女神なんかじゃない

月野さと

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55話 エマ視点

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 見たことも無い空飛ぶ生き物が、空から降りてきた。
 それと同時に、ターバンを巻いていた男が、魔法で吹き飛んだ。

 降りてきた男性は、煌めくような金髪に、身のこなしは軽やかで美しい人だった。
 そして、男と少し会話をしただろうか?何かを言ったかと思うや否や。持っていた剣で、首を切り落とした。
 あまりの素早さに、恐怖と冷酷さを感じる。
 そう簡単に人を殺せるものなのだろうか?知り合いだったのだろうか?さっきの男は、悪いやつだった。こちらが何もしていないのに、恐ろしい男だった。けれども、目の前の美しい男は、人を殺すことに迷いすら無いように思えた。
 同じ人間とは思えない程に、美しく、冷酷に見えた。

 キラキラとたなびく金髪を揺らして、振り返り、水色の目がルカを捉える。
 
 瞬間にエマは、ルカに駆け寄って庇った。
「来ないで!」
 腹部の傷から、生暖かい血が流れだすのが、自分でも分かる。激痛で、自分が何を言っているのか、相手が何を言っているのか、所々、聞き取れず、分からなくなる。
 ただ、ただただ、ルカを守らなくてはと思う。この体が、動かなくなる前に、ルカをどうにかして逃がさなくてはいけない。
 血塗られた剣を持ち、立っている、美しくも恐ろしい男から、ルカを守らなくてはいけない。

「サラ・・・私が、解らないのか?」

 え?
 ズキズキズキズキズキズキ・・・・考えることすら邪魔をする、腹部の痛み。だけど、今、彼は何と言った?
 改めて、まじまじと目の前の男性の、目を見る。 
 よくよく、見て見れば、降り立って男を殺した時の表情とは違い、不安そうに見る水色の瞳がそこにあった。

 今、彼は、私を名前で呼んだ?・・・サラ?彼はそう言ったのだろうか? 
 突然近づこうとしてくるので、後ずさる。
「あなたは、誰?私たちを放っておいて!!近づかないで!」
 まだ信用できない。この人たちは何者で、誰なのだろう?味方?敵?1歩間違えれば、殺される。その恐怖で、なんとか、ルカを抱えて立っている。

 でも、もう、限界だ。
 傷口から血が流れ続けている。もう、視界も・・・・。

 ルカ・・・ルカ・・・・この子を守らなきゃ。

 なんの取柄も無い、なんにも覚えていない、何も無い私に与えられた、たった1つのもの。
 理由も無く、ただひたすらに私を愛してくれる子。今の私に与えられた、生きていく意味。
 私に舞い降りた、天使。
 たった一人の、血を分けた家族。

 ルカ・・・。  

「サラ!!」
 
 意識が遠のいて行く中、誰かが呼ぶ声。

 サラ・・・?
 それは、誰の名前?
 
「サラ・・・!」

 ・・・私の名前?
 
 聞こえる。泣いている。泣きながら呼ぶ声が。

 あなたは、誰?

 


◇◇◇◇◇




 王城に戻ると、テルマは泣きながら喜んだ。
 レオンが驚いたことには、ゴードンが、サラ様を見て涙ぐんだことだった。

「サラ様には、もう何の力もありません。」
「女神の力が無いのに、陛下と夢で繋がっていたというのか?」
 ゴードンが不思議がる。

 頷いて、レオンは女神の指輪を手に取る。

「この指輪のせいでしょう。」
 ゆらゆらと、エメラルドの光を放つ。くすぶるように魔力を感じる。この指輪には蠢く魔力がある。
「まるで人間のように、突然、感情的に魔力を暴発させたり、澄まして静かに指輪に納まっていたりする。指輪自身が意思を持っているようなのです。」
 サミュエルが、話を聞きながら、腕を組んで言った。
「気味が悪い指輪ですねぇ。まぁ、こいつが、王子の感情に同調して、魔力を増大させてたせいで、居場所が分かったし、カインもてこずってたってことですか。」
 
 レオンは、気が付いていた。
 指輪はアーサー王の為に働く。
 今回は、アーサー王に子供が存在することを、知らせていたのだ。サラ様が生きていることも。
 まさか、同じ世界に居たとは、思ってもいなかった。灯台下暗しとは、こうゆうことなのか。

 指輪はまた、アーサー王のもとに戻った。
 何度手放しても、指輪自身が、アーサー王のもとに戻りたがっているかのようにも思える。


 とりあえず、害のあるものでは無いので、陛下に返却しておこう。


 ルカ王子の部屋に、サミュエルを残して、レオンは部屋を出る。


 さっき、サラ様が言った言葉を思い出す。
 あの雰囲気から、おそらく、記憶を失っている・・・?  

 一難去ってまた一難。
 
 さて、どうしたものか。
 


 

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