リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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リョウゲ

22

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 短い夢中であった。景色から目を離して前を向く。
「……何だ」
「気にしないで。いつになくはしゃいでるなぁって思っただけだよ」
 目を合わせるとにこりと微笑まれる。はしゃいでいたつもりはないが、言われてみるとそうかもしれない。
 屋敷を出れば見知らぬ世界ばかりが広がっている。同じ制服を着て同じ学校へ通うだけでキョウダイとして過ごせている気がして嬉しいと感じるのだろう。ちなみに言っていなかったが、今は連休である。
 今回は姉曰くダブルデートだが、キョウダイで遊びに来ること等滅多にない、楽しいと感じているのだろう。
「……白馬」
 突然振り向いたからかびくりと跳ねる白馬。
「お、おう?」
「青王と席を交換してくれないか?」
 白馬は口を開け放ち、「は?」と声を漏らす。
「青海と席を交換してくれ」
 青海は相も変わらず微笑むばかりだが、赤鳥はめちゃくちゃ笑顔だ。初めて姉から向けられた感謝の眼差しだった。白馬は全く微動だにしない。私を睨み続けるばかりだ。
「姉さん、私と席を交換してくれ」
「もちろん! いいよ! 妹の為だもんね仕方ないよねうんうん!」
 瞬時に立ち上がる姉。黄泉が腰を上げると白馬は「お、おい」と立ち上がろうとする。それを見て急に苛立ちを覚える。
「何だ、青海の隣は私のモノだぞ」
 赤鳥姉さんがきゃーっと言って、ハッとする。白馬は相変わらず口をパクパクしているし。慌てて青海に振り向けば、奴は微笑んでるだけだし。こいつが一番ムカつく。
「私の膝に座るかい黄妃?」
「ひ、膝だと!? 俺様だって未だ――な、何でもない」
 青海と白馬の言葉は無視して隣にドカリと座る。少し揺れて赤鳥は怖がって白馬に飛び付こうとするが奴は何もなかったかのように席を横に移動して避けた。
「どうしたの黄妃。機嫌悪そうになってるけど」
「お前は楽しいのか」
「楽しいよ。真黒だけ仲間外れは可哀想だったかもね」
 ……嘘付け。
 お前は私より砂金姉さんに好かれていた。姉さんと関わってきた。そして姉さんの死を間近で見た。私の痛み等お前とは比べ物にならない。なのにこいつはいつも笑って嘘を付く。
 私にくらい、本音を聞かせてくれてもいいじゃないか。面倒な奴だ。
「今度は二人で来たい。真黒はいらない」
「どうしたの黄妃。今日は素直だね。いいよ。いつか二人で来ようか。真黒はいらないね」
「よよよよよヨミ? 青海兄様? 私達がいること忘れちゃだめよ?」
 そうだった。お前らいたのか。ずっとだんまりだからうっかり忘れてしまったぞ。
 姉さんは緊張しているのだろう。普段は大胆な行動を起こす割に、隣に座ったり彼に優しくされたりすると急に大人しくなる。私はそうはいかないが。
 白馬は何故黙っているのか分からない。相変わらず私を見ている。弱点でも見つけるつもりか? 弱点だらけだぞ。
 ちらりと隣を盗み見れば、青海も私を見ていた。本当にお前達は相変わらず面倒だな。
 先ほどまでの楽しい雰囲気は一切ない。気まずい空気が密室に充満してしまっている。
 こう言うのは、苦手だ。
 そっと、隣の手を握れば、それも微動だにせず、奴は手を握ってくる。
 温かいけれど、指先が冷たい。しかし自分の熱かった手にはちょうど良い冷たさだ。
 幸せだった。
 青海の手を握る瞬間が、今まで生きた中で一番好きだ。
 青海の肩に頭を乗せる。
 景色を見るのも、気まずい空気も面倒だ。寝てしまおう。
「今日の黄妃はいつも以上に甘えん坊さんだね」
「お前もな」
「そうかな。そんなつもりは無かったんだけど」
「今からそうなるんだ」
「今からってことは帰った後かな」
「帰りたくないな。このままこの街で住まないか」
「それは迚も魅力的な提案だね。皆で住めたら幸せそうだ」
「私はお前と二人で住みたいんだ」
 初めて青海の口からひゅっと息を呑む音が聞こえた。今どんな表情をしているのだろうか。目を瞑っているから分からないし、態々顔を見ても、どうせ青海は変わらず微笑んでいるのだろう。
「よよよよよよよヨミ! あ、アンタ何言ってるのか分かってるの!?」
 ああ。そう言えばお前らいたんだったな。隣にばかり意識を向けていてまた忘れてしまっていた。青海といると感覚が狂う。
「……充分理解しているつもりだが」
 急に恥ずかしくなって、青海から離れ、窓の方へ寄り掛かる。
「私は黄妃が隣にいてくれるなら何処でも構わないんだけど」
「黙れ。お前の話は冗談なのか本気なのか判断が難しくて面倒だ」
「本気だったら喜んでくれるのかい?」
「考えたくもない」
「残念だよ。黄妃は酷いな」
 青海はまた微笑む。その笑顔を見ると、砂金姉さんが彼を爽やか青年であると勘違いしていたのも分かる気がする。
 青海の本性は分からないけれど、彼がどんな奴であろうとも、この微笑みを嫌いにはなれないのだ。
 私は彼の笑顔に救われている。
 銀杏姉さんの笑顔も、きっとこうして皆を救っていたのだろう。私もその一人であったから分かる。
「もうそろそろ終わりだね」
「そうだな」
 キラキラと輝くメリーゴーランドを眺めながら呟いた。扉が開き、白馬から不機嫌そうに降りる。それを追いかける様に赤鳥が降りて、青海が一向に席を立とうとしない私に振り向く。
「黄妃?」
「ああ。分かってる」
 席を立つと、出ようとする青海の手首を右腕で掴み止める。白馬と赤鳥は目をひん剥き、キャストが困っている様子だった為、自ら扉を閉める前に、言ったのだ。
「応援していてください」
 キャストは一瞬ポカンとした後、ハッとして外側からの鍵を閉めた。
 きっと赤鳥姉さんは白馬と二人になれて喜んでいることだろう。私の判断は間違っていない。
「黄妃?」
「今は二人きりだ」
「うん、そうだね。黄妃がそうしたんだろう」
 莫迦だなお前は。本当に面倒な奴だ。
「青海」
「うん」
「青海……」
 窓の外を眺めていると言うのに、何故背後が気になるのだろう。
「名前で……その」
「名前?」
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