女神なんかじゃない

月野さと

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36話 クリス

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 建国記念日が、刻々と迫る中。
 サラは、自分の身は自分で守るべく、毎日ひたすらに鍛えていた。女神様なのに、筋力をつけるという異例の事態に、テルマは複雑な気持ちだった。
 そうして、クリスとは本当に仲良しになっていった。
 朝の練習のみならず、クリスと遠乗りに行くことまであった。すっかり、毎日の朝食を騎士団の食堂でとるようになってしまっていた。

 テルマが報告をすると、アーサーが答えた。  
「なるほど。では、毒見役を同行させると良い。私は暫く忙しいしいしな、好きにさせて構わん。」
 アーサーは、テルマにそう言って、遅い昼食をとっていた。
 テルマは下を向いて、何か言いたげにした。それを見て、ウィルが聞く。
「テルマ。どうかしましたか?気になる事でも?」
「あ、いえ・・・陛下がそうおっしゃるなら、構わないのですが・・・。」
 アーサーが、顔を上げる。
「なんだ?何が気になる?」
 テルマは、頭を下げる。
「はい。サラ様を少し自由にさせ過ぎかと、建国記念日も迫る中、城内はたくさんの人間の出入りがありますし、食事の毒も気になりますが、今日なんて乗馬の練習までなさって。遠乗りにまで・・・。」
「遠乗り?サラは馬に乗れるのか?」
「いいえ。同年代の若い騎士と仲良くなり、息抜きに乗せてもらって、時々行かれるのです。」
 ピタリ・・・と、アーサーの手が止まる。
 ウィルが、あ・・・。と気が付く。
「テルマ。サラ様は、いざという時の為に、乗馬の練習もしているのでしょう?」
「はい。ウィル様。しかし、サラ様は無邪気過ぎます!こんな時に、遠乗りで息抜きだなんて!姫君のように、刺繍やダンス、お花やスイーツ、宝石などの買い物などで息抜きして頂きたいのです!私の話など聞いてくださらないので、陛下のほうから言っていただきたいのです。」
 一気にそう言うと、テルマを見て、日々の鬱憤がたまっていたのだなと、アーサーとウィルが同情の目で見る。

「ふむ。まぁ、テルマの言うことも一理あるな。」
 しかし、アーサーは、サラの気持ちも理解できると思っていた。自分は生まれながらに、この立場なので慣れたが、誰かと一緒に食事をすること。味の濃い大衆料理。そういったものが、羨ましくなるのは分かる。
 何より、最近のサラは楽しそうだった。 

 しかし、もうサラの立場は一般人ではない。

「サラは、今も騎士団の所か?」
 アーサーが質問すると、「はい」とテルマが頷く。
「陛下。1時間ほどは、お時間ございます。」とウィルが助言する。
「・・・少し様子を見に行くか。」




 そんな事とは露知らず。
 サラは、乗馬の真っ最中だった。

「姿勢を真っすぐに伸ばしてください。下腹部に力を入れて・・・そうです!」
 何とか馬の上で、形だけは良い感じにする。 サラの後ろにクリスは乗って、一緒に手綱を持つ。
「では、速足をしますね!」
 そう言うと、馬を少し走らせた。

 高さもスピードもあって、景色が変わっていく。
 風を切る感覚。
 耳から、足から伝わる、大きな生き物の温もりと、振動。
 それは、表現できない程の気持ち良さだった。

 この世界に来て、お城に閉じ込められていた感じはあった。
 もしかすると、アーサーも、こんな感じなのかな?自由が無いというのは、辛くないだろうか?今度、一緒に乗馬が出来ればいいのに、と思う。

「サラ様!両足で馬をしっかりと挟み込むように!あ!手綱は引っ張らないでください!!」
 クリスが一生懸命に指導してくれるが、少しの恐怖のせいか、上手く乗れない。
「ふぅ~。頭ではわかってるのになぁ~。」
 お城を一周して帰って来る。
 クリスは、笑う。
「大丈夫ですよ。練習すれば、必ず乗れるようになります。」
「そうかな?」
 とっさに振り向いて、至近距離に彼の顔があることに慌てて、前を向く。
 少しうつむいて、クリスの手を見る。
 手袋と袖の隙間から、傷のようなものがチラリと見えた。つい、クリスの腕を握って、袖をめくる。
「・・・。」
 腕には、ムチで打たれたような傷が無数にあった。
「クリス・・・これ・・・。」
 聞こうとすると、クリスは答えた。
「・・・子供の頃のモノです。」
 そう言うと、彼は馬から降りた。
 馬上からクリスを見下ろすと、その首もと、襟の隙間から奥に見えたのは、やはり傷跡だった。それに手を伸ばす。
「もう、痛くない?」
 サラが聞くと、クリスは笑った。
「十数年前の、古い傷ですからね。」
「そんな子供の頃の・・・?」
 これ以上、きっと聞いてはいけない。そんな気がした。だけど、想像してしまう。同じ年齢のクリスの幼少期はどんなものだったのだろう?、私の想像を絶する、恐ろしい物だったのかもしれない。

「クリス・・。」
「はい。」
 なんとなく、首元の傷跡を撫でる。
「いつも、ありがとう。」
「・・・。」
「クリスが、毎日、一緒にお稽古してくれて、乗馬も教えてくれて、それから、一緒にごはんも食べてくれて、それから・・・、とにかく、居てくれてありがとう!」
 クリスは、真っ直ぐにサラを見た。
 サラは、気持ちを込めて、満面の笑みで言った。
「クリスが居てくれたから、騎士団とも仲良くなれたと思うの。」
 サラの笑顔につられて、クリスも微笑む。
「そのようなことは・・・。あなたは、いつも笑顔で太陽のように笑う。その陰りのない笑顔や言葉に、みんな惹かれるんだと思います。」

 サラは、そんなふうに言われて照れる。
「なんか、それって、やっぱり子供みたいじゃない?もう少し神秘的な女神様のがいいよね?」
 そう言うと、クリスは笑った。
 彼の、その笑顔は、年相応で、なんだかホッとする。  

 ずっとムリして頑張って、先へ先へと進もうと努力して。
 だけど、やっぱり、それは疲れる。

 時々は、こうして等身大の自分に帰るのも、いいよね。
 許してくれるかな?

 そんなふうに思いながら、馬から降りようとすると、バランスを崩した。
「うわっ!!」
 サラは、上手く右足を回す事が出来ずに、馬の背中に足を引っかけてしまい、頭からクリスの上に倒れこむ。クリスは、とっさにサラを支えて、2人で地面に倒れこんだ。

「いったぁ~。ごめん。クリス大丈夫?」
 クリスに抱きつくような形になってしまって、急いで体を起こす。
 
「サラ様!!!」
 テルマの声がして、そちらの方へ視線を移す。

 慌てて走って来る、テルマの後ろには、アーサーとウィルが居た。
 


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