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アノン
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シェルビーは地図とポンプの資料とを両方見て、ポンプの在処が地下都市の西方向にあると見る。
向と合流し、お婆さんに挨拶してから、玄関で靴を棚から出して履く。
大通りを通る際、パン屋のおじさんにもう一度お礼を言って、水路を超えてから、左回りに回る。西通りに着き、いつもは来ない見慣れぬ景色や道に戸惑いながらも、通りを進んでいく。
大きなポンプの見える建物へ着き、いったん空き家同士の陰に隠れて様子を窺う。
シェルビーは持ち前の身体能力を生かし、空き家の建物の壁と壁が九十度に重なっている場所を壁キックで登っていく。麗土達はそれにほぅ……と感動のため息を吐いた。
屋根の上に立って目的地を眺める。建物は小さく、外に面している設備が多くあった。それを取り囲むように高い鉄柵があるが侵入は容易いだろう。
シェルビーはジャンプして地面に飛び降り、空き家から布とペンを持ってきて、そこへ設計図を書いていく。
「覚えてるのか?」
と麗土が思わず聞くと、「ん?」と聞き返してくる。
シェルビーはバカそうだが見たモノ聞いたモノ全て記憶してしまう力を持っていた。麗土はそれを何度か目の当たりにしていたが、尋ねることはあまりなかった。
そんな彼が思わず問いかけてしまったのも無理はない。
シェルビーはあの設計図の全ての形、寸法、説明を、考えるそぶりも見せずすらすらと書き記していく。
「出来た」
みんなが集まって、その設計図を眺める。
シェルビーは設計図の一部を指し示して言った。
「まず鉄柵は下が剥がれてるところから捲って入るぞ。そしてここへ侵入して、水路を超えて、十字になったここを右。まっすぐ行って左に曲がる。ここが目的のポンプのある場所だ」
みんなが頷くと、シェルビーは空き家にペンを返しに行く。
机の上にペンを返し、踵を返そうとした時だった。ギシ……と、廊下の奥から床の沈むような音がして、シェルビーは恐る恐る廊下を進み、周囲を見渡す。
もしかして空き家ではなかったのかと警戒してたが、空き家で合っているようだ。古いので軋んだだけだろう。
鉄柵の剥がれた場所を見付け、シェルビー達はそれを捲って侵入した。その施設で働く大人達が徘徊しており、麗土が「どうすんだよ」とシェルビーに耳打ちしてくる。
「あのホースを使おう」
地下都市では外の世界の真夏より高い気温が日常だった。施設の者はどうやら涼もうと冷たい水で地面を濡らしていたようだった。
ホースの口を踏み付け、水を貯めていく。
パンパンになったホースから足を離すと、ホースは途端に鞭を打つように暴れ回る。それを止めようと大人がやって来るのを見て、シェルビーがみんなを見る。
「――走れ!」
小声で掛け声を上げ、一斉に走り出した。
水路を囲む低い塀の影に隠れ、気を取られる大人達の背後をこっそり通り抜けていく。
水路の扉を閉じたり開いたりしてトラブルを起こしながら、水路を超え、建物の裏手にある十字の場所へやってくると、大人は一人しか見えなくなった。大人が背を向けた瞬間、ゆっくりと道を進み、太いパイプや機械に身を隠す。大勢でいると目立つので、それぞれが別のパイプや機械に隠れて行動した。大人達は水の方に夢中だったので今のところかなり上手くいっているが、いつ気づかれてもおかしくはなかった。目的のポンプが見えてきた頃だった。突然、建物の向こう側にいた筈の大人達がポンプ近くまでやって来て何かを探し出したのだ。
「いるんなら出てきなさ~い!」
別のパイプに身を隠していた麗土はシェルビーの隣へやって来て言った。
「何が起こってるんだ」
「分からん。侵入したことがバレたのか?」
「見つかったんなら誰かが追われるだろ」
「……あともう少しなのに」
「――――いたぞッ!!」
麗土とシェルビーが話に気を取られていると、一人の大人に見つかてしまった。
「やっべ!!」
何処か嬉しそうな麗土と同様に、シェルビーも楽しそうに声を上げる。
「みんな、逃げろぉぉぉぉ!!」
子供達があちらこちらから飛び出し、大人達は戸惑っている様子だった。
「いつもやってるケードロと同じだぁぁ!」
「ケードロよりケーが多いょぉ……!」
失敗したと言うのに、子供達は楽しそうで、嬉しそうで。大人達をギリギリで振り切り、からかう子供達に大人達は苛立ってきている。
水路の塀の上に乗って大人の手から逃げようとした向が、ぐらついて身体を水路でない方へ傾け、地面へ横向きに転がり身体を打ち付ける。
擦り傷を負ったようで、Tシャツに血が滲む。
「向!」
麗土が飛び出そうとすると、大人達も向に駆け寄って「大丈夫か」などと声を掛ける。麗土は躊躇したが、大人達の手から向を救う為にも飛び出した。麗土は大人達に捕まったが持ち前の怪力でそれを振り払い、大人達は地面に転がる。
「君達は……」
そんな声が聞こえて、シェルビー達は振り返る。大人の中に、シェルビー達の親と知り合いの、よく会うおじさんがいた。
「君達のお父さんやお母さんには秘密にしてあげるから逃げるのはやめなさい」
逃げたら親に報告されるだろう、麗土も、向もラヴィラもシェルビーもエリティも大人しく捕まった。
「さっきの少年を連れてきてくれ」
一人の大人がそう言い、もう一人がどこかへ走る。
少年? とシェルビーが首を傾げていると、どこかへ走った大人によって彼は連れてこられた。
シェルビーやラヴィラと同い年くらいの。
真紫の髪と、青色の瞳が特徴的な美少年だった。
向と合流し、お婆さんに挨拶してから、玄関で靴を棚から出して履く。
大通りを通る際、パン屋のおじさんにもう一度お礼を言って、水路を超えてから、左回りに回る。西通りに着き、いつもは来ない見慣れぬ景色や道に戸惑いながらも、通りを進んでいく。
大きなポンプの見える建物へ着き、いったん空き家同士の陰に隠れて様子を窺う。
シェルビーは持ち前の身体能力を生かし、空き家の建物の壁と壁が九十度に重なっている場所を壁キックで登っていく。麗土達はそれにほぅ……と感動のため息を吐いた。
屋根の上に立って目的地を眺める。建物は小さく、外に面している設備が多くあった。それを取り囲むように高い鉄柵があるが侵入は容易いだろう。
シェルビーはジャンプして地面に飛び降り、空き家から布とペンを持ってきて、そこへ設計図を書いていく。
「覚えてるのか?」
と麗土が思わず聞くと、「ん?」と聞き返してくる。
シェルビーはバカそうだが見たモノ聞いたモノ全て記憶してしまう力を持っていた。麗土はそれを何度か目の当たりにしていたが、尋ねることはあまりなかった。
そんな彼が思わず問いかけてしまったのも無理はない。
シェルビーはあの設計図の全ての形、寸法、説明を、考えるそぶりも見せずすらすらと書き記していく。
「出来た」
みんなが集まって、その設計図を眺める。
シェルビーは設計図の一部を指し示して言った。
「まず鉄柵は下が剥がれてるところから捲って入るぞ。そしてここへ侵入して、水路を超えて、十字になったここを右。まっすぐ行って左に曲がる。ここが目的のポンプのある場所だ」
みんなが頷くと、シェルビーは空き家にペンを返しに行く。
机の上にペンを返し、踵を返そうとした時だった。ギシ……と、廊下の奥から床の沈むような音がして、シェルビーは恐る恐る廊下を進み、周囲を見渡す。
もしかして空き家ではなかったのかと警戒してたが、空き家で合っているようだ。古いので軋んだだけだろう。
鉄柵の剥がれた場所を見付け、シェルビー達はそれを捲って侵入した。その施設で働く大人達が徘徊しており、麗土が「どうすんだよ」とシェルビーに耳打ちしてくる。
「あのホースを使おう」
地下都市では外の世界の真夏より高い気温が日常だった。施設の者はどうやら涼もうと冷たい水で地面を濡らしていたようだった。
ホースの口を踏み付け、水を貯めていく。
パンパンになったホースから足を離すと、ホースは途端に鞭を打つように暴れ回る。それを止めようと大人がやって来るのを見て、シェルビーがみんなを見る。
「――走れ!」
小声で掛け声を上げ、一斉に走り出した。
水路を囲む低い塀の影に隠れ、気を取られる大人達の背後をこっそり通り抜けていく。
水路の扉を閉じたり開いたりしてトラブルを起こしながら、水路を超え、建物の裏手にある十字の場所へやってくると、大人は一人しか見えなくなった。大人が背を向けた瞬間、ゆっくりと道を進み、太いパイプや機械に身を隠す。大勢でいると目立つので、それぞれが別のパイプや機械に隠れて行動した。大人達は水の方に夢中だったので今のところかなり上手くいっているが、いつ気づかれてもおかしくはなかった。目的のポンプが見えてきた頃だった。突然、建物の向こう側にいた筈の大人達がポンプ近くまでやって来て何かを探し出したのだ。
「いるんなら出てきなさ~い!」
別のパイプに身を隠していた麗土はシェルビーの隣へやって来て言った。
「何が起こってるんだ」
「分からん。侵入したことがバレたのか?」
「見つかったんなら誰かが追われるだろ」
「……あともう少しなのに」
「――――いたぞッ!!」
麗土とシェルビーが話に気を取られていると、一人の大人に見つかてしまった。
「やっべ!!」
何処か嬉しそうな麗土と同様に、シェルビーも楽しそうに声を上げる。
「みんな、逃げろぉぉぉぉ!!」
子供達があちらこちらから飛び出し、大人達は戸惑っている様子だった。
「いつもやってるケードロと同じだぁぁ!」
「ケードロよりケーが多いょぉ……!」
失敗したと言うのに、子供達は楽しそうで、嬉しそうで。大人達をギリギリで振り切り、からかう子供達に大人達は苛立ってきている。
水路の塀の上に乗って大人の手から逃げようとした向が、ぐらついて身体を水路でない方へ傾け、地面へ横向きに転がり身体を打ち付ける。
擦り傷を負ったようで、Tシャツに血が滲む。
「向!」
麗土が飛び出そうとすると、大人達も向に駆け寄って「大丈夫か」などと声を掛ける。麗土は躊躇したが、大人達の手から向を救う為にも飛び出した。麗土は大人達に捕まったが持ち前の怪力でそれを振り払い、大人達は地面に転がる。
「君達は……」
そんな声が聞こえて、シェルビー達は振り返る。大人の中に、シェルビー達の親と知り合いの、よく会うおじさんがいた。
「君達のお父さんやお母さんには秘密にしてあげるから逃げるのはやめなさい」
逃げたら親に報告されるだろう、麗土も、向もラヴィラもシェルビーもエリティも大人しく捕まった。
「さっきの少年を連れてきてくれ」
一人の大人がそう言い、もう一人がどこかへ走る。
少年? とシェルビーが首を傾げていると、どこかへ走った大人によって彼は連れてこられた。
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真紫の髪と、青色の瞳が特徴的な美少年だった。
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