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12話「800年後の戦争」
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一晩ぶりに町を飛び出したフォルテは、眼前の光景に言葉を失った。
緩やかな起伏のある草原に、町の戦士達が勢ぞろいしている。数は万にも届く勢いだ。
そんな彼らが町を背に草原の彼方を見つめて騒めく。
フォルテの小さな体では、戦士たちが邪魔をして彼らの見つめるものを目視できない。
何度か跳躍したものの光景を見れなかった彼は、呆然と言葉を漏らす。
「何が、起きているんだ……?」
すると彼の声が聞こえたのか、一人の魔法使いが隊列の中で振り向く。
それは昨日、彼を宿まで送るよう指示した張本人だった。
魔法使いはフォルテに気付き、隊列を離れ彼の元へ歩み寄る。
周囲を数名の兵が護衛するいかにも高位な魔法使いだとわかる彼は、フォルテの目の前でしゃがみ込み、緊張感の張りつめた声で尋ねる。
「キミ、一体なぜここにっ!」
「町に誰もいなくて、嫌な予感がして!」
「民間人は町で待機するよう伝えていたはずです!」
「あの町には昨日来たばかりで……それよりも、これは一体!?」
フォルテが彼に尋ねようとした瞬間、草原にけたたましいラッパの音が鳴り響く。
途端に魔法使い含む戦士達は草原の彼方を見つめた。
ざわめきはやがて、戦士達の雄叫びに変わった。
「来たぞ! 第四大陸の獣人軍だ!」
「5000……いや、6000かっ!?」
戦士達の言葉が余計にフォルテを混乱させた。
彼はこの空気……戦争の息を何度も味わってきた。
だがそれを今の彼はもう聞くこともないと思っていた。
彼が大陸を平定してから、戦争は起きていないのだから。
唖然とするフォルテを置いて、魔法使いは声を荒らげる。
それはこちらの戦士たち……町を守る者たちへの檄だった。
「こちらの獣人達は予定通り第二陣へ! 数は我々のほうが上です! この戦線、猫一匹通すことを禁じますッッ!」
「「「オオオオオオオオオオオオッッッ!!」」」
魔法使いの令に鬨の声を上げる戦士たち。
彼らは各々武器を取り、一斉に草原へ駆け出した。
地鳴りのように足音と声が轟く中、魔法使いはフォルテに囁く。
「キミは町へ戻りなさい」
「だ、だけど!」
「いいから戻るんだっ!」
強い口調で指示を続ける魔法使い。
しかしフォルテの反発心は消えず……ふと、核心的な疑問がよぎった。
「魔法使いさん……三代目の皇帝が崩御したのはどれくらい前だ?」
言葉の一つ一つを噛みしめるようにフォルテは尋ねる。
その問いに驚いた魔法使いは、彼の小さな肩を掴み身を引いた。
フォルテの鷹のように鋭い目に、魔法使いは凍り付く。
昨日のこともあり、魔法使いはフォルテに僅かな疑心を抱いていた。
今の彼を見て、その感情はさらに高まりを増していく。
だが同時に、彼は目の前の少年に運命の引力も覚えていた。
それを確かめるように、魔法使いは返答する。
「今がラムダルアの暦で3716年――約800年前です」
「そうか……」
視線を逸らし、顔の前で手を合わせ沈黙するフォルテ。
それを見て魔法使いは息を飲み、固まっていた。
幸い、フォルテの生きていた時代と暦は変わっていなかった。
しかしそれでも800年――日付に換算すれば29万日を超える時間が、彼の死から経過していた。
それだけの時が経てば、世界が一変してもおかしくない。
皇帝は共に夢を遂げられなかった臣下たちを思い出し、拳を握る。
そして彼は、自身が今に生まれ変わった意味を考えた。
第四大陸からの進軍に怯え、守るために戦う者たち。
どちらの大陸の人々もかつて彼が統治した大陸の人々だ。
どちらに力を貸すのも、彼にはためらいがあった。
しかしその時、彼らの元に傷を負った重装の戦士がやってきた。
戦士は兜を脱ぐと、魔法使いに進言する。
「軍師殿、前線はだいぶ押されてやがる。このままじゃ……!」
戦士はそこまで言うと、魔法使いと共にいるフォルテを見た。
その戦士は、昨日宿まで彼を送り、体を清めてくれた戦士だった。
少年がいることに驚き戦士は目を丸くする。
しかしすぐ表情を戻すと、笑みを浮かべしゃがみ込む。そして自分の顔に滲んでいた血を拭い、フォルテに優しい声で語りかけた。
「昨日のボウズか……確かに戦士になれるってその剣は渡したが、まだまだ早いな。町に戻ってろ」
「だ、だけど!」
「大丈夫。ここは俺達が何とかするからよ。な、軍師殿?」
戦士は格好つけると兜を被り直し戦場へ駆け出す。
フォルテは彼の言葉を聞き、無意識に腰へ手を運んだ。
何の気なしに装備してきた、彼にもらった短剣が手に触れる。
幼い体にはずしりと重いその短剣が、フォルテにも運命の引力を予感させた。
駆けていく戦士の背がみるみる小さくなる。
その背に届くよう、フォルテは胸を膨らませ叫ぶ。
「待てッッッッッ!」
緩やかな起伏のある草原に、町の戦士達が勢ぞろいしている。数は万にも届く勢いだ。
そんな彼らが町を背に草原の彼方を見つめて騒めく。
フォルテの小さな体では、戦士たちが邪魔をして彼らの見つめるものを目視できない。
何度か跳躍したものの光景を見れなかった彼は、呆然と言葉を漏らす。
「何が、起きているんだ……?」
すると彼の声が聞こえたのか、一人の魔法使いが隊列の中で振り向く。
それは昨日、彼を宿まで送るよう指示した張本人だった。
魔法使いはフォルテに気付き、隊列を離れ彼の元へ歩み寄る。
周囲を数名の兵が護衛するいかにも高位な魔法使いだとわかる彼は、フォルテの目の前でしゃがみ込み、緊張感の張りつめた声で尋ねる。
「キミ、一体なぜここにっ!」
「町に誰もいなくて、嫌な予感がして!」
「民間人は町で待機するよう伝えていたはずです!」
「あの町には昨日来たばかりで……それよりも、これは一体!?」
フォルテが彼に尋ねようとした瞬間、草原にけたたましいラッパの音が鳴り響く。
途端に魔法使い含む戦士達は草原の彼方を見つめた。
ざわめきはやがて、戦士達の雄叫びに変わった。
「来たぞ! 第四大陸の獣人軍だ!」
「5000……いや、6000かっ!?」
戦士達の言葉が余計にフォルテを混乱させた。
彼はこの空気……戦争の息を何度も味わってきた。
だがそれを今の彼はもう聞くこともないと思っていた。
彼が大陸を平定してから、戦争は起きていないのだから。
唖然とするフォルテを置いて、魔法使いは声を荒らげる。
それはこちらの戦士たち……町を守る者たちへの檄だった。
「こちらの獣人達は予定通り第二陣へ! 数は我々のほうが上です! この戦線、猫一匹通すことを禁じますッッ!」
「「「オオオオオオオオオオオオッッッ!!」」」
魔法使いの令に鬨の声を上げる戦士たち。
彼らは各々武器を取り、一斉に草原へ駆け出した。
地鳴りのように足音と声が轟く中、魔法使いはフォルテに囁く。
「キミは町へ戻りなさい」
「だ、だけど!」
「いいから戻るんだっ!」
強い口調で指示を続ける魔法使い。
しかしフォルテの反発心は消えず……ふと、核心的な疑問がよぎった。
「魔法使いさん……三代目の皇帝が崩御したのはどれくらい前だ?」
言葉の一つ一つを噛みしめるようにフォルテは尋ねる。
その問いに驚いた魔法使いは、彼の小さな肩を掴み身を引いた。
フォルテの鷹のように鋭い目に、魔法使いは凍り付く。
昨日のこともあり、魔法使いはフォルテに僅かな疑心を抱いていた。
今の彼を見て、その感情はさらに高まりを増していく。
だが同時に、彼は目の前の少年に運命の引力も覚えていた。
それを確かめるように、魔法使いは返答する。
「今がラムダルアの暦で3716年――約800年前です」
「そうか……」
視線を逸らし、顔の前で手を合わせ沈黙するフォルテ。
それを見て魔法使いは息を飲み、固まっていた。
幸い、フォルテの生きていた時代と暦は変わっていなかった。
しかしそれでも800年――日付に換算すれば29万日を超える時間が、彼の死から経過していた。
それだけの時が経てば、世界が一変してもおかしくない。
皇帝は共に夢を遂げられなかった臣下たちを思い出し、拳を握る。
そして彼は、自身が今に生まれ変わった意味を考えた。
第四大陸からの進軍に怯え、守るために戦う者たち。
どちらの大陸の人々もかつて彼が統治した大陸の人々だ。
どちらに力を貸すのも、彼にはためらいがあった。
しかしその時、彼らの元に傷を負った重装の戦士がやってきた。
戦士は兜を脱ぐと、魔法使いに進言する。
「軍師殿、前線はだいぶ押されてやがる。このままじゃ……!」
戦士はそこまで言うと、魔法使いと共にいるフォルテを見た。
その戦士は、昨日宿まで彼を送り、体を清めてくれた戦士だった。
少年がいることに驚き戦士は目を丸くする。
しかしすぐ表情を戻すと、笑みを浮かべしゃがみ込む。そして自分の顔に滲んでいた血を拭い、フォルテに優しい声で語りかけた。
「昨日のボウズか……確かに戦士になれるってその剣は渡したが、まだまだ早いな。町に戻ってろ」
「だ、だけど!」
「大丈夫。ここは俺達が何とかするからよ。な、軍師殿?」
戦士は格好つけると兜を被り直し戦場へ駆け出す。
フォルテは彼の言葉を聞き、無意識に腰へ手を運んだ。
何の気なしに装備してきた、彼にもらった短剣が手に触れる。
幼い体にはずしりと重いその短剣が、フォルテにも運命の引力を予感させた。
駆けていく戦士の背がみるみる小さくなる。
その背に届くよう、フォルテは胸を膨らませ叫ぶ。
「待てッッッッッ!」
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