上 下
11 / 18

11話「酔いどれエルフ――戦争の気配」

しおりを挟む
「へえ、三代目の皇帝と同じ名前? ですよね、これ」
「自己紹介してなかったか?」
「まああの状況でしたからねー……あの、フォルテ君って呼んでも?」
「いいけど、何でだ?」
「いやあ、知り合いづてでよく聞いていた名前で」

 何気ない会話に花を咲かせる二人。
 眠気と酒気からか、リコのスキンシップは今までになく激しい。
 フォルテは無心にそれを受け止め何とか理性を保つ。

 そんな中、リコの注目はスキルに移った。
 スキルにたどたどしく指を伸ばし、彼に尋ねる。

「この王権スキル……ってやつ? なんですかこれ?」
「王権を知らないのか?」
「聞いたことはあるような……あ、この《契約》ってなんですか?」
「それが俺にもわからなくてな」

 フォルテはそう言うと、眉を歪めて考え込む。
 幸いなことにリコは王権がどのようなものか知らなかった。
 だが彼にもその正体はわからず、うーんと首を捻る。
 その様子を見たからか、リコはポツリと呟いた。

「……いろいろ試してみます?」

 「え?」と間抜けな声を上げるフォルテ。
 するとリコは自身の胸の前でもじもじと指をくゆらせ、照れながらフォルテに微笑みかける。

「私、魔種の恩師がいまして。《魔種の契約》というスキルについて聞いたことが」

 リコがそう語ると、フォルテもそのスキルに思い当たった。
 魔種がその生涯のうち、たった一度だけ他者とかわすことのできるスキル。
 彼は一度アウラにそれを勧められ、断った経験があった。

 心を許している相手でも拒否した理由――発動方法を知るフォルテは、顔を真っ赤にして慌てふためく。

「だ、ダメだっ! 互いのことも知らずにそんな!」
「その様子……知っておられるんですね。マセてますねぇ」

 必死なフォルテの様相を見てニヤリと笑うリコ。
 彼女がずいっと身を寄せると、磁石の反発のようにフォルテは仰け反る。
 じわじわと距離を詰めていくリコから逃げるが、部屋の広さは有限だ。
 やがて彼は部屋の隅に置かれたベッドに背をぶつけた。

 靴を脱ぎ払い、ベッドの上に避難しようとしたフォルテ。
 しかしリコは彼の一瞬のスキを見逃さない。

 ベッド上で一気に距離を詰め、フォルテを壁まで押しやると、彼の両手を片手で取って彼の頭上に拘束した。
 頭の上で両手の自由を奪われ、抵抗できないフォルテ。
 リコは妖しげに笑い彼の耳元に顔を寄せる。

「大丈夫です。私も経験はありませんが、リードしますから……♡」

 ぞわりと背筋を強張らせるフォルテ。
 リコは空いた手で布団を掴むと、自分たちをすっぽりと隠すように広げた。




 翌日早朝、フォルテは宿の外にいた。
 彼は大きく背伸びすると大きなため息と共に独り言を吐く。

「はぁ……危なかった」

 胸をなでおろし、フォルテは昨晩のリコに残っていた酒気へ感謝する。
 襲い掛かったはいいものの眠気に負けたリコは、今も宿でフォルテ代わりに布団を抱いて寝息を立てている。
 それでも抱きしめられ寝ていたフォルテは当然寝不足気味。
小さくあくびを一つつくと、二度寝のために宿へ戻ろうとした。

 しかし――ドアに手をかけた直後、彼は違和感に気付く。

 ドアノブから手を放し周囲を見渡すフォルテ。
 日は登りきっていないが町は十分に明るく、瑞々しい風が流れる。
 そんな中に、あるべきはずのものがない。
 いくら探してもみつからない『ソレ』に、彼の第六感が反応する。

(いない……いくらなんでも、街に人の気配が少なすぎる)

 フォルテは予感を確信すると、そのまま町の外に向けて走り出す。
 人の気配どころか、鳥の鳴き声一つ聞こえない町。

 その静けさは、彼に待ち受ける最初の大きな戦いを予測させるようだった――。

★☆★☆★


小説家になろうで先行公開しております! そちらもご一読ください!
しおりを挟む

処理中です...