28 / 293
第三章
25話 踊り子ヒュウヲウン
ヒュウヲウンに用心棒として雇われて、彼女を踊り子達の元へ送り届けることができた。フードを深く被ったローブ3人組なんか見たら怪し過ぎる。人攫いや商人に間違われていたのかもしれない。心外だが。
因みにローブは服屋でちゃっかり貰っていた。その服しかないのかとでき上がるまでの間着るものがないだろうとジノやイルエラに渡してくれたようだ。
まあ、43層の囚人達が着用している一般的に認知されている囚人服ではなく、イルエラやジノは特別扱いされていた為か、二人とも違うデザインだ。二人は似たような服を着ている。ハイブリッドを実験する際に着せられていた衣装だった気がする。
それを着ていても44層より高い階——つまり43層から上の住民は彼等や実験場の存在を知らない。
44層も囚人達を実験体として扱っている為、実験場の存在は特定の人物達にしか知られていない筈だ。専門の兵士もいるだろう。
しかし博士や王族達はもちろん、博士の助手も知っている上、今回俺達を追っていた兵士達が捜索に当たっているだろうから見られたらお終いなのだ。
まあ、顔を覚えられているのは博士と助手位だろうが、服装を変えなければ一瞬でバレてしまう。……俺とイルエラは派手だからもしかしたら覚えられている可能性もあるけど。
俺の見廻りの服は所謂兵士の服と似ている為、店主は兵士だとでも思っているんだろう。
騙すみたいになってしまったが致し方ないか。
その分常連になって、俺達を稼ぎにして貰おう。
——確か店主には娘が二人いた。
夜に占いをしているライナと言う大人っぽい女性と、2つ結びのサイラと言う女の子が彼の娘であることが公式サイトで紹介されている。
ヒュウヲウンは踊り子で派手な衣装や露出が多い衣装が多いが、彼女の内面には清楚な印象を与えられる。
ライナは衣装は地味だが露出が多く、しかし男性との関係も深いのか、そちらを仄めかしながらウォルズをからかうような台詞が多い。
ヒュウヲウンに次いで人気の高いキャラクターだ。
——彼女達に食わせる飯を俺達が提供しようじゃないか。いつか。
ヒュウヲウンの薄い衣装を直視できなくてイルエラを見上げていると、目が合って、ん? と首を傾げるとじっとそのまま見つめられてしまった。
「イルエラ?」
「…………」
二人して目が離せず見つめ合ったままでいると、ジノに足を踏まれて彼に「何すんだ」と顔を向ければ「間抜けな顔してたから寝てるのかと思って」と睨まれた。
もっと優しい起こし方はないのか!
ふと視線を感じてジノの隣を見てみると、むぎぃぃ、と唇を噛んでヒュウヲウンが地団駄を踏んでいる。
「わ、私! 報酬取ってきますから!」
そう言ってキィィッと言いながら踊り子達のいるテントへ入っていってしまった。
中から、「心配したわ、良かった」「探しに行こうと思っていたんだけど、私達は待機しろと言われてしまって」「何人か探しに行ってくれたけど、入れ違ってしまったみたい」と女性達の声が次々と聞こえてくる。
かなりの人数がいるみたいだな。
そう言えばゲームでは踊り子集団として活動するランシャと呼ばれるグループがいた。
各層で活躍している人気者達だ。
祭りや前座で引っ張りだこで、ヒュウヲウンは中でも人気ダントツでランシャの華と呼ばれるほどの実力を持っている。
賑やかなテントの中からヒュウヲウンがやって来て、布袋を差し出した。
「中に報酬が入ってるよ。ごめんね、ちょっと少ないんだけど」
確かゲームの序盤のミッションだから、報酬は彼女の言う通り少ない筈だ。
んん、思い出せない。……流石に報酬の内容を覚えておくことはできないか。
キャラの設定も所々忘れているし、ストーリーも印象的だった回しか思い出せない。
「ありがとう。送っただけなのに貰うなんて申し訳ないな」
「ううん、一人だったらきっと辿り着けてなかった」
柔らかく微笑む彼女にうっとりしていたら、ジノが背中に飛び付き、耳に齧り付いて来る。ぎゃあああああっと悲鳴をあげて暴れ回っていると、イルエラが袋の中身を確認した。
「何だこれは?」
と白い饅頭のようなモノを3つ取り出した。ピンポン玉サイズだ。
「わ、私の手作りなんです! 是非皆さんで食べてください……っ」
キラキラな眼差しを向けた後、頰を包んでモジモジし出す。やはり惚れたか。
チラチラと俺を見てニヤついてくるのは何故だ? ヴァントリアに惚れる訳はないな。
「イルエラは綺麗だもんなぁ……」
「はあっ? 急に何」
「え、いや、ジノさんには何も——」
「ジノさんって何だよ! イルエラさんのことは呼び捨てにする癖に!」
「嫉妬か?」
「はああああッ!? 気色悪いこと言うんじゃねえッ!!」
真っ青になって距離を取られる。
「恥ずかしがるなよ、ジノは可愛いな」
「ざっけんな莫迦ッ!!」
真っ赤になって更に距離を取られる。
照れてる照れてる。素直になれないお年頃って奴だな。
————『ヒュウヲウン~準備始めるわよ~!』
「あっ、はい! 今行きます! ——ごめんなさい、私戻らなくちゃ!」
「ああ、助かったよ、ありがとう」
「それはこっちのセリフだよ! 今度会ったら何かお礼させて!」
手を振って彼女はテントの向こうへ行ってしまった。忙しいのか中は祭りみたいでどんちゃん騒ぎが起きている。
ヒュウヲウンと別れてからは、広場に面した道に小さな噴水があるのを見つけて3人で座った。報酬を確認して見たが、店主から聞いた値段には程遠い。
ただ送り届けただけと言う割には多かった気もしたし、饅頭だけでなく他の菓子も入れてある。と言っても袋に入る程度の大きさだ。
硬貨に触れないようにに包まれている。流石は女性と言ったところか、気がきくな。
そう言えば、ウォルズのアイテムが仕舞われている鞄はどんな風に入ってるんだろう。ご飯も薬草も素材も何もかも雑多に詰め込んでるのか?
「どちらにせよこれじゃあ宿屋に泊まれもしないな。今日の夕飯はこれで決まりだな」
お菓子の包まれた布を手にしながら呟くと、イルエラもジノも、はあ? と文句を垂れる。
「なんだお前達、俺は一人で暮らしていたときは菓子を食って過ごしていたんだぞ。じゃがイモのチップスとかさ」
それを聞いて、イルエラは「一人で生活……菓子が主食……苦労してきたのだな」と頭を撫でてくる。
ジノは「王族に提供される菓子はどれも僕らには味わえない品物なんだろうな」と皮肉を言った。
お前等絶対違う想像してるだろ。俺は無職の引き籠りだぞ。
結局菓子が夕飯なのは二人に反対され、他の案を考えることにした。
あなたにおすすめの小説
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています