リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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アノン

19

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 中央施設の地上へ行けるエレベーター近くに連れて来られたシェルビーの目に、そわそわした両親の立ち姿が映った。
 シェルビーが警備員に連れて来られると、父親は黙ってシェルビーの顔を殴った。シェルビーは地面に倒れ、じんじんと痛み熱を持った右頬を押さえる。
「何故こんなことを!」
とシェルビーの母は顔を覆って泣き崩れる。
「今回の件で話があるので残ってください」
と一番偉いらしい研究者が言った。
シェルビーは廊下を歩かされ、上層の町へ出る扉まで警備員と彼に連れて来られた。立ち止まると、偉そうな研究者がシェルビーに向き直る。
「お前がここへ侵入したこと、見たこと聞いたことは一切他言無用だ。それから、お前は特別だから残しただけだ。次はないからな」
 扉が開かれ、シェルビーは外へ出る。扉が閉まって、上層の町を歩き、中層との境目に来た時、シェルビーは振り返った。
 マグマエネルギーで活性化する赤い光……あれは赤龍子と言う名前らしい。アライアを実験していた時、傍にあったモニターにそう書かれていた。
 シェルビーは、とぼとぼと、中層の町を歩く。血まみれの服は中央施設で回収され、真っ白な服を提供された。
 シェルビーはそれを着て今歩いている。
 下層の町を歩き、大通りへやってくる。パン屋のおじさんがシェルビーを見つけ、声をかけたが、彼は振り向きもせず、疲れた顔をして歩いていった。
 シェルビーは目的地に着くと、そこには誰も待っていない光景を見て、蹲った。
 水路の橋の、その下。仲間達と基地と呼んでいたその場所には今シェルビーしかいない。
「麗土……」
 シェルビーの口からそれが漏れると、目から大粒が零れた。
「ラヴィラ……向……エリティ……」
 脳裏に浮かぶ仲間の顔や、思い出達。
「あらいあぁ……っ」
 シェルビーはしばらくそこで泣き続け、泣き止んだ頃には帰りの鐘が鳴っていた。
 地上から降り注ぐ日の光は既に落ち、地下都市は暗く、オレンジ色の電気の光だけが道を照らした。シェルビーは基地とは別の水路の橋へ着き、未だ賑わう大通りを通って、路地裏へ入る。階段を重い足取りで進み、狭い家々が並ぶ通りを通り、お爺さんの家へ無言で上がる。お爺さんはソファの上で新聞紙を顔に乗せ眠りについていた。その鼾の横を通り抜けて、反対側の道へ出る。
 カクカクと曲がった道を通り、階段を上っていく。
 家に帰りつくと、板と板の間から鍵を取り出し、扉の鍵を開けて中へ入る。
 扉の鍵を閉め、鍵を靴箱の上に置く。靴を脱ぎ散らかし、隙間から吹き込んでくる蒸気を避けつつ。家の中を見渡す。
「父さん? 母さん?」
 まだ、帰ってきてはいないようだった。



        ◇◇◇



 赤い色の光を発する液体の中に、裸で浮かぶアライア。それを上司の研究者がじっくりと舐めるように眺めていた。
「捜索中に、お前の身体の一部を調べさせてもらったが、お前はまだ未成熟だ。実験に耐えられる身体じゃない。いつかは人類全員が魔術を使えるようにならなくてはならない。耐えられないんじゃ意味がないんだよ。だから、お前があと少し成長するまで、待つことにした。それが実験を進めるのに、一番有効な手さ」
 アライアは返事をしない。目を合わせることもなく、自分の足のつま先ばかりを見ていた。
「万が一にも逃げ出すなら、あの少年には消失してもらうしかない。私達もそれだけはしたくないんだよ。お前をカプセルから出すために必要な操作方法もパスワードも覚えていた、他施設の監視カメラで君達の行動を調べ上げた結果、彼はなかなか天才であると証明された。他の子らは結局見つからなかったが、仕方がない。地下都市から逃げ出せると言う事実を知られるわけには行かない。我々の慢心が産んだ結果だ」
 上司の研究者はアライアの視線など気にも留めず、彼の顔と身体だけを恍惚とした表情で見ている。
「これからはそんなことがないよう、図書館の資料も廃棄、水門やダクト、排水溝には格子を立てて、子供達を探すであろう家族やその家族と頻繁に接触していた者達にも事故で亡くなったことを知らせよう。そう、例えば、焼却炉行きのベルトコンベアに乗って遊んでいたようだ、とかね」
 アライアの目から雫が落ち、液体中に蛍が飛ぶように浮かんでいく。それを見て、研究者は口角を上げた。次の瞬間には、人のよさそうな笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ、実験が成功さえすれば、お前達はまた再会して、幸せに暮らせるんだから。協力、よろしくアライア・アノンくん」
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