女神なんかじゃない

月野さと

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67話 サラの記憶

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「え?」
 テルマさんが、驚いてサラを見た。

 サラは、小瓶をテーブルに置く。
 目を見開いて、ドクドクと鳴る自分の鼓動を聞いていた。
「サラ様?・・・今、なんて?」
 漂うバラの香りが、私の鼻をつく。そして、何か、そう何か、曇っていた頭が晴れていくような感じ。

「誰?・・・あぁ、そうだ。ガルーダ王。私、約束を破ってしまったんだ。」
 テルマが、サラの近くに寄る。
「サラ様!?記憶が!記憶が戻ったのですか?」
「・・・キオク・・・これ、私の記憶。」

 お茶に目を落とす。

 記憶?私の無くした記憶?
 お茶の入ったカップを手にとる。・・・その手が震えた。

 ・・・まさか。

 私は、覚悟を決めて、せーの!でカップの中のお茶を一気に飲み干す。
 ガツン!!と頭を殴られたような感覚に襲われる。
 息が出来ない程に、私の頭の中に、沢山の映像が流れ込んでくる。


 レオン団長が、驚いている顔が現れる。
『口から、大量の魔力が流れ込んできた。息が止まるかと思った。』

 陛下がバルコニーで、王冠を被って微笑む。 
『サラが居てくれただけで、本当に助かったんだ。』 

 次々と、映像が流れ込んでくる。

『アーサー。アーサー大好き。愛してる。』

 ぎゅうっと胸が締め付けられる。私は、彼を愛していた。
 何故、忘れていられたのだろう。 

『ムリ!ムリだよ!!・・・アーサーがいなきゃ、生きていけない!』

 ボロボロと、涙が溢れだす。

「サラ様?・・サラ様、大丈夫ですか?!」
 テルマさんが、暫く動かなくなった私を心配そうに見守る。  

 私は、放心状態で、次から次から思い出していく記憶に、涙が止まらなかった。
 フラリと立ち上がって、部屋を出て行く。

「サラ様!?お待ちください!その恰好ではっ!」

 部屋着のまま、私は走り出していた。


 廊下で、アモン騎士団長に会う。
「アモンさん!!アーサーはどこ?」
 そう言われて、テルマもアモン団長も、ハッとする。
「え?サ・・・サラ様?えっ?あ、陛下は執務室かと。」
「ありがとう!」
 そのまま走って行くサラを、アモン団長は見送った。

 ポツリと、一言つぶやいた。
「・・・記憶。戻ったんですね・・・。」


 執務室の扉を、ノックも無しにバンッと開ける。
 そこには、ゴードンが居た。
 急な事に、ゴードンは、ポカンとする。

「・・・・サラ様?」
 息を切らせながら、ゴードンを見る。
「ご・・・ゴードンさん!アーサーは?」
 ゴードンは目を見開いて、サラの方に向きなおる。
「サラ様?まさか、記憶が戻られましたか?」
 ゼーゼーと呼吸をしながら、頷く。
「ごめんなさい。明日からは次期王妃っぽくするから、今だけ勘弁して!アーサーに会いたいの、どこ?」

 ゴードンは、表情をあまり変えずに返答する。
「陛下は今、魔法省へ行かれています。」
 それを聞いて、サラは執務室を飛び出す。 

 サラのその姿を見送って、ゴードンはフッと微笑んだ。


 なんとか追いついたテルマが、サラを引き止める。
「サラ様!その恰好では…!とにかくお召し替えを!それと、魔法省へは転移魔法でいけるように手はずいたしますので。」 
 そう言われて、自分の気持ちを落ち着かせて、とりあえず着替えることにした。

 そこへ、トテトテとルカがやってきた。
「ルカ!」
「かあさま♪」
 思わず駆け寄って、ルカを抱きしめる。
 胸いっぱいになって、ぎゅうっと力を込めてしまう。
「・・・かあさま?」

 あぁ、ルカ。可愛い可愛い、私のルカ。
 アーサーと私の子供。世界で一番愛した人の子供。
 愛おしさがこみあげてくる。涙が抑えられない。

「ルカ。大好きよ。」
「どうしたの?かあさま?なんか変。」
「ルカ。ルカはね、かあさまが、世界で一番愛した人の子供なの。」
 ルカの目を覗き込んで言う。

「世界で一番、愛しているわ。」


 サラは、身支度を整えると、居てもたってもいられずに、馬車を魔法省まで走らせた。
 1分、1秒だって、我慢出来なかった。アーサーに会いたい。
「もう、サラ様ったら、もう少しお待ち頂ければ、転移魔法で行けましたのに。」
「テルマさん、ごめんなさい!どうしても、ジッとしていられなくって。」 
 ドキドキと胸の鼓動が治まらない。早く、アーサーに会いたい。
 
 ガラガラと馬車が進んでいく中、突然、馬車が急停車した。
 うわぁぁぁぁ!と、外から声がする。
 馬車の中に居た、テルマさんが、サラの傍に寄る。
「‥‥何事でしょうか?」

 ザンッ!!ザシュ!という剣の音が響いた後に、馬車の扉が開いた。
 全身黒ずくめの褐色の肌をした男が、剣を片手に現れる。

「静かにしろ!!抵抗したら即座に殺す!」

 サラとテルマは、沈黙して、相手の言う通りにした。
 テルマは、うっかりして護衛をしっかりつけなかったことを後悔していた。 


 
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