リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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アノン

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 シェルビーと麗土が珍しく気まずそうにしていると、前を歩いていた向が並走してきて言った。
「さっき二人で何話してたんだ?」
「お前には関係ねえ!」
 殴られそうになり、慌てて前方へ逃げる向。アライアの隣に並び、彼の手を掴む。
「アライア何歳?」
「6歳だ」
「俺より一個年上か~……」
「私と同い年よ!」
「私より二個年上だょ……」
 麗土はそれに続いて言う。
「俺とシェルビーの一個年下か~! 生意気言ったら向と同じ刑な」
「ごめんアライア。俺の兄ちゃんが……」
「向コラてめええええええ!!」
 両拳を振り上げて怒る麗土をシェルビーが抑え込む。
「どうどう落ち着け落ち着け」
「動物扱いすんなって言ったよな?」
「すみませんでした!!」
 頭を下げるシェルビーの頭を叩き、麗土は手を赤くする。
「石頭が」
 ――基地に着くとアメが降り出した。
 一同は走って階段を下り、橋の下に隠れる。降り出したばかりなので水路の水はまだ浅い、危険はないだろう。ラヴィラが木箱の上に座り、向がドラム缶の上に座る。エリティは地面に座り人形の髪を弄り、シェルビーも麗土もアライアも地面に座った。
 一人増えるだけで変な違和感が出るもんだな……とシェルビーは思う。
「外に出た時何するか決まった?」
 と向が聞いてくる。向はこの話が好きだ。
「私はパン屋さん! 絶対パンを作って売るんだ!」
 それを聞いたシェルビーが、あれ、と思う。
「よく考えたら……もうパン屋さんくらい地上にはあるんじゃないか?」
「え!? パン屋さんできないってこと!?」
「働くくらいなら出来る。パンも作れる」
 アライアが言うと、「自分でパン屋さんを開きたいの~!」とラヴィラは頭を掻き毟る。こうなるだろうなとはシェルビーも考えていた。
 アライアは考える素振りを見せてから、静かに呟いた。
「サンドイッチ……」
「ん? なんだアライア」
「地上にはパンに野菜とか肉とか挟む、サンドイッチってご飯があるだって」
 パンと聞いてラヴィラが反応しない筈がない――ラヴィラは髪の毛を引っ張り散らかしていたが、瞬時にシェルビーの隣に立ち、アライアの顔を覗き込んでくる。
「何それ美味しそう……」
「涎! 涎!」
 涎が垂れそうになるのを麗土が注意する。注意はしたが地面にボタボタと垂れた後でもう遅かった。
 麗土は鼻を掻きながら言う。
「俺肉屋になろうかな……」
「サンドイッチ屋じゃなくて?」
 と、シェルビーがにやにやしながら聞く。
「ラヴィラがパン屋さんだろ? 俺が肉屋をすれば二人でサンドイッチ作れるだろ?」
 ラヴィラがぽぉっと頬を赤く染める。それを見た麗土は照れ隠しするように頭を掻いた。シェルビーはによによする。
「一緒にサンドイッチ屋やればよくない?」
 アライアの言葉に返事は来なかったが、ラヴィラも麗土も空中にサンドイッチ屋さんになった二人を思い浮かべた。
「エリティは?」
 向が聞くと、エリティはモジモジしながら言った。
「お洋服、作りたいと思ってるょ……」
「いいな! 俺はおっきい家建てる!」
「そればっかりだなお前」
 麗土が言うと、アライアが「シェルビーは?」と聞いてくる。シェルビーは頭を搔いて、「ああ~……」とみんなから目を逸らす。
「まだ決まってない」
 向が呆れたように言った。
「まだ決まってないのかよ」
「アライアは?」
 シェルビーに聞かれ、アライアは顎に手をやって考える。
「俺は地下から逃げられたらそれでいいかな」
「つまり決まってないと」
「……そう言うことになるな」
 シェルビーの言葉に、ちょっと不機嫌そうにアライアは顔を俯ける。
「そう言えば、君達の名前を聞いてなかった」
 アライアがそう言うと、シェルビーが両手でアライアの頬をぎゅっと包み、顔を上げさせる。アライアの頬は雪のように冷たかった。逆にシェルビーの手は熱いくらいだった。
「俺の名前はシェルビー、シェルビー・ホールだ!」
「俺は麗土。天地あまじ麗土だ」
「ラヴィラ、ラヴィラ・イニシエラよ」
「天地向だぁぁ!」
渡里わたりエリティだょ……」
 アライアは一人一人の名乗りに頷いて、覚えていく。
「よろしく、シェルビー、麗土、ラヴィラ、向、エリティ」
「ああ、よろしくなアライア!」
 ぎにっと、シェルビーがアライアの両頬をつねる。
「いたたたた!? いだいいだいいいい!!」
「あっはははは! 間抜けな顔!」
「こ、このひゃろう!」
 ぎにっと、アライアがシェルビーの両頬をつねる。
「あああああああ!! 千切れる! 千切れるからぁ!!」
 アライアの両頬を離すと、アライアも指を離し、パンパンと汚れを落とすように手を叩く。
「な、生意気だ……」
 顔はいいのに……とシェルビーは恨めしそうに睨み付ける。
 中央の施設の周りに展開されるスピーカーから、鐘の音のメロディが鳴り響き、麗土は折り畳み傘をさす。麗土はそれをラヴィラに手渡した。みんなでもう帰る時間だと町へ行き、大通りの手前に来てエリティとラヴィラと別れる。
「お前の家はどの辺なんだ?」
 シェルビーがアライアに聞くと、彼は大通りから中央施設まで真っ直ぐに繋がる道を指さす。
「下層と中層の中間あたりに住んでるのか? 中央に行くにつれて暑くなくなるらしいな。羨ましい」
 と、シェルビーが言い、麗土と向が頷いていると、アライアは首を振って言った。
「違う。上層と中層の中間だ。上層側に家がある」
 シェルビーと麗土と向は呆ける。
「は?」
 じょ、上層って、あの上層か? 金持ちなのか?
 そう尋ねる前に、アライアは説明する。
「一人で暮らしてる。親が研究者だったらその子供は家を受け継いで、施設で教育が受けられる」
「だから施設について詳しいのか?」
「窓の外から盗み聞きしてるんだ。俺は親から受け継ぐ前に親が死んでるから、こっそりその家に住んでる。俺の姿を見た人がいて幽霊が出るって有名で、売りにも出されてないし長い間空き家ってことになってる」
「へえ……水とか電気は?」
「大家さんと俺の親が知り合いで、親の財産で何とか払って今まで生きてこれてる」
「へえ……」
「お父さんもお母さんもいないの?」
 向が不思議そうに聞いてきて、麗土が向の頭を叩く。
「こら、お前空気読めなさすぎだ。親が死んだらお前だって悲しいだろ」
「ごめんアライア」
 向が謝ると、アライアは笑って彼の頭を撫でた。
「気にしないでくれ。思い出は消えないから、悲しくなることはないよ」
「逆じゃないか? 思い出があるから悲しくなるんだろ?」
 シェルビーが言うと、アライアに睨まれる。向を慰めるためにそう言ったのに的確なことを言われて怒ったらしい。
「わ、悪かった。人それぞれだよな」
 彼らは大通りを通ると別れ、それぞれの家に帰って行った。
 シェルビー達の行動力は、アライアを引き込む為の大きな力となったのだろう。アライアがいなかったら、彼らは死亡していただろう。
 そしてこれから先もアライアがいなかったら、彼らは――――…………
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