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第十章
214話 気持ち悪いがうつったんだ
しおりを挟むヴァントリアを苦しめていたら突然、黒いモヤを浴びて意識を失った。
それから、夢を見た。きっと過去の記憶だろう。覚えがあった。
「この子はロベスティゥ。お前の弟だ、仲良くしなさい」
父の隣に並び、父の手に背を押される己より年下の子供。
……青みの白金の髪と、白金の瞳。美しい容姿をしていた。
それからも度々彼と会い、話した。話はするが、特に盛り上がる気配もない。
父上と王族イノスオーラ一族の女の間に生まれた子供ロベスティゥ。城の中では常に浮いていた。だが長く伸びたアッシュブロンドに見える髪はとても美しい。厳しい顔つきや性格は父上に似ているが、その容姿はイノスオーラの女にとてもよく似ていた。
だからだろうか、己の弟とは思えなかった。
数ヶ月後、己と同じ両親から生まれたと言う弟――シストが紹介された。父とも母とも似つかなかったが、同じ血が流れる弟だ。愛すべき相手だった。
自分の勉強の後はシストの部屋へ行って勉強を教えてやる。そうすると興味津々になって聞いてくるからだった。
しかしその数年後、シストはヴァントリアを紹介され、彼に目を掛けるようになる。仲が良さそうに話しているのを見て嫉妬を覚えた。
「地上の者は汚いのだぞ」
シストを呼び出した後、注意する。すると、シストが眉間に皺を寄せながら言った。
「ヴァントリアの父親のゼクシィル様もその母親メフィリアルローン様も地上へ行ってたじゃないか」
「母親は庶民だ、父親のゼクシィル様も元々ウロボス側の人間だ!」
「オルテイルだろう?」
シストは分かってない様子で首を傾げる。
「父親のゼクシィル様の父は、初代王アゼンヒルト様の弟であり宿敵のゼクシィル・ウロボス様を先祖だと言い息子に名前を与えたと聞く! つまり奴はウロボスの血を引いているのだ! もともとウロボスにいた奴なのだ! しかしオルテイル派になると言って勝手に王宮に入り浸っている奴なのだ!」
「でも、アゼンヒルト様の弟と言うことは、私達も血は繋がっていると言うことだろう?」
その話を聞いて、己は驚いた。
「それにアゼンヒルト様は地上で生まれたらしい、私達はその血が流れているんだ、ヴァントリアを避ける理由にはならない」
シストは踵を返す。ヴァントリアの元へと行こうとしているのだと分かった。
「シスト!」
確かにそうかもしれないが、それにしたってシストはおかしいくらいにヴァントリアを構っている。
己はと言うと、長男であるからだろう、王位継承として一番近い位置にあり教育が厳しくなっていく。
勉強が終わり、唯一の癒しであるシストの部屋を訪ねるが、留守だった。
宮中を探して回れば、ヴァントリアと白い木の立つ中庭で遊んでいるのを見かけた。
なぜ、余は第一王子なのか。
何故実兄である余でなくて、あんな小汚い地上人なのか。
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何日か経ったある日、中庭で寝ているヴァントリアに、シストが接吻をしているところを見てしまった。
小動物を可愛がるような接吻ではない、キョウダイに愛情を注ぐような接吻でもない、恍惚とした表情で、何度も、何度も、接吻をする。
――酷い、ショックを受けた。
全身に悪寒が走り、悪心を起こし口元を押さえる。
気持ちが悪い。
気持ち悪い。
シストが気持ち悪い。
己の弟が、気持ち悪い。
その日、可愛い大事な弟を、はじめて気持ち悪いと思った。
余の可愛い弟を、気持ち悪くしたのはヴァントリアだ、気持ち悪いがうつったんだ。本当に気持ちの悪い奴だ。血のように赤い瞳も、真っ赤な髪も、不気味で気持ちが悪い。汚れた地上で生まれ、地下へ帰って来た汚れた弟、いつか地下を汚し尽くすだろう。
気持ちの悪い、己の弟。
第一王子として忙しなく日々を過ごしていく間、相変わらずヴァントリアに対し、過剰なスキンシップを取るシストが目に入った。
可愛がる姿を見て、なぜ余にはキスをしてくれないのかと疑問に思い始めた。
やっと出来たシストとの二人きりの時間、シストがヴァントリアにするようにスキンシップをしてやる。そのスキンシップの合間に、接吻をしようとしたら、「気持ちが悪い」と拒まれる。
……なぜだ、あいつは良くてなんで余はダメなんだ。余が気持ち悪い? 何故だ?
シストはおかしくなったんだ。
数日後、またもや中庭の木を背にして寝ているヴァントリアを発見する。隣にはシストもいた。父上に勉強そっちのけで遊んでいたと思われるわけにはいかない、いつも柱の影から様子を伺うことしかできなかった。
何故こうも見せつけてくれるのか。ヴァントリア、そんなに余を苦しめたいか。
シストが寝ているヴァントリアに手を伸ばす、腰のあたりを触っているようだ。
何をしているんだ?
今まで踏み出せなかった一歩を踏み出し、近づいていくが、シストは余に気が付かない。
頭をそこに近付けて、口を開ける。
なんだ?
覗き込んで、ゾッとする。柱の影に隠れ、胃液が喉を上がって来るのを飲み込んだ。
シストは、ヴァントリアを食べようとしていた。
余は平然を装い、廊下を歩き出した。足音が聞こえたのか、シストはハッとして、それを止める。
弟に対して、食べたいくらい可愛いと思ったことは何度かあった。けれど、本当に食べようとするなんて。
ああ、ああ。あああああ。気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い。シストが気持ち悪い。
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