THE Winter

亞癒追 央矢

文字の大きさ
1 / 1

OPEN

しおりを挟む
 ニ〇ニ〇年、九月六日。


 東京の街のファストフード店には、昼間から暇と小銭を持て余す子供連れの太っちょパパ達が、殺人的高カロリーのチキンナゲットを口に放り込んでいた。

 その店の奥の席で腰かけるのは、中学生くらい、とよくからかわれる幼い容姿をした一人の私。

 私以外の席には皆、倍以上の脂肪を蓄えた人間が大勢群れているため、私がいっそう華奢に見えるはずだろう。

 周囲の巨体があまりにも醜いため、私は思わず視線を店の外の大通りへそらす。

 その時、私の視界に、一人の男の姿が入った。

 大通りの人混みを歩いていても頭一つ程背の高い彼は、まっすぐこの店へ駆け寄ると、私と目を会わせて店内へ入ってくる。

 彼は珈琲の空き缶をゴミ箱へ捨てると、私に挨拶をした。

 「おはよう。流石は大都会の日曜日だね、なんだか僕の故郷とは空気が違う」

 彼を相席に座らせると、私はメニューを眺めながら尋ねた。

 「そうね。とても油っこい空気だわ。モーニングセットでいい?」

 私は彼が黙って頷いたのを確認し、店員に注文を伝えた。

 やがて運ばれてきたハンバーガーには、狂気を感じる程に沢山のソースが垂れていた。
 彼は思わず驚きの声をあげる。

 「おっと。死んでいった豚達には大変失礼だろうけど、僕には自分の健康を守る権利があるから。そうだな、サラダだけいただくよ」

 「好きにすれば。ここのキッチンに立ってるのが誰か知ってるの?」

 私は彼のトレーからハンバーガーを奪い取ると、小声で言った。
 
 「アンドロイドよ」

 彼は手にしていたフォークを置き、上着のポケットからビタミンガムを取り出すと、二つ口に投げ込んだ。

 「私もやめておくわ、これは……」

 私は彼からビタミンガムを貰うと、しっかりと前に向き直り、彼の目を見つめて話し始めた。

 「こんな所に私を呼び出して、何の要?」

 私が前髪を手で軽く流して尋ねると、彼は私の目を見つめて口を開いた。

 「君に相談があるんだ」

 「相談?」

 微笑んで聞き返した私に、彼は真剣な様子でこう言った。

 「今から、その、君がとても驚く実験を見せる。まぁ、黙って従ってくれ」

 偉そうに言い放つと、彼は上着のポケットから裏の黒いメモ用紙とボールペンを取り出し、私に有無を言わさず手渡して言った。

「そこに何か描いてくれ、数字でもイラストでもヒエログリフでも良い」

 懐からアイマスクを抜き出して装着している彼に、私はため息混じりに言う。

 「いったい何を始める気?」

 そんな事を言っても、私は適当にペンを動かしてゆく。

 しばらくしてペンのキャップを閉めると、私は紙の裏を上にしてテーブルに置き、彼に問いかけた。

 「できたわ、それで? どんな実験を見せてくれるの?」

 「今から君が、その紙に何を描いたのか当てる」

 私は思わず深いため息を吐く。
 呆れて笑っている私に、彼は真面目な表情を崩さず口を開いた。

 「君はその紙に…… 」

 彼は細く微笑んで。

 「何も描いていない」

 「おみごと」

 彼は満足そうな顔で尋ねてくる。

 「どうして何も描かなかったんだい?」

 「簡単よ。透視のトリックで最も多いインチキが、断片的な結論をあたかも本当の様に言って、透視能力の存在をまず相手に確信させる。けどそれは完全な証明ではない」

 「なるほど。つまり、見えた物の詳細は言えないけど、でもだいたいは見えていたよ。みたいな嘘を言って誤魔化すパターンか」

 「そうよ、誰でもあり得るような根拠を適当に言って、運が良ければ透視能力と言い張るだけの仕事。小学生でもできるわ」

 私は更に続ける。

 「次に多いインチキは、そこそこ訓練が必要なの」

 「暇人な奴もいるもんだ」

 「……紙を透かしたり後ろにミラーを置いたりしなくても、描き手の視線や腕の筋肉の細かな動き、ペンの進む向きや、擦れていた時間の長さを観察して、紙の上で何が描かれているのかおおよそ推測できる様に訓練するの。一流のポリスメンならこれくらい簡単だそうよ」

 私がそう言って彼に視線を送ると、彼は三つ目のガムを捨ててこう言った。

 「でも僕はアイマスクをしていたから、それもできない」

 「透視すると言って私に何か描かせるなら、仕掛人は嘘でも『紙に何か描かれている』前提で話を進めてくると思ったの。デタラメを言っても、もしかしたら嘘が真実にヒットするかも知れないじゃない? 」

 「でも、僕は君がその紙に何も描いていないと読んだ」

 「だから驚いたのよ…… 」

 彼はうつ向いた私に三つ目のガムを渡して、こう言った。

 「だから驚かせるって言っただろ? 」


 


しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

山本記代   (元:青瀬 理央)

拝読させて頂きました。

ヤバいですね、中学生女子。
生意気で可愛いです。

御依頼頂いた勝負、受けて立ちます。
香月探偵事務所は依頼を選びませんよ。

















ガクガクガクガク (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

解除

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。