継なぐ世界

平成の野衾(ノブ)

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第1話 1片 「逸る」

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 これは、命の世クルアクルと呼ばれる概念世界の話しである。

 この世界の獣人じゅうにんたちは魔法ラスカン変形術ロコンサをによる営みをしている。
 生まれ持った才を表すものが魔法ラスカンとするなら、経験と努力によって培われてきたものが変形術ロコンサである。

 そして今から語ることは全て、1億人以上の人々かが暮らす小さな島国の、とある変形術ロコンサ学校から始まった。







 その日は、乾風からかぜに落ち葉が舞うよく晴れた昼下がりだった。
 暖房の効いた教室といえど、古い校舎の窓際はよく冷気を通す。
 授業終了のチャイムが鳴り、ほどなくクラスは抑圧から解放された熱気で満たされた。

 ほんの短い10分休み。その使い方は人それぞれだが、誰一人勉強をしていないことだけは保証しよう。

 こっそり持ち込んだゲームを取り出す者。部活の話題を持ちかける者。などなど、鬱陶しいほどの喧騒の中で、ただ一人だけ窓際で頬杖をついている少年がいた。

「マオーー!!」

 そんな少年の名前を呼びながら飛び込むクリーム色の毛玉の塊。

「おいハルト、ウサギだからって飛びかかるなって言ってんだろ」
「そういうマオだって、イタチのくせに隙ばっかりだからいけないんだよ」

 迷惑な友人の爪が制服に引っかかったのを外しながら、マオは、「ったく……」と息を漏らす。
 他のクラスだというのにマオが一人でいると決まってやってくるこの少年は、アハ!といつも無神経に明るい。

 ハルトの爪を全て外し終えたマオは、その手を掴みヒョイとそこらに放り投げながら聞く。

「で、今度は・・・何をしでかしたのさ」

 やってきたハルトが鬱陶しいほど、決まって何か裏がある。

 だが、今日はいつもとどこか違っていた。

「そ……じゃなくて違うよ!」

 と目をキラキラと輝かせて机を打つハルトは、自信に満ちあふれた表情でマオを見つめた。

 一瞬つられて肯定しかけるあたりがハルトらしいのだが、今日のテンションはやはりいつもと違っている。

 その勢いに気圧されるようにのけぞりながらマオは思った。

(絶対マトモなことじゃない)

 そして、その予感は案の定的中することとなる。

事象を切り取る術マラカンノサトレを実現したんだよ!」
「はぁあ?」

 事象を切り取る術マラカンノサトレというと、願ったことを何でも叶えられる変形術ロコンサの神髄とまで呼ばれる術のことだ。

「いや、だってそれ……」
「実現不可能って話しでしょ! でも出来ちゃったんだからさぁ!」

 自信満々に地団駄を踏むハルトの姿にマオは頭を抱えて首を振った。
 仮にも変形術ロコンサを専門に学んでいる身だ。事象を切り取る術マラカンノサトレというものがいかにして実現不可能なのかを語るのは容易なことだっただろう。

 だが、ハルトの言うことを真っ向から否定できない訳もあった。

「マオだって分かるでしょ! 術がうまくいったときのあの感じ!」

 ハルトが自信をもつその理由――

 マオが顔をしかめるその理由――

 それはどちらも……



「「ビビッとくる!」」

 同じ言葉で片付いた。



 ……



「……次、実習だろ? 油売ってる場合か」
「あっ! じゃ、放課後また!」

 マオはハルトを追い返し、一人長く息を吐いた。

 幸いにも二人の会話を聞いていた者はいないようで、クラスは変わらず熱気に満ち満ちている。

 視線を外へ向け流れる雲を見つめていれば、チャイムが鳴って喧騒は静まっていった。



(あっ……教科書、後ろだ)






 その後授業を受けている内に、マオの中にあった緊張感は形を潜めていった。

 なんといってもあのハルトが情報源なのだ。普段からよく問題を起こして、先生に叱られているような男の言ったことなのだ。

 確かに事象会得のあの感覚は間違いようのない成功の印だが、かといってそれが本当に事象を切り取る術マラカンノサトレのものかも分からない。
 きっと単に何か別の術の事と勘違いしているに違いない。

 だってあの、ハルトなのだから。



 ――しかし、もし本当にハルトの言うことが事実だったら……

 こんな小さな学校で、世紀を揺るがす大発見がなされたと、それはもう大騒ぎになることだろう。

 連日メディアが取材に来て、ハルトには探求省からのスカウトだってあるかも知れない。

 きっとハルトのことだから、浮かれ放題で鬱陶しいくらいになるんだろうな……

 ……やっぱ、あり得ないな。

 想像してみても馬鹿らしくて思わす笑いがこみ上げてくる。

 さてどんな話が聞けることやらと、マオは放課後が来るのを待ち遠しく思った。

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