リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
287 / 299
イルヴルヴ

14

しおりを挟む
 目が覚めた時には、聖茄の姿はどこにもなく、自分も見知らぬ部屋に寝かされていた。自分を見下ろす研究者たち。身体を動かそうとして、自分は拘束されているのだと気が付く。
 ああ。
 戻ってきた。
 戻ってきたのか。
 でも、聖茄はどうなったんだ。
 あの子は無事なのか。
 心残りはそれだけだ。
 あの子が何もされていないのならば、私は安心して彼らに身をゆだねられる。



        ◇◇◇



 アシャの実験が行われている無人島。
 ユヤによってアシャがその島へ運ばれたその日に、聖茄は研究者や警備員たちを殺してアシャを追っていた。
 聖茄は追っ手から逃れるため、また、アシャを救うため、森の中に身を潜める。
 そんな彼の前に現れたのは、2号と呼ばれるあの青年だった。
 聖茄が逃げようと走り出すと、2号はその前に瞬時に現れて聖茄の動きを止める。
「俺は貴様等の味方だ」
「そんなわけがあるか」
「…………信じないならいい。俺は黙って貴様の手助けをしよう」
「…………」
 聖茄は2号を信じなかった。
 彼女――彼は一人で、森の中を駆け回った。
 アシャの捉えられている、施設を目指すために。



        ◇◇◇



 アシャは実験が終われば無人島の施設内の森に放たれる。施設の周辺でアシャは目隠しを外され、数時間だけ自由になれた。
 何故なら彼女の食事で施設の費用が尽きかけていたからだ。
 自然を相手に食事をしろと研究者たちはアシャに命令した。彼等は彼女を持て余していたのだ。
 できるだけ多くの命を奪わないよう、アシャは餌をオオカミと人間だけに絞った。
 人間とは時々実験体用として島に連れて来られる人間のことだ。その島の食物連鎖の頂点であるオオカミたちと同じくその失敗作の人間を餌とした。
 狩りをする時、彼女はオオカミの姿に変身するようになっていた。何モノも混じらない純粋なオオカミの姿だ。
 日光と月光に輝く美しい黄金の毛と。
 闇の中に怪しく光る七色の瞳。
 全長45米の巨体。

 その姿を目にして、研究者たちは彼女を《イルヴルヴ》と呼ぶようになった。



 島は広く、森は深く、アシャと聖茄は出会うことがなかった。
ついに島のオオカミは絶滅の危機に陥り、アシャはオオカミを喰らうことをやめて他の命や無機質なモノにまで手を出した。
 彼女の空腹は研究者の力ではどうにもならなかった。
 草木を喰らい。
 大地を喰らい。
 川をも喰らい。
 アシャは食物連鎖の頂点に立った。
 アシャは生きる為にあらゆるモノを喰らう。
 アシャから作り出された実験体たちは、アシャの失敗を踏まえ、限られたモノしか食べられなくなっていた。研究者たちの目的は各国に売りさばく兵器を作ることだ。
 彼等の食欲は人間へのみ向けられた。
 ここで、彼等と彼女を区別するために新しい呼び名が付けられる。
 アシャは《ヴァイアヴォルフ》と呼ばれ、他の者も総称して《ヴァラヴォルフ》と呼ばれた。ヴァラヴォルフは狼へ変身し、人間を喰らう化け物だった。
 その頃から、研究者たちには実験体(ヴァラヴォルフ)たちの制御ができなくなっていた。新しい実験体はコントロールできるように改良する必要があった。彼らを手放し、アシャの身体の一部を使い、新しい実験体を生み出す実験が行われた。
 自由となったヴァラヴォルフたちは自ら知識を付けていき、生きた人間を喰らうことをやめた者が現れた。そんな者たちが増え、掟を作り始めた。
 しかし、それに納得しない者たちは群れから離れ、新しい群れを作っていく。
 彼等は生きた人間を食べる自分たちは《イブリヴォルフ》であると名乗った。
 アシャはそんなことを知らず、ただただ実験の日々に明け暮れていた。
 数か月経ったある日、自分に会いたがっていると言う人物がいると、一人の研究者に言われた。
 アシャの実験は中断され、その人に会いに行くこととなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...