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ニ〇ニ〇年、九月六日。
東京の街のファストフード店には、昼間から暇と小銭を持て余す子供連れの太っちょパパ達が、殺人的高カロリーのチキンナゲットを口に放り込んでいた。
その店の奥の席で腰かけるのは、中学生くらい、とよくからかわれる幼い容姿をした一人の私。
私以外の席には皆、倍以上の脂肪を蓄えた人間が大勢群れているため、私がいっそう華奢に見えるはずだろう。
周囲の巨体があまりにも醜いため、私は思わず視線を店の外の大通りへそらす。
その時、私の視界に、一人の男の姿が入った。
大通りの人混みを歩いていても頭一つ程背の高い彼は、まっすぐこの店へ駆け寄ると、私と目を会わせて店内へ入ってくる。
彼は珈琲の空き缶をゴミ箱へ捨てると、私に挨拶をした。
「おはよう。流石は大都会の日曜日だね、なんだか僕の故郷とは空気が違う」
彼を相席に座らせると、私はメニューを眺めながら尋ねた。
「そうね。とても油っこい空気だわ。モーニングセットでいい?」
私は彼が黙って頷いたのを確認し、店員に注文を伝えた。
やがて運ばれてきたハンバーガーには、狂気を感じる程に沢山のソースが垂れていた。
彼は思わず驚きの声をあげる。
「おっと。死んでいった豚達には大変失礼だろうけど、僕には自分の健康を守る権利があるから。そうだな、サラダだけいただくよ」
「好きにすれば。ここのキッチンに立ってるのが誰か知ってるの?」
私は彼のトレーからハンバーガーを奪い取ると、小声で言った。
「アンドロイドよ」
彼は手にしていたフォークを置き、上着のポケットからビタミンガムを取り出すと、二つ口に投げ込んだ。
「私もやめておくわ、これは……」
私は彼からビタミンガムを貰うと、しっかりと前に向き直り、彼の目を見つめて話し始めた。
「こんな所に私を呼び出して、何の要?」
私が前髪を手で軽く流して尋ねると、彼は私の目を見つめて口を開いた。
「君に相談があるんだ」
「相談?」
微笑んで聞き返した私に、彼は真剣な様子でこう言った。
「今から、その、君がとても驚く実験を見せる。まぁ、黙って従ってくれ」
偉そうに言い放つと、彼は上着のポケットから裏の黒いメモ用紙とボールペンを取り出し、私に有無を言わさず手渡して言った。
「そこに何か描いてくれ、数字でもイラストでもヒエログリフでも良い」
懐からアイマスクを抜き出して装着している彼に、私はため息混じりに言う。
「いったい何を始める気?」
そんな事を言っても、私は適当にペンを動かしてゆく。
しばらくしてペンのキャップを閉めると、私は紙の裏を上にしてテーブルに置き、彼に問いかけた。
「できたわ、それで? どんな実験を見せてくれるの?」
「今から君が、その紙に何を描いたのか当てる」
私は思わず深いため息を吐く。
呆れて笑っている私に、彼は真面目な表情を崩さず口を開いた。
「君はその紙に…… 」
彼は細く微笑んで。
「何も描いていない」
「おみごと」
彼は満足そうな顔で尋ねてくる。
「どうして何も描かなかったんだい?」
「簡単よ。透視のトリックで最も多いインチキが、断片的な結論をあたかも本当の様に言って、透視能力の存在をまず相手に確信させる。けどそれは完全な証明ではない」
「なるほど。つまり、見えた物の詳細は言えないけど、でもだいたいは見えていたよ。みたいな嘘を言って誤魔化すパターンか」
「そうよ、誰でもあり得るような根拠を適当に言って、運が良ければ透視能力と言い張るだけの仕事。小学生でもできるわ」
私は更に続ける。
「次に多いインチキは、そこそこ訓練が必要なの」
「暇人な奴もいるもんだ」
「……紙を透かしたり後ろにミラーを置いたりしなくても、描き手の視線や腕の筋肉の細かな動き、ペンの進む向きや、擦れていた時間の長さを観察して、紙の上で何が描かれているのかおおよそ推測できる様に訓練するの。一流のポリスメンならこれくらい簡単だそうよ」
私がそう言って彼に視線を送ると、彼は三つ目のガムを捨ててこう言った。
「でも僕はアイマスクをしていたから、それもできない」
「透視すると言って私に何か描かせるなら、仕掛人は嘘でも『紙に何か描かれている』前提で話を進めてくると思ったの。デタラメを言っても、もしかしたら嘘が真実にヒットするかも知れないじゃない? 」
「でも、僕は君がその紙に何も描いていないと読んだ」
「だから驚いたのよ…… 」
彼はうつ向いた私に三つ目のガムを渡して、こう言った。
「だから驚かせるって言っただろ? 」
東京の街のファストフード店には、昼間から暇と小銭を持て余す子供連れの太っちょパパ達が、殺人的高カロリーのチキンナゲットを口に放り込んでいた。
その店の奥の席で腰かけるのは、中学生くらい、とよくからかわれる幼い容姿をした一人の私。
私以外の席には皆、倍以上の脂肪を蓄えた人間が大勢群れているため、私がいっそう華奢に見えるはずだろう。
周囲の巨体があまりにも醜いため、私は思わず視線を店の外の大通りへそらす。
その時、私の視界に、一人の男の姿が入った。
大通りの人混みを歩いていても頭一つ程背の高い彼は、まっすぐこの店へ駆け寄ると、私と目を会わせて店内へ入ってくる。
彼は珈琲の空き缶をゴミ箱へ捨てると、私に挨拶をした。
「おはよう。流石は大都会の日曜日だね、なんだか僕の故郷とは空気が違う」
彼を相席に座らせると、私はメニューを眺めながら尋ねた。
「そうね。とても油っこい空気だわ。モーニングセットでいい?」
私は彼が黙って頷いたのを確認し、店員に注文を伝えた。
やがて運ばれてきたハンバーガーには、狂気を感じる程に沢山のソースが垂れていた。
彼は思わず驚きの声をあげる。
「おっと。死んでいった豚達には大変失礼だろうけど、僕には自分の健康を守る権利があるから。そうだな、サラダだけいただくよ」
「好きにすれば。ここのキッチンに立ってるのが誰か知ってるの?」
私は彼のトレーからハンバーガーを奪い取ると、小声で言った。
「アンドロイドよ」
彼は手にしていたフォークを置き、上着のポケットからビタミンガムを取り出すと、二つ口に投げ込んだ。
「私もやめておくわ、これは……」
私は彼からビタミンガムを貰うと、しっかりと前に向き直り、彼の目を見つめて話し始めた。
「こんな所に私を呼び出して、何の要?」
私が前髪を手で軽く流して尋ねると、彼は私の目を見つめて口を開いた。
「君に相談があるんだ」
「相談?」
微笑んで聞き返した私に、彼は真剣な様子でこう言った。
「今から、その、君がとても驚く実験を見せる。まぁ、黙って従ってくれ」
偉そうに言い放つと、彼は上着のポケットから裏の黒いメモ用紙とボールペンを取り出し、私に有無を言わさず手渡して言った。
「そこに何か描いてくれ、数字でもイラストでもヒエログリフでも良い」
懐からアイマスクを抜き出して装着している彼に、私はため息混じりに言う。
「いったい何を始める気?」
そんな事を言っても、私は適当にペンを動かしてゆく。
しばらくしてペンのキャップを閉めると、私は紙の裏を上にしてテーブルに置き、彼に問いかけた。
「できたわ、それで? どんな実験を見せてくれるの?」
「今から君が、その紙に何を描いたのか当てる」
私は思わず深いため息を吐く。
呆れて笑っている私に、彼は真面目な表情を崩さず口を開いた。
「君はその紙に…… 」
彼は細く微笑んで。
「何も描いていない」
「おみごと」
彼は満足そうな顔で尋ねてくる。
「どうして何も描かなかったんだい?」
「簡単よ。透視のトリックで最も多いインチキが、断片的な結論をあたかも本当の様に言って、透視能力の存在をまず相手に確信させる。けどそれは完全な証明ではない」
「なるほど。つまり、見えた物の詳細は言えないけど、でもだいたいは見えていたよ。みたいな嘘を言って誤魔化すパターンか」
「そうよ、誰でもあり得るような根拠を適当に言って、運が良ければ透視能力と言い張るだけの仕事。小学生でもできるわ」
私は更に続ける。
「次に多いインチキは、そこそこ訓練が必要なの」
「暇人な奴もいるもんだ」
「……紙を透かしたり後ろにミラーを置いたりしなくても、描き手の視線や腕の筋肉の細かな動き、ペンの進む向きや、擦れていた時間の長さを観察して、紙の上で何が描かれているのかおおよそ推測できる様に訓練するの。一流のポリスメンならこれくらい簡単だそうよ」
私がそう言って彼に視線を送ると、彼は三つ目のガムを捨ててこう言った。
「でも僕はアイマスクをしていたから、それもできない」
「透視すると言って私に何か描かせるなら、仕掛人は嘘でも『紙に何か描かれている』前提で話を進めてくると思ったの。デタラメを言っても、もしかしたら嘘が真実にヒットするかも知れないじゃない? 」
「でも、僕は君がその紙に何も描いていないと読んだ」
「だから驚いたのよ…… 」
彼はうつ向いた私に三つ目のガムを渡して、こう言った。
「だから驚かせるって言っただろ? 」
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