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前編
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魔力ーーそれは創造神が地上の生物のために生み出した完全物質であり、魔法という技術を使用するのには欠かせないものである。
その魔力を体内に持ち、知能が低い生物を『魔物』と呼んだ。
知能が低くも奴らが本能的に使用する魔法は人族にとって容認できない脅威だった。
◆
鬱蒼と生える木々と膝まで伸びた雑草。視界が悪く、たとえ魔物が潜んでいようとも視認することはできないだろう。
だからこそ、微かな気配も見落とさないように全神経を集中させる。
ここは未踏の地ーー巨大森林地帯アンディバル。
国からの命令によりアンディバルへと派遣されたのは隊長バース率いる探検隊ーー10人で構成された少数精鋭の決死隊だ。
そこに所属するベイクは、極度の緊張状態の中にいた。
気を抜けば死ぬ。気を抜かなくとも運が悪ければ死ぬ。常人ならばこの状況に耐えられないだろう。
たが、それでも探検隊に所属しているのは未知を探索し解明することへの高揚感、そして未知を既知にすることにより少しでも人々に安心を届けるためだ。
◆
アンディバルに入ってから数時間が経った。現れる魔物は小型で既に発見されている種類ばかりだ。
既に発見されている魔物は危険性はあるものの、対処法が確立されているため大きな脅威とはならない。
「ーーーー」
隊長のバースが後ろの隊員に手のひらを向け静止を示す。
ベイクも他の隊員も些細な違和感を肌で感じ取っていた。また同じ小型の魔物が潜伏しているのかと剣を構え、警戒を強めているとーー
「……上だ!」
隊長の声に皆が一斉に上を向く。ベイクが視界にとらえたのは、跳躍したのであろう巨大な人型の生物が両手で手を握り、それを空中で大きく振りかざしている場面だった。
隊長の指示によって、すぐさま隊全体が攻撃を避けるため大きく後退する。
その化け物が落下しつつ地面に向けてそれを振り下ろすと、立っていられないような振動と共に大地に亀裂が走り、隆起した。
砂埃で視界が遮られ、仲間と化け物の位置の両方が認識できない。
「ーーーー!」
突如地面が軋む音が鼓膜を揺らした。
その直後、『ぶぎゅび』という破裂音が聞こえたと思うと、爆風が吹き荒れ砂塵を退かす。
視界が開け、見えたのは4メートルはあるかという赤黒い毛で覆われた筋肉質な巨軀。そして余裕の表情で笑みを浮かべ、鋭利な歯を見せている卑劣な顔面とそれに似つかわしくない猫のような耳だ。
発見された魔物の知識は全て頭に入れてある。間違いない。新種の魔物だ。
ベイクは隊長に指示を求めようとしてーー気づいた。化け物の右手からポタポタと血が滴っている。
「デルモンド! 生きてるか!?」
隊長の悲痛な声が隊員の名前を呼ぶ。しかし返事はない。
ベイクは咄嗟に隊長が声をかけた方向へと視線を移すとーーそこにはかろうじて誰か判別できるほど体がひしゃげたデルモンドの姿があった。
「隊長! 指示を!」
隊員の一人が隊長に指示を仰ぐ。
「……此処で仕留める!」
バースが、隊員に向けて指示を出すと、皆一斉に臨戦大勢に入る。
右手についた鮮血を舐め、にやけている化け物は、大剣を構え先頭に立つバース目掛けて右拳を振り下ろす。
まともに受ければ即死。かといって避ければ地面が更に隆起して不安定になり砂塵が舞い散る。
バースは死を纏った拳に臆することなく姿勢を落としながら懐に踏み込み、拳が地面に衝突する前に怪物の手首目がけて大剣を斬り上げた。
大剣は怪物の手首を切り落とし、切断面からは鮮血が噴水のように噴き出る。
化け物は手首を切り落とされた痛みからか耳をつんざくような咆哮を放つ。
一番近くにいたバースはその轟音によって動きが一瞬止まってしまう。
化け物はその隙を見逃さず、残る左手によってバースの脇腹に向けて腕を鞭のようにしならせ、命を刈り取ろうとするがーー
「隊長ーーーー!」
大盾を持った隊員が全てを薙ぎ倒す腕の鞭を受け止めるため、バースと化け物の間に飛び込んだ。
しかし大盾は無惨に砕かれバースもろとも吹き飛ばされる。
ベイク含めた他の隊員は隊長たちへの追撃を防ぐため突撃し、即効性の毒が塗られた短剣と弓で化け物の動きを鈍らせようとする。
化け物が又もや腕を鞭のようにしならせ前方広範囲をなぎ払おうとする。しかし出血多量によってか先程に比べ大幅に遅い。
攻撃範囲に入っていたベイル含む5人はすぐさま後ろに下がり攻撃を逃れた。風圧によって土埃が舞うが視野を失う程ではない。
化け物の左右から毒が塗られた矢が放たれ足首に刺さる。化け物がたじろいだ瞬間を見逃さず一斉に仕掛け、毒を塗った短剣で複数の傷をつけた。
剣によって深い傷を負わそうとすれば反撃を食らってしまう。出血多量と毒によって体の自由を完全に奪ってから確実に頭を落とすのだ。
「……え、何こ……」
ーーしかし完璧と思われた勝利への道筋は一匹の獣によって無慈悲にも閉ざされた。
「どうした!? 何かあったの……」
ベイクが異変を感じ取って声が聞こえた方向へ視線を向けるとーー、一匹の魔物が隊員の首を噛みちぎっていた。
「……"アルシフル”」
既に遠い昔に発見され、固有魔法も解明された魔物。魔法の効果は確か身体の一時的な透明化。
一度獲物と定めた生物を永遠に追跡し、隙が出来た瞬間に透明化して背後から首を噛みちぎるという習性があったはず。
こいつに気を配れるほどの余裕はない。最悪陣形が崩壊して全滅なんてこともあり得る。
ーーベイクは即座に決断した。
「俺がアルシフルを引きつける! お前らはその化け物に集中してろ!」
アルシフルは現在、一番近いベイクを獲物として定めている。しかしベイクが殺されれば次は化け物と戦っている仲間に攻撃を仕掛ける可能性が高い。
つまりなるべく此処から離れて化け物を倒せるまでの時間を稼ぐのが最善策のはず。
「こっちだ犬っころ!」
ベイクはアルシフルに向けて予備の短剣を投げ、追いかけてくるのを確認しながらなるべく化け物と距離を取れるよう走り出す。
「ベイク! 生き残れよ!」
背後から仲間の声が聞こえる。その声はベイクの心を奮い立たせ、決死の覚悟をより強固なものへと昇華させる。
ーー仲間のためにも生き残らねば!
ベイクは心に固く誓った。たとえそれが叶わないと分かっていてもーー。
その魔力を体内に持ち、知能が低い生物を『魔物』と呼んだ。
知能が低くも奴らが本能的に使用する魔法は人族にとって容認できない脅威だった。
◆
鬱蒼と生える木々と膝まで伸びた雑草。視界が悪く、たとえ魔物が潜んでいようとも視認することはできないだろう。
だからこそ、微かな気配も見落とさないように全神経を集中させる。
ここは未踏の地ーー巨大森林地帯アンディバル。
国からの命令によりアンディバルへと派遣されたのは隊長バース率いる探検隊ーー10人で構成された少数精鋭の決死隊だ。
そこに所属するベイクは、極度の緊張状態の中にいた。
気を抜けば死ぬ。気を抜かなくとも運が悪ければ死ぬ。常人ならばこの状況に耐えられないだろう。
たが、それでも探検隊に所属しているのは未知を探索し解明することへの高揚感、そして未知を既知にすることにより少しでも人々に安心を届けるためだ。
◆
アンディバルに入ってから数時間が経った。現れる魔物は小型で既に発見されている種類ばかりだ。
既に発見されている魔物は危険性はあるものの、対処法が確立されているため大きな脅威とはならない。
「ーーーー」
隊長のバースが後ろの隊員に手のひらを向け静止を示す。
ベイクも他の隊員も些細な違和感を肌で感じ取っていた。また同じ小型の魔物が潜伏しているのかと剣を構え、警戒を強めているとーー
「……上だ!」
隊長の声に皆が一斉に上を向く。ベイクが視界にとらえたのは、跳躍したのであろう巨大な人型の生物が両手で手を握り、それを空中で大きく振りかざしている場面だった。
隊長の指示によって、すぐさま隊全体が攻撃を避けるため大きく後退する。
その化け物が落下しつつ地面に向けてそれを振り下ろすと、立っていられないような振動と共に大地に亀裂が走り、隆起した。
砂埃で視界が遮られ、仲間と化け物の位置の両方が認識できない。
「ーーーー!」
突如地面が軋む音が鼓膜を揺らした。
その直後、『ぶぎゅび』という破裂音が聞こえたと思うと、爆風が吹き荒れ砂塵を退かす。
視界が開け、見えたのは4メートルはあるかという赤黒い毛で覆われた筋肉質な巨軀。そして余裕の表情で笑みを浮かべ、鋭利な歯を見せている卑劣な顔面とそれに似つかわしくない猫のような耳だ。
発見された魔物の知識は全て頭に入れてある。間違いない。新種の魔物だ。
ベイクは隊長に指示を求めようとしてーー気づいた。化け物の右手からポタポタと血が滴っている。
「デルモンド! 生きてるか!?」
隊長の悲痛な声が隊員の名前を呼ぶ。しかし返事はない。
ベイクは咄嗟に隊長が声をかけた方向へと視線を移すとーーそこにはかろうじて誰か判別できるほど体がひしゃげたデルモンドの姿があった。
「隊長! 指示を!」
隊員の一人が隊長に指示を仰ぐ。
「……此処で仕留める!」
バースが、隊員に向けて指示を出すと、皆一斉に臨戦大勢に入る。
右手についた鮮血を舐め、にやけている化け物は、大剣を構え先頭に立つバース目掛けて右拳を振り下ろす。
まともに受ければ即死。かといって避ければ地面が更に隆起して不安定になり砂塵が舞い散る。
バースは死を纏った拳に臆することなく姿勢を落としながら懐に踏み込み、拳が地面に衝突する前に怪物の手首目がけて大剣を斬り上げた。
大剣は怪物の手首を切り落とし、切断面からは鮮血が噴水のように噴き出る。
化け物は手首を切り落とされた痛みからか耳をつんざくような咆哮を放つ。
一番近くにいたバースはその轟音によって動きが一瞬止まってしまう。
化け物はその隙を見逃さず、残る左手によってバースの脇腹に向けて腕を鞭のようにしならせ、命を刈り取ろうとするがーー
「隊長ーーーー!」
大盾を持った隊員が全てを薙ぎ倒す腕の鞭を受け止めるため、バースと化け物の間に飛び込んだ。
しかし大盾は無惨に砕かれバースもろとも吹き飛ばされる。
ベイク含めた他の隊員は隊長たちへの追撃を防ぐため突撃し、即効性の毒が塗られた短剣と弓で化け物の動きを鈍らせようとする。
化け物が又もや腕を鞭のようにしならせ前方広範囲をなぎ払おうとする。しかし出血多量によってか先程に比べ大幅に遅い。
攻撃範囲に入っていたベイル含む5人はすぐさま後ろに下がり攻撃を逃れた。風圧によって土埃が舞うが視野を失う程ではない。
化け物の左右から毒が塗られた矢が放たれ足首に刺さる。化け物がたじろいだ瞬間を見逃さず一斉に仕掛け、毒を塗った短剣で複数の傷をつけた。
剣によって深い傷を負わそうとすれば反撃を食らってしまう。出血多量と毒によって体の自由を完全に奪ってから確実に頭を落とすのだ。
「……え、何こ……」
ーーしかし完璧と思われた勝利への道筋は一匹の獣によって無慈悲にも閉ざされた。
「どうした!? 何かあったの……」
ベイクが異変を感じ取って声が聞こえた方向へ視線を向けるとーー、一匹の魔物が隊員の首を噛みちぎっていた。
「……"アルシフル”」
既に遠い昔に発見され、固有魔法も解明された魔物。魔法の効果は確か身体の一時的な透明化。
一度獲物と定めた生物を永遠に追跡し、隙が出来た瞬間に透明化して背後から首を噛みちぎるという習性があったはず。
こいつに気を配れるほどの余裕はない。最悪陣形が崩壊して全滅なんてこともあり得る。
ーーベイクは即座に決断した。
「俺がアルシフルを引きつける! お前らはその化け物に集中してろ!」
アルシフルは現在、一番近いベイクを獲物として定めている。しかしベイクが殺されれば次は化け物と戦っている仲間に攻撃を仕掛ける可能性が高い。
つまりなるべく此処から離れて化け物を倒せるまでの時間を稼ぐのが最善策のはず。
「こっちだ犬っころ!」
ベイクはアルシフルに向けて予備の短剣を投げ、追いかけてくるのを確認しながらなるべく化け物と距離を取れるよう走り出す。
「ベイク! 生き残れよ!」
背後から仲間の声が聞こえる。その声はベイクの心を奮い立たせ、決死の覚悟をより強固なものへと昇華させる。
ーー仲間のためにも生き残らねば!
ベイクは心に固く誓った。たとえそれが叶わないと分かっていてもーー。
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