊張はMAXで、サラは窓の外を覗き見る。
 続々と馬車が到着して、きらびやかな令嬢や紳士が集まって来ていた。
 ゴクリと、サラは生唾を飲んでから、覚悟を決める。が、足が震えてしまう。

 ドアがノックされて、アーサーとウィルさんがやって来た。その後ろに騎士団も続いていた。
「準備はできたようだな。サラ、今日は一段と綺麗だよ。」
 満足そうに微笑んで、サラのそばまで行く。正装したアーサーの姿に見惚れて、頬を染めた。その様子を見て、アーサーが嬉しそうに笑う。そっと、サラの耳元に口を近づけて小声で言った。
「惚れなおしたか?」
 だらしない顔になっていたことに気が付いて、両手で口を押える。
「あ・・・あまりにも、陛下が素敵だから!」
 素直に答えて、赤面してうつむく。そんなサラを見て、アーサーまでもが赤面して黙る。
 
 20代半ばの子持ちの夫婦が、ティーンのように恥ずかしがっているのを見て、ゴホン!とウィルが咳払いをする。
「陛下、サラ様、そろそろ会場の方へ。」
 ウィルに言われて、2人で腕を組んで部屋を出る。頬を染めている2人に側近たちは、何故だか温かい気持ちになっていた。ただ1人、ゴードンを覗いては。

 このパーティーで、サラ様の存在感を示す事。後宮の解散を印象付けなければならない。後宮というのは、正直言って、予算がかかる。城内の保安上の問題的にもいかがなものかとゴードンは考えていた。サラ様が不在の場合は目をつぶっていたが、今ではお荷物でしかなかった。
 


 会場一杯に貴族たちが集まり、華やかなパーティーだった。
 会場内に入らずに、隣接する部屋にルカが正装して、騎士団たちと一緒に待っていた。サラとアーサーと合流して3人で会場へと踏み入れる。

 国王の登場に、会場内が一気に沸き立つ。
 王座の前まで来ると、アーサーは手を上げる。すると会場内が静かになった。
「王室主催の舞踏会に、みな、よく集まってくれた。本日は楽しんでいってもらいたい。そして、1つ発表がある。」
 アーサーは、ルカに目配せする。ルカと私は、1歩前に出る。
「ある理由で公表をしていなかったが、第一王子のルカを紹介しよう。」
 ルカは、しっかりと前を見て、礼をとった。それを、確認してアーサーは続ける。
「現時点での王位継承第一位は、このルカであることを宣言する。」
 会場内は、歓喜の声が多く上がっていた。

 音楽が流れだし、舞踏会は開催された。 
 大人たちが踊り出すのを見て、ルカは目を輝かせる。
「わぁ、お祭りみたい。」
 そこへ、騎士団たちがルカを囲むように近づいてくる。「王子、お部屋に戻りましょう。」と言うので、ルカはガッカリした顔でサラとアーサーを見た。アーサーが笑って言う。
「ルカ、本来なら15歳になるまで、舞踏会には出られないのだ。大きくなったら、嫌という程に出れるから。今日はもうお休み。」
 アーサーに優しく頭を撫でられて、最後に褒められた。
「今日のお前は、とても堂々としていて、父はとても誇らしかったぞ。」
 褒められて、ルカは嬉しそうに笑って、騎士団と部屋に戻って行った。


 会場の各所に騎士団が配置されて、魔術師団は普通にパーティーに参加して楽しんでいた。

 サミュエルが言った。
「心配してたけど、大丈夫そうですね。」
 レオンはシャンパンを1口飲んで、王座の方に目をやる。
「大丈夫そう?どこがだ?・・・よく見ろ。サラ様は完全に儚げな花だ。あれでは、最近勢力を上げてきてるエルドール侯爵あたりが出てきそう・・・って、ほら、見ろ。」
 レオンの話している通り、王座の前にエルドール侯爵が現れて、跪くのを見る。
「あ~ホントだ。確か、後宮に娘が入ってるんでしたっけ?かなり評判のご令嬢だとか。」
「ふん!後宮とか、異国の制度をよくもまぁ、この国で作らせたな。それもこれも、あのエルドール侯爵の企みだろう?」
 今は、ゴードンの家が筆頭公爵家として君臨しているけれども、アーサーが妃を娶らなかったせいで、勢力が二分してしまったのだ。

 アーサーの前に現れたのは、そのエルドール侯爵と娘だった。
「陛下、ご挨拶申し上げます。」
 目の前に現れたのを確認して、アーサーはゆっくりと話す。
「エルドール侯爵か、先日の会議では大儀であった。これからも国の為に励め。」
 アーサーが返答すると、エルドール侯爵が顔を上げる。
「御心のままに。時に陛下、我が娘をご紹介致します。」

 深々と頭を下げて、隣にいた令嬢が声を発する。
「陛下。サマンサ・エルドールでございます。」
 エルドール侯爵は、サラをチラリと見た。
「サマンサは後宮に入っておりますが、陛下が後宮にいらっしゃらないと、嘆き寂しがっておりましてな。本日はこうしてご挨拶に。」
 アーサーは、顔色を変えずに答える。
「あぁ、そうであったか。エルドール侯爵、後宮の話だが今後について来週あたり話しあいたい。この通り、次期王妃も居るのでな、必要なかろう?」

 その時、サマンサが、サラを睨みつける。
 サラは、サマンサを見て、顔を引きつらせて目を泳がせた。
 その様子を、エルドール侯爵が確認する。 
「なにも、ご正妃様お一人とお決めにならずとも、陛下には国の威厳の為に、ご配慮いただきたく思います。時に、お妃様?」

 エルドール侯爵が、サラの方に向きなおる。
「はいっ・・・?」サラの声が上ずる。
 侯爵がニヤリと笑う。
「この国は、今やこの大地を統べる大国です。その国の王の子が1人では心もとない。側妃があっても良いとは思われませんか?」

 サラは、困った・・・。自分の正直な気持ちを発言していいのかどうか。
「あ・・・はい、確かに・・・。」と言いかけた所で、アーサーが普通の音量で言う。
「黙れ。」そう言って目を閉じた。
 サラは黙って、アーサーを見る。全く、こちらを見ずに、ゆっくりと目を開けてエルドール侯爵を見て言う。

「ここで宣言する。私の妃は、ここにいる正妃1人だ。誰がなんと言おうとな。」
 サラの知る限り、一番低い声でアーサーは言った。その声に、サラも背筋を凍らせる思いだった。
 エルドール侯爵は、ニコリと笑う。
「失礼ながら、お妃様のご出身は?配下たちが納得できる方なのでしょうか?そして第一王子はどちらでお生まれに?聞き及んだところ・・・」

 ガタン!!と、アーサーが立ちあがる。
「貴様・・・場をわきまえて発言しろ。その発言、私を愚弄するか!」
 サラは、緊迫した状況に、身動きすらとれなかった。

 その姿を見て、サマンサが声をかける。
「恐れながら陛下!どうかお許しくださいませ。父は娘の私を想うばかりに、親心で言葉が過ぎただけでございますわ。どうか、ここは今までの家臣としての評価と、幼い私に免じて、お許しくださいませ。」
 その美しい所作と、可憐な声に、周囲が騒めく。

「なんと心優しい、美しい令嬢だ。」
「陛下にも物おじせず、立派な振る舞い。」
「何も出来ない方とは、大違い・・・。そもそも、場を鎮めるのは次期王妃様の役割ではないのか?」

 サラの立場が悪くなってしまった上に、アーサーもこれ以上何も言えない状況だった。
 
 そこへ、突然甲高い声が響く。

「オホホホホホ!なんていう喜劇ですの?次期王妃様を引きずり降ろして、自分の株を上げようと思ってらっしゃるのかしら?怖いわ~。」
 声を上げて笑い出したのは、切れ長の目をした美人だった。
 スタスタと前に出てきて、扇子をファッサファッサと口元であおぐ。

「ハントリー公爵令嬢!失礼ですわ!私はそんな・・。」
 サマンサが、顔を覆って、しくしくと言う。
「泣きマネはおよしなさいな!」
 バッサリと切るように言い捨てると、扇子をピシャリと閉じて、華麗に礼をとる。
「陛下、失礼いたしました。ご挨拶申し上げます。エブリン・ハントリーでございます。」
 ゴージャスな銀のドレスを翻し、お辞儀をする姿は、クジャクのようだった。

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