リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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リョウゲ

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 私達は三人同時に出ると言う結論に至り、きちんと武装し戦闘準備を整えてから扉を開いた。
 後ろ二人がひょこっと顔を出して外を覗く。誰だ私の頭を押さえているのは。
 どこが三人同時だ、と言いたいところだが、ここで口論になればまた無駄な時間を費やしてしまうだけだ。
「……静かだね。何も変わってないような気がするんだけど」
 青海の言う通り、昨日来た時とまるで景色が変わっていない。あの巨体が通るには狭すぎる道もある。特に青海に尻を揉まれた横穴は私達でもギリギリ通れる大きさだった。
「姉さん、監視カメラの故障じゃないのか? 同じ時期に付けたから皆寿命と言うことは……」
「確かにぃ、何も変わってないようには見えるけどさぁ。それはそれでヤバイんじゃないかなぁ、ねぇ、青海ぃ?」
 どう言う意味だ。何だその目とドヤ顔は。青海と姉さんにしか分からないことがあろうと青海が姉さんを相手にする気がないのは分かってるんだからな。
 ちらりと青海の様子を窺うと、珍しく動揺していた。視線で訴えると、目が合う。
「環境に適応して進化しているんだよ。さらに言えば、監視カメラを特定して壊しているなら知恵も付け始めたと言うことだ」
「……つまり、一筋縄ではいかないと言う訳か」
 元々あの化け物を相手にするのに簡単な手が通用するとも思えないが。厄介だな。
「捕まえる方法はあるのか?」
「さあね。まさか案もないのに助けるとか言ってたのかい、黄泉」
「仕方ないよ青海ぃ、黄泉ちゃんは作戦を考えるのも面倒だもんねぇ」
「お前等を囮にすると言う手があったか」
 いつまでもこうしている訳にもいかない。ここでぐだぐだしている方が面倒だ。
 扉から出て洞窟の奥へと進む。やはり変わりはない。
 その時、目の前をちょうど、小さな虫が通り過ぎていく。何となく目で追えば、虫は地面の水たまりの上を飛び回る。そうしてから、水面へ降り立った。
「ん?」
「どうかしたの、黄泉」
 同じように周囲を見回っていた青海と砂金が傍にやってくる。私は目の前の地面を視線で促して青海に確認させる。
「なるほど、水溜まりか」
「私達のモノではないだろう、服も身体もここに来るまでの道中で乾いていた。それにこの水、どうやら粘度があるようだ。虫が絡め取られてしまった」
「虫……?」
 青海の頬に冷や汗が垂れる、酷く動揺しているようだ。
「なんだ。虫が苦手なのか? 虫ならこの洞窟にうじゃうじゃいるぞ」
 その言葉には砂金が答えた。
「そう。この洞窟には尋常じゃない量の虫が生息してるんだよぉ。何でだと思う?」
「何でって、住みやすい環境だからだろ?」
「そうだよ。住みやすいんだぁ。水辺も近いし、天敵も少ないし。何より、大量の巣があるしねぇ」
「巣?」
 尋ねるように姉を見れば、姉は水の中でスイスイ泳ぐ虫を捕まえて、懐から出した試験官に入れて蓋をする。それを私の前に突き出した。
 ショウジョウバエほどの大きさの、とても小さい虫だ。その虫に焦点があった折、自分の瞳孔が開いたのが分かった。軽度の千里眼の術を使ったからだ。
 ――虫とは思えない目。複眼ではない、我々と同じ、一つの目玉に一つの瞳。黒い網膜、そして、血のような赤い瞳。
「タ、フィリィ……?」
「黄泉、タフィリィを服用した者だけが彼等の巣になる訳じゃないんだ。彼等は宿主の身体で成長し、次に入ってきた番と何万匹もの子供を産む。親も子供も関係なく、互いに融合して新種に生まれ変わったり、既存種と子供を残したり、彼等は生きる為になんだってする。生まれたばかりの頃から進化していくんだ。そうして数を増やして、また別の宿主を探す為に巣から立っていく。口や鼻、目や耳、肛門から侵入する。まあ普通に皮膚を食い破って出ていくし、入りもするんだけどね。自分を強くする為に、多くの環境で進化を遂げるんだ。人間や我々みたいな化け物、人型の生き物達は、みんな彼等の宿主にされてしまうんだよ」
 人型でないモノなら彼等の発生源にはならない訳か。
「つまり砂金姉さんの言っていた大量の巣と言うのは……」
「この洞窟にはぁ、私みたいに追放された者、國哦伐家を破門された者達が大勢、閉じ込められてるからねぇ。私達を追放したいなら、普通は遠いところに行かせない? だって追放なんだし。けど、私達は國哦伐家の敷地内の、屋敷の傍にある滝の裏、滝壺の洞窟に閉じ込められている訳だぁ」
 姉さんは試験管の中の虫を眺めて言った。
 虫は細長く変化し芋虫の様に短い足を生やして、ガラスの上を歩いている。進化しているのだ。虫は体から粘液を出し始める。ガラスが徐々に溶けていっている。
 焦って砂金の顔を見上げれば、青海がその試験管を取り上げた。砂金は青海の目を見て頷く。
 青海は試験管の蓋を開けて、試験管の口を唇に押し付ける。
「何を……しているんだ」
「大丈夫だよぉ、黄泉ちゃん。青海にはタフィリィが効かないんだ」
 砂金姉さんは私の肩を掴み、青海から距離を取らせる。試験管の虫はゆっくりと青海の唇の上に乗り、歯を超えて、舌の上に上っていく。とたん、メダカのようにつるんとした姿に変わり、彼の中へするんと入っていってしまった。
 まさか茶王の言ったことは外れていたのか。青海も、タフィリィを使っていたのか。
 青海は試験管から口を離すと、砂金へ返した。試験管の口を見つめる砂金のことは放って置く。
「國哦伐家はあれこれ理由を付けて、邪魔だと思った者をこの洞窟に送り込むんだ。そのほとんどがタフィリィ依存症の人達だよ。こうやって注意深く観察しない限りどの虫がタフィリィか分からない。虫には気を付けて」
「平気なのか?」
「うん。平気だ。まだ到達していないんだ」
「到達?」
 良く分からないが、タフィリィが効かない……なんてことがあるのか? ならば他にも誰か効かない人がいてもおかしくないのでは……そう言えば、この洞窟がタフィリィの巣なら、砂金姉さんはどうやって虫の侵入を防いでいるんだ。
「虫達はなぜ私達には寄ってこないんだ?」
「シギュルージュだよぉ。シギュルージュに含まれる或る液体が虫を殺すんだってぇ。だから虫は恐れてシギュルージュには近づかないんだぁ」
「何? ならば皆にシギュルージュを付ければ――」
「それは無理だよ。シギュルージュは貴重だし、或る液体もこの洞窟の最深部に大量にあるけれど、近づくだけでも危険だ。私達だけでは扱いきれない代物なんだ」
 地面にまき散らされている粘液を辿り、青海と砂金が歩き始めたので黄泉はその後ろを着いていく。もう押し付け合っている場合ではないらしい。
「あの水は矢地さんの身体の粘液だ。結構奥まで続いている」
「なぁんかこの方向って、或る液体がある方向だよねぇ」
「もう少し進んでみないと分からないかな。彼が本堂にやって来たと言うことは洞窟の檻から脱獄していたと言うことだ。もしかしたら常習犯かも」
「と言うか。鍵はかかってないんだよねぇ」
 それを聞いて青海が言う。
「は?」
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