女神なんかじゃない

月野さと

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72話 ブリテンの未来

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 強いお酒のせいで、サラはすっかり眠り込んでしまっていた。 

 ゴキュゴキュゴキュ!!っと、サラは水を飲み干した。

 そして、ラタ族をズラリと整列させる。トゥーラン族のセルゲイと、その側近と向かい合う。
 長い議論がなされた。

「そんなことが、可能か?」
 セルゲイが、ゴシゴシと顎を手でこする。
 サラは、大きく頷いて言う。
「ブリテンで1番古い部族の族長である、あなたの力が必要です。」
 それを聞いて、ヒューガが言う。
「でも、無謀じゃないか?」
 サラは、ヒューガを見返す。
「無謀でも、不可能でも、やり遂げれば現実になる。」
 
 セルゲイもヒューガも、黙り込んだ。
 サラは、2人を説得する。
「いい?大事なことは、ブリテンで点在する全ての部族を、まとめ上げること。ポイントは、各部族の反発を防ぐためにも、それぞれの部族が今のままで生活できるように、合衆国を作るのよ。王様を据え置くのではなく、あくまでも取りまとめる者、代表者を1人決める。そこにはセルゲイさんが良いと思うわ。まぁ、他に適任者がいればそれでもいいけどね。選挙で決めるの。あくまでも、何かを決める時は話合いよ?そうゆう国を作るのよ。」
 サラはイメージするものを2人に伝えた。

「他国との取引には、一角獣を輸出すると良いわ。一角獣は他国には居ないので、欲しい国がある。一角獣をたくさん育成して、他国に売る。産業を始めるのよ。そのお金で他国から物資を輸入するの。生活に必要なもの何でもよ。」
 本当のところは、一角獣だけではなく、もっと輸出できるものが欲しいけれど、今はこれしかない。 
 黙り込んだ2人をよそに、サラは部屋の中に居たラタ族のみんなに話しかける。  
「ねぇ、どう?美味しい物をおなか一杯食べて暮らせるわ!魔獣討伐には、ガルーダとウォステリアに協力を依頼する。もちろんブリテン全体での対策も必要。でも、もうどこか1つだけの部族で考えるわけじゃないから。」

 サラは、ヒューガとセルゲイに視線を移す。
「他の部族は?あなたと手を組んでいる所はある?」
 ヒューガは、サラを見て答える。
「ジプシー達は、バラバラに生活してるけど情報交換しあいながら、時には協力しあったりもしてる。」
 なるほど。
「じゃぁ、このブリテンを1つにまとめることは出来そうね?立国させるか、属国させるか。」
 サラの発言に、ヒューガは驚く。
「本気か?」
 サラは自信満々に頷いて見せる。ここで、不安そうな顔はNGなのだ。
「時間はかかるけど、本気よ。だから、他の散らばっている部族やジプシー達と話し合いに行きましょう。」

 サラは、2人に手を差し出す。
「さぁ!どう?ヒューガ、それからセルゲイさん。やりましょう!ブリテンの未来の為に。私の手を取りなさい!」
 ヒューガは、真剣な顔で、サラの手を取った。
 セルゲイは、口の端をクイッと上げて笑う。
「いいだろう。その代わり、協力してくれるんだろうな?女神様。」
 サラは頷く。


 そうして、セルゲイとヒューガは、他の部族の所に駆け回った。
 サラは、ヒューガにくっついて回った。一緒に説得して回って、その日、あっという間に日が暮れて、ラタ族の場所まで戻って来た。

 サラは、ヒューガに言う。
「時間がかかるかもしれない。ううん。全部すぐに上手くいかないと思う。難航して当たり前。だけど、諦めちゃいけない。絶対に。諦めたりなんかしないで。」
 そう言って見つめると、ヒューガが頷く。そして言った。
「ウォステリアの、軍の所に行かないのか?」
 サラは、目を見開いてヒューガを見てから、少し考えて、一角獣を撫でて言う。
「行くわ。でも、今はブリテンに住む人達を1つにまとめるのが先。それに・・・。」
 ちょっと怒った顔で、彼を睨む。
「貴方たちのせいで、ウォステリアのみんなは、魔獣退治に手をやいているでしょう?」
 それに、アーサーやレオンさんが、捕まえた部族やジプシー達に危害を加えるとは思えない。だから私たちは東から、アーサーたちは西から1つ1つ掌握していくんだ。
 サラは、一角獣を撫でながら言う。
「でも、もしも許してくれるなら。一角獣のおかげで、凄いスピードで事は進んでるよね?もう、あなたたちに任せて、私は帰ってもいいかな?」
 ここに来てから3日目が、終わろうとしていた。雪に閉ざされた町は、日が暮れるのが早かった。日が沈むのを眺めながら思う。
 
 アーサーに早く会いたい。

 ふと見ると、ヒューガが複雑な顔をする。だから、笑って見せる。
「大丈夫だよ。ウォステリアは力になってくれるよ。」
「違う。そうじゃなくて・・・。本当に悪い事をした。おまえにした事とか、魔獣のこととか。」
 本当に反省している様子を見て、なんだかホッとする。 

「・・・もう、いいよ。」
 私は、ヒューガの手を取って、ぎゅうっと握りしめる。
「悪いと思うなら、ラタ族を立派に守って。ブリテンに立派な街でも作ってよ。」

 ヒューガは、少年のような眼を、サラに向けた。 
 そして、はにかむ様に、彼は笑った。
 その始めて見る彼の、等身大の笑顔を、守ってあげられたらと思った。
 
 2人で、家に入ろうと歩き出した時だった。


 馬の蹄の音が響いてくる。

 目を凝らして、そちらの方を見た。
「誰だろう?何か・・来る。」
 サラがそう言うと、一角獣たちが慄き始める。

「あ・・・あれは!」
 ヒューガが、胸元から笛を取り出して、ピィーーーーーーー!と鳴らした。
 すると、家という家から、人が飛び出し始める。
「どうしたの?」と言ってる間にも、その姿を捉えることができた。
 一角獣に乗った褐色の肌をした、ラタ族の男が走ってくる。その後ろ。

 後ろには、魔獣が追いかけて来ていた。 

 ヒューガは、笛を鳴らし続ける。
 そのまま一角獣に、乗って魔獣に向かって行った。
「ヒューガ!!!」
「サラ!逃げろ!みんなと一緒に逃げるんだ!」
 ヒューガはそう言って、あっという間に、魔獣の前まで行った。
 魔獣の前で、ピカ!!と、何かが光る。
 ラタ族がどんどん逃げて行く中、サラも一角獣を捕まえる。
 ヒューガの所に急いだ。
 ヒューガは、魔力を放出させて、魔獣にぶつける。けれど、魔獣を転ばせるのが精いっぱいの様子だった。

 ・・・ダメ!ダメだ!このままじゃ、ヒューガが死んじゃう!
 何度目かで魔獣が、ドーンと転んだ隙を見て、サラは一気に、ヒューガの傍まで走らせて行く。
「サラ?!」
「ヒューガ!逃げて!今なら逃げれる!」
 彼の腕を掴む。
「ダメだ!仲間が逃げ切れてからだ!」
「何言ってるのよ!あなたの命だって大事じゃない!!」
 ガシッと彼の両腕を掴んで、叫ぶ。
「生き残らなきゃダメ!!」

 
「グルルルルル・・・・・。」

 獣の唸る声が、間近に聞こえた。
 顔を上げると、魔獣が目の前にいた。

「・・・・あ。」

 ぐわっと、獣が大きな口を開ける。

 あぁ。
 こうゆう時って、走馬灯が見えるとか言うけど。本当だと思った。
 何故かスローモーションで、あぁ、食べられちゃうんだとか思った。

 それから、アーサーを思い出す。
 あの、美しく整い過ぎた顔とか、宝石の様な目から流れた涙とか。


 その瞬間だった。

 ドオン!!!という大きな音と共に、光に包まれた。
 爆風が体を叩くように吹き荒れる。
 飛んできた雪が、うっかり口に入ってしまって、咳き込む。
 苦しくて、涙目で目を開ける。


 目の前には、見覚えのある魔術師の服を着た10数人が居た。
「あ・・・」

 魔術師たちの声が、響き渡る。
 被害の状況を確認せよ。団長に報告。住人の有無を…。
 すぐに周囲を探す。目を凝らして見ると、目の前にレオン団長が見えた。

 そして、その隣には、金色の髪をなびかせて、一角獣に乗っている人を確認する。
 少し遠くて、でも、金色の髪で解る。 
 きっと夜でも、あなたが、どこに居るのかわかる。 

 サラは、目を離さずに、躓きながら、走り出す。

 雪のせいで、上手く走れなくて、もどかしくて、いや、そうゆうことだけじゃなくて。


 会いたかった。
 ずっと、会いたかった。
 アーサー!

 気持ちが急いて、上手く走れない。

 あの時、記憶を無くす前、アーサーが死んじゃうと思ったとき、本当に怖かった。
 あなたが助かるなら、死んでもいいなんて・・・そんなのウソだ。そんなわけないんだ。

 ウソみたいに足が絡まって、上手く走れない。
「・・・はぁっ。・・・はぁっ!」
 あぁ、ドキドキと、胸がうるさい。


「アーサー・・・!」

 思ったよりも小さい声がでて、悔しくなる。


 だけど、あなたは・・・そう。

 雪の中に、かき消えた声が、聞こえたかのように、こちらを見た。


 会いたかった。

 ずっと、ずっと、あなたに。


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