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第三章

27話 ホンモノのザコは

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「大丈夫なのか、一人で」

 と、イルエラが心配そうに覗き込んでくる。

 まあヴァントリアはザコだが魔獣位ならへっちゃらだろう。其れに魔獣狩りなら散々金稼ぎの為にウォルズでやってるからな!

「任せろ!」

 と、自信満々に胸を叩くが、ハァァ、と前からは陰鬱な溜息が二つ。

「……無理なら僕も着いて行ってやっていいけど」
「ダメだ、個人戦だぞ。2人以上で行動したら失格だって言ってただろ。」
「「お前一人じゃ心配だ」」

 ほんと仲良しこよしなんだから。

 此れじゃあ埒があかないな。

「大丈夫。魔獣なら何度か倒しにきてるからさ」

 装備も一級の準備万端なウォルズで。

「それ本当のことだろうな?」
「走るのもままならないのに、どうやって逃げる気だ。」

 訝しげに聞いてくるジノと、何故か逃げる事を前提に話し出したイルエラさん。君達は過保護過ぎる。

 ヴァントリアの死を皆が望む世界じゃなかったのか。ああ、自分達で殺さなきゃ意味がないと思ってるんだな。ジノには許しが貰えてないし、まだ命を狙われてると思っていていいだろう。

 それに、嘘は言ってない。ゲームの中で魔獣狩りを散々したからな、奴等の動きは頭の中にレクチャーされているさ。

 それでも引き下がらない二人を何とか、説得して別行動となり、やっと森に入ることが出来た。大分出遅れてしまった。急ごう。

 と言っても、ゲームでは古城や水源、餌場や洞窟等、魔獣の出る場所が決まっていた。その場所に従ってマップを見ながら進むのだ。

 だが今はどうだ。

 マップなんて無いし、ましてや回復薬もないし。武器すら持っていない。使えるのは火の魔法と脱獄系魔法の二種類だけだ。

 其れにしても、本当に外に出たみたいだ。流石はWoRLD oF SHiSUToの世界。

 森といっても、普通の森でもないし、おどろおどろしい森でもない。

 真っ白な世界にぴったりな真っ白の木や草が生えている。

 町は色取り取りだし、青空も夕焼けも夜空も広がっていたが、今は機械的な白だけだ。

 本当にゲームの世界まんまなんだなぁと感心していると、————ガサッ——と背後の茂みから怪しげな音がした。

 どこぞのホラー映画のように恐る恐る振り返る。

 其処には、魔獣と呼ばれた狩の対象生物がいた。此方をじっと見つめて歯茎の間からボタボタとヨダレを垂らしている。

 しかも……ゲームの中では一番強く、森の主と呼ばれていた災厄のドラゴン、マデウロボス。

 ヴァントリアって。運もないのか。

「いぎゃあああああああああああああああッ!?」

 本物のドラゴンは迫力もあって超かっこいいけど、何より怖いしどうして現れるし俺ヴァントリアだし!

 ライオンや虎等の肉食獣を前にして感じる恐怖と同じだ。野生動物と言うだけで襲われる恐れもあって怖いけれど。

 や、やはりヴァントリアはあらゆる種族に命を狙われているのか。

 動物迄に命を狙われるとは、一体何をしたヴァントリア!

「うぎゃっ」

 木の根に足を引っ掛けてずっ転けてしまう。ヴァ。

 ヴァントリアは木の根にまで嫌われているのか!!??

 いやしかし待て、この感じ、何処かで。ああ、思い出した、この足元に絡みつく猛追。

 前世で俺を死に追いやった彼のにっくきイヤホンと酷似している!!

 ——ま、まさかこのまま、現世でも転けて死ぬのか俺は!

 ヴァントリアの命を狙われる天性の才能と前世の自分の残念さが生んだ絶体絶命のピンチ。もう、無理かもしれない。だって俺は前世もザコで、今はザコキャラが確定しているヴァントリア・オルテイル!

 助かる気がしない! イルエラとジノが心配していたのはこの事だったのか!

 ——態勢を整えることが出来ずに、地べたに引き摺られるようにして身体が投げ出される。転がった先には開けた場所があり、木を盾に身を隠せる場所もない。

 ——そ、んな、俺はまだ。ジノに。

「償えてないのに……っ」

 一か八かでドラゴンに手を伸ばす。自分の手に力が集中するような、熱い感覚が走る。

「くらえー! ヴァントリアお得意ザコ炎魔法放射ああ!」

  勢いよく炎が掌の魔法陣から飛び出す。この力、凄い!

「魚が焼ける……っ!!」

 ――――じゃねええええええええええッ!?

 ガスバーナーと同じくらいの勢いのちっぽけな炎が出ている。可哀想なくらいのちっぽけな炎に、マデウロボスもぽけーっとしているではないか。

 な、なんか、ご、ごめんなさい。

 ドラゴンと勇者はセットな筈なのに、俺がヴァントリアなせいでマデウロボスも怒り狂い始めたではないか。

 大地も揺るがすような唸り声を上げたマデウロボスの牙が迫る。


 ああ、この感じ、やっぱり知っている。

 イヤホンの猛追。

 ジノに襲われた時。

 そして、シストの目に見られている時。

 此の、全身を襲う恐怖の震え。命を失いかける感覚。

 怖い。


 ——ヴァントリアは、こんなのをずっと感じてきたのか。じゃあやっぱり、俺の方がザコじゃないか。


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