女神なんかじゃない

月野さと

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64話 エブリン

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 アーサーは、親しそうに笑いかける。
「エブリン、久しいな。」
「陛下、この度は王子ご誕生、お祝い申し上げますわ。」

 ザワザワと会場が騒めく。
 エブリンは、サラの方に向きなおる。
「王妃様、いいえ、女神様とお呼びすべきかしら?聞き及びましたところ、神の国に帰った後も陛下を忘れられず、再び地上へ降り立ち、この国に戻られたとのこと。アーサー王は、いかにお喜びだったか。」
 わざとらしく、エブリンは声高く言う。
「女神様は、陛下との愛の為に人間に生まれ変わり、陛下との愛の結晶と共に、天空から舞い戻られたのですね!もう、兄様からその話を聞いて、どれほど感動したことか!」
 失礼!と言わんばかりに、目頭を押さえる。サマンサと違って、本当に涙を一筋流す。演技派だった。
「わたくし、もう、本当に素敵過ぎて震え上がりましたわ!だって、この国を女神の力で守り続け、神の国へ帰る決まりを破ってまで、陛下との愛を選んだ女神様。なんと、素敵なロマンスかしら!ナンビトたりとも、2人を引き離す事はできませんわ!」

 観劇のように、身振り手振りで捲し立てると、エブリンはエルドール侯爵親子を見やる。
「あら、まだいらっしゃったの?神の怒りを買わないように、大人しく引き下がりなさいな。あなた方の身の為ですわ。」

 それでは、失礼!と言って、エブリンは王座の前から立ち去って行った。

 それを機に、次々と貴族たちが、王座に列をなして挨拶に来た。
 王子誕生と、女神の再来をお祝いする言葉が続いた。

 サラは、エブリンが気になって、目で追っていた。
 後ろに控えていた、テルマさんに声をかける。
「テルマさん、私、彼女の所に行きたいの。席を外しちゃダメ?」
 テルマは顔を上げずに言う。
「かしこまりました。後ほど、お部屋にお呼び致しますので、暫くはこのままで。」


 突然、アーサーはサラの前で跪く。
 手を差し出すと、色気のある笑みをこぼしながら言った。
「一曲、私と踊ってくれないか?」
 アーサーの手をとり、立ち上がる。
「はい。国王陛下。」
 
 たくさん、ダンスの練習をした。だけど、完璧には踊れなかった。ステップを間違えたりしても、アーサーは笑いながらフォローした。その姿が、貴族達に印象付けた。

「陛下は、あれほどに女神様を愛されていたのか。」
「神の国から、愛の為に降り立つなんて、なんて素敵なラブストーリーかしら。」
「女神様を大事にしなければ、天罰がくだるかもしれん。」


 会場内の会話を、サミュエルは興味津々で聞き入る。
「久しぶりに、エブリン嬢を見ましたね。確かご留学されてたんですよね?」
 レオンは、エブリンを目で追う。
「・・・さあな。」


 
 ダンスを踊り切ってから、
 アーサーと一緒に、サラもパーティーを抜ける。

 サラは、急ぎ足て謁見室に向かう。そこに、エブリンがいた。
 「お召しと伺い惨状いたしました。エブリン・ハントリーでございます。先ほどは、大変ご無礼を。」
 深々と、エブリンは頭を下げる。
 アーサーが、笑う。
「いや、あなたのおかげで助かった。」
 顔を上げて、エブリンはニカッと笑う。
「これで少しは、両陛下の周囲が静かになると良いのですが。」
 サラは、聞きたい事がたくさんあったけれども、とりあえずお礼を言う。
「あの、私からもお礼を言わせてください。本当に助かりました。」
「いいえ、本当の事を言ったまでですから。それに、このためにパーティーに呼ばれて来たのです。」

 キョロキョロと、エブリンは部屋の中を見回す。
 ウィルが気が付いて言う。
「ゴードン様が、呼びに行ってます。」
「まぁ!本当ですか?」
 エブリンが嬉しそうに笑う。
「?」サラがポカンとする。それを見てアーサーが言った。
「エブリンは、ゴードンの妹なんだ。」
「え?!」
 エブリンは、ニカッと笑う。
「いつも兄が、お世話になっております。」

 その時、ガチャリと扉が開く。
「お呼びでしょうか?陛下。」
 ゴードンと一緒に入ってきたのは、レオン団長だった。
 とたんに、エブリンは満面の笑みになる。そして、一直線に走り出して、レオン団長に抱きついた。

「レオン様!!!」
 思いっきり抱きつかれたレオンは、ヨロっとしてから、エブリンを支える。
「ハントリー公爵令嬢?」
 ゴードンは横目に、レオン団長に言う。
「妹の功績に褒美です。レオン団長、しばし我慢を。」
 レオン団長に抱きついたまま、エブリンが言う。
「お兄様!嬉しいわ!レオン様を私に頂けるの?」
 アーサーが、ニコニコしながら返事をする。
「レオンさえ良ければ、2人の婚約をいつでも認めよう。」
「陛下っ!!何をおっしゃるんです?」
 レオン団長が、慌てる。
 それを見て、エブリンが不満そうに言う。
「レオン様。私の気持ちは昔から変わりません!お慕い申し上げますわ。」

 レオン団長は、眉間に皺を寄せて、エブリンを突き放すように、体を押しやる。
「由緒正しいハントリー公爵家と私では、身分がつり合いませんし、魔法省のTOPとしてもよろしくありません。」

 そう言われて、一瞬だったけれど、エブリンが凄く傷ついた顔を見せた。
 その事に、誰か気が付いただろうか?サラは、ギュッと心を締め付けられる。

「・・・あの、レオン団長は魔法省のTOPですから、身分は十分なのでは?」
 サラの質問に、レオンは首を振る。
「王妃様、ハントリー公爵家は王族です。また、魔法省は独立した組織です。我々が対等でいるためにも縁戚は避けたいところです。」

 ゴードンは無表情だった。
 レオン団長も、無表情のまま跪き礼をとる。
 アーサーが、少し間をおいてから、言う。
「まぁ、そう硬く考えるな。今日は私に免じて、エブリンと仲良くしてやってくれないか?」
 それを聞いて、サラが口を挟む。
「そうです!まだパーティーは続いていますし、レオン団長、エスコートして差し上げてください!それからダンスも!」

 エブリンが急に眼を輝かせる。
「嬉しい!レオン様とダンスなんて子供のころ依頼だもの。」
「・・・・」
 レオンは部屋の隅に視線をうつしていて、何か考えている様子だったけれど、すぐに目を閉じて立ち上がった。
「かしこまりました。本日は陛下よりご命令ですから、私がエスコートさせて頂きます。」

 そう言われて、エスコートしてくれることになったのが嬉しい様子で、レオンが手を差し出すと、エブリンは嬉しそうに手を置いた。

 
 そうして、2人は部屋を出て行った。


「レオン団長が、エブリン様を好きになってくれればいいのに・・・。」
 つい、サラが言う。それを聞いて、ゴードンが言う。
「レオン団長は、国と結婚したような所がありますからな。そういった感情に、そもそもならないのかもしれませんな。」
「そんな・・!ゴードン宰相は、お2人の事、やっぱり反対ですか?」 
 ついつい、突っ込んで聞いてしまう。
「いいえ。我が妹ながら、良い男に目を付けたと思っています。」
「え・・・?」
 周囲を見ると、陛下もゴードンさんも、ウィルもテルマさんも頷いていた。

 アーサーが、背もたれに寄りかかって言う
「レオンさえ気持ちを固めてくれれば、誰も反対などしない。」 


 その頃、エブリンは、廊下をエスコートされながら、レオンの手を握って、肩に頭を預けた。
 レオンがビクリとする。
「ハントリー公爵令嬢。それは、見た者に勘違いをされます。」
「勘違いじゃないもの。わたくしは、あなたが好きなの。」
「・・・・どうかご容赦ください。」
「ダメよ。わたくしは、諦めないわ。Yes以外は聞こえないの。」
 レオンは、ため息をつく。
 その姿を見て、エブリンは口をキュっと噛みしめる。
 パーティー会場に入る手前で、エブリンが立ち止まる。そして、レオンを見て言った。

「今夜だけ、恋人でいて?」
 レオンは、エブリンを見る。
「今夜だけ。身分や立場など忘れて、わたくしを見て。」

 そう言って、レオンの頬に手を伸ばす。レオンは頬を触れさせたまま、エブリンを見つめた。
 少しの間の後、仕方ないなというふうに微笑んだ。
「今夜だけですよ。」

 レオンの言葉に、エブリンは子供のように笑った。 



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