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リョウゲ
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「黄泉、頼みがある」
そう言ってきたのは、碧王だった。
実はまだ白馬の豹変は終わっていない。学校にいる時は普段通りだが、家に帰るなり暴れ出す。黄泉はこの場所自体もダメなんじゃないかと思えてきた。
碧王が訪ねてきた理由も何となく分かっていた。
「白馬の件ですね」
「赤鳥の件で君の名前を呼び続けている」
「ずっと名前を呼ばれているなとは思っていました」
「話してもらいたい」
「分かりました」
面倒だとは思うけれど、早く治ってほしいとも思う。
黄泉は白馬のもとへ向かった。着いた先で、何があるのかも知らずに。
黄泉が着いた頃には、屋敷はボロボロになっていた。襖は弧を描くように曲がり、破け、中の牢屋は格子がぐちゃぐちゃになり開ききっていた。
「白馬……?」
部屋の端で蹲る影があった。
彼の口の中から、ボロボロと虫が落ちていく。
「黄おおおおおおおおおおおお泉いいいいいいいいいいッ!!」
白馬は左の拳を振り翳す。黄泉に食い気味に迫って来た白馬の身体は、右半分がほぼ半透明になり、半透明の虫や触手がうじゃうじゃと湧き出してくる。
「白……馬……」
黄泉はショックで避けることを忘れ、頬に白馬の拳が直撃した。
黄泉は牢屋の格子に向かって吹っ飛ばされ、格子の中であおむけに倒れる。白馬はそこに飛び込んでいき、黄泉を両手で囲った。
左腕は半透明になり、虫が湧いて出てこようとしたが、黄泉の右腕に近づいた虫たちは逃げるように反対側へ寄った。
黄泉は苦しかった。痛みもだが、胸も。
白馬。
はくば。
「白馬」
白馬。
なんでそんな化け物に……どうして。
全部。私の所為だ。
黄泉は涙を流して、白馬の胸に抱き付く。
きっと治る。絶対に治ると、願いながら。
碧王が黄泉を白馬の元へ行くように聞いた上の者達が、後からやって来て、白馬を取り押さえる。碧王は姿を消していたらしい。
上の者達が白馬を滝壺の奥に連れて行くと言うのを聞いて、黄泉は白馬を彼の部屋に閉じ込めるよう頼み込んだ。きっと治ると。
黄泉は白馬に後で話し合おうと告げ、夜に会う約束をした。
あの空き部屋で、白馬を待っている時だった。
黄泉は待つ間に、さきの出来事を思い出していた。
白馬兄さん……まるで、本物の化け物みたいだった。あんなモノを喰らっていたなんて。あんな気持ちの悪いモノを。あいつと目が合った途端、あいつが私の体内を這いずり回ったような感覚さえした。
まるで銀杏姉さんの食事を見ていた時のように気持ちが悪くなった。
兄さんの中にあんなモノがいるなんて、兄さんがあの化け物だなんて、信じたくない……。
「姉貴、大丈夫か? 具合悪いんだったら医者呼ぶけど」
「真黒……?」
どうしてここにとは思ったが、ここにいてもおかしくはないことにも気が付いた。彼はタフィリィをあと少しで出し切れる。屋敷を練り歩くこともできるし、自分の部屋に戻る時にここを通ることくらいあると。
「大丈夫だ。少し考えことしてたら気味が悪くなっただけだから」
ふらついて、真黒にもたれ掛かる。真黒はそれを支えた。
「それって、俺達のことか?」
こいつの言う〝俺達〟はタフィリィ服用者のことだろうか。それとも、力を求めて暴走した國哦伐家のことか。考えるのも面倒だ、お前等なんて。
「どちらも気色悪い。私に触るな……、化け物、共が……ッ、私の前をウロチョロするな!! 捻り潰したくなる、貴様等をほじくりかえしてぐちゃぐちゃに掻き回して全滅させてやりたいッ!!」
「姉貴……」
「どうしてあんなモノ、食えるんだっ? お前は化け物か? 最初から化け物だったからなのか……。私達は人間にはなれないのか。虫なんて喰って、待てよ、待て、あんなのが虫だと。あんなの、化け物だ。怪物だ。未知の生物じゃないか!! 何なんだあれは、何なんだお前達は!! もう、嫌だ、これ以上私の大切な人達を化け物にしないでくれ……!!」
「……あね、き」
真黒の目が震えている、自分でも分からないこの私の気持ちを理解したのか。伝わったのか? いや、違う。違うよな。
「まぐろ……まぐろ」
頭を撫でても、瞳の奥を見ても、抱き締めても、お前は、お前なのに。お前の筈なのに、お前等が化け物にしか見えないんだ。
私がイカれてると、そう思ってるんだろう?
「お前、は、國哦伐真黒、だよな……?」
「…………た、ぶん」
お前の方がイカれてるんだぞ、本当にお前はどうしようもなく莫迦な兄貴なんだ。
「たぶんってなんだよ。なら、お前は誰なんだ」
「姉貴が、悪いんじゃないか。まるで本当に、俺が俺じゃねえみたいに、言うから」
戸惑っているのか。真黒。
自覚があるのか。
自覚したのか。
震えるほどに怖いのか。
自覚したくないのか。
お前は化け物になったと。
正真正銘の化け物に。
まともな食事があるのに、食料不足でもないのに、毎日虫を喰って暮らしてる異常さに。
……違う、虫じゃない。
得たいの知れないモノを喰ってその身体に何を飼ってるんだお前は。
何に変わろうとしてるんだ、怪物に身体も意志も乗っ取られそうになって、吸収されて、生かして、育てて、何をしたいんだ。
力を一生手に出来ないことと一生化け物になることを選ぶなら間違いなく前者だろうが、普通ならッ!!
「お前は真黒じゃない。真黒じゃない。違う、お前は生まれた時から化け物だ」
「姉貴、それ酷くないか?」
「化け物だ。お前なんか。お前なんか」
「あ、姉貴。何。どうしたの」
──神様。どうして私の兄を。こんな化け物に生んだのだ。
そう言ってきたのは、碧王だった。
実はまだ白馬の豹変は終わっていない。学校にいる時は普段通りだが、家に帰るなり暴れ出す。黄泉はこの場所自体もダメなんじゃないかと思えてきた。
碧王が訪ねてきた理由も何となく分かっていた。
「白馬の件ですね」
「赤鳥の件で君の名前を呼び続けている」
「ずっと名前を呼ばれているなとは思っていました」
「話してもらいたい」
「分かりました」
面倒だとは思うけれど、早く治ってほしいとも思う。
黄泉は白馬のもとへ向かった。着いた先で、何があるのかも知らずに。
黄泉が着いた頃には、屋敷はボロボロになっていた。襖は弧を描くように曲がり、破け、中の牢屋は格子がぐちゃぐちゃになり開ききっていた。
「白馬……?」
部屋の端で蹲る影があった。
彼の口の中から、ボロボロと虫が落ちていく。
「黄おおおおおおおおおおおお泉いいいいいいいいいいッ!!」
白馬は左の拳を振り翳す。黄泉に食い気味に迫って来た白馬の身体は、右半分がほぼ半透明になり、半透明の虫や触手がうじゃうじゃと湧き出してくる。
「白……馬……」
黄泉はショックで避けることを忘れ、頬に白馬の拳が直撃した。
黄泉は牢屋の格子に向かって吹っ飛ばされ、格子の中であおむけに倒れる。白馬はそこに飛び込んでいき、黄泉を両手で囲った。
左腕は半透明になり、虫が湧いて出てこようとしたが、黄泉の右腕に近づいた虫たちは逃げるように反対側へ寄った。
黄泉は苦しかった。痛みもだが、胸も。
白馬。
はくば。
「白馬」
白馬。
なんでそんな化け物に……どうして。
全部。私の所為だ。
黄泉は涙を流して、白馬の胸に抱き付く。
きっと治る。絶対に治ると、願いながら。
碧王が黄泉を白馬の元へ行くように聞いた上の者達が、後からやって来て、白馬を取り押さえる。碧王は姿を消していたらしい。
上の者達が白馬を滝壺の奥に連れて行くと言うのを聞いて、黄泉は白馬を彼の部屋に閉じ込めるよう頼み込んだ。きっと治ると。
黄泉は白馬に後で話し合おうと告げ、夜に会う約束をした。
あの空き部屋で、白馬を待っている時だった。
黄泉は待つ間に、さきの出来事を思い出していた。
白馬兄さん……まるで、本物の化け物みたいだった。あんなモノを喰らっていたなんて。あんな気持ちの悪いモノを。あいつと目が合った途端、あいつが私の体内を這いずり回ったような感覚さえした。
まるで銀杏姉さんの食事を見ていた時のように気持ちが悪くなった。
兄さんの中にあんなモノがいるなんて、兄さんがあの化け物だなんて、信じたくない……。
「姉貴、大丈夫か? 具合悪いんだったら医者呼ぶけど」
「真黒……?」
どうしてここにとは思ったが、ここにいてもおかしくはないことにも気が付いた。彼はタフィリィをあと少しで出し切れる。屋敷を練り歩くこともできるし、自分の部屋に戻る時にここを通ることくらいあると。
「大丈夫だ。少し考えことしてたら気味が悪くなっただけだから」
ふらついて、真黒にもたれ掛かる。真黒はそれを支えた。
「それって、俺達のことか?」
こいつの言う〝俺達〟はタフィリィ服用者のことだろうか。それとも、力を求めて暴走した國哦伐家のことか。考えるのも面倒だ、お前等なんて。
「どちらも気色悪い。私に触るな……、化け物、共が……ッ、私の前をウロチョロするな!! 捻り潰したくなる、貴様等をほじくりかえしてぐちゃぐちゃに掻き回して全滅させてやりたいッ!!」
「姉貴……」
「どうしてあんなモノ、食えるんだっ? お前は化け物か? 最初から化け物だったからなのか……。私達は人間にはなれないのか。虫なんて喰って、待てよ、待て、あんなのが虫だと。あんなの、化け物だ。怪物だ。未知の生物じゃないか!! 何なんだあれは、何なんだお前達は!! もう、嫌だ、これ以上私の大切な人達を化け物にしないでくれ……!!」
「……あね、き」
真黒の目が震えている、自分でも分からないこの私の気持ちを理解したのか。伝わったのか? いや、違う。違うよな。
「まぐろ……まぐろ」
頭を撫でても、瞳の奥を見ても、抱き締めても、お前は、お前なのに。お前の筈なのに、お前等が化け物にしか見えないんだ。
私がイカれてると、そう思ってるんだろう?
「お前、は、國哦伐真黒、だよな……?」
「…………た、ぶん」
お前の方がイカれてるんだぞ、本当にお前はどうしようもなく莫迦な兄貴なんだ。
「たぶんってなんだよ。なら、お前は誰なんだ」
「姉貴が、悪いんじゃないか。まるで本当に、俺が俺じゃねえみたいに、言うから」
戸惑っているのか。真黒。
自覚があるのか。
自覚したのか。
震えるほどに怖いのか。
自覚したくないのか。
お前は化け物になったと。
正真正銘の化け物に。
まともな食事があるのに、食料不足でもないのに、毎日虫を喰って暮らしてる異常さに。
……違う、虫じゃない。
得たいの知れないモノを喰ってその身体に何を飼ってるんだお前は。
何に変わろうとしてるんだ、怪物に身体も意志も乗っ取られそうになって、吸収されて、生かして、育てて、何をしたいんだ。
力を一生手に出来ないことと一生化け物になることを選ぶなら間違いなく前者だろうが、普通ならッ!!
「お前は真黒じゃない。真黒じゃない。違う、お前は生まれた時から化け物だ」
「姉貴、それ酷くないか?」
「化け物だ。お前なんか。お前なんか」
「あ、姉貴。何。どうしたの」
──神様。どうして私の兄を。こんな化け物に生んだのだ。
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