リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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エンタイア

18

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 出口まで、10m。







 ――次に立ちはだかったのは…………ゼジ・ラックマンだった。





        ◇◇◇



 ング・エンタ第六研究基地A棟一階に二つの小さな影があった。
「なあ、おい、どこまで行くんだよ」
「すべての実験体を逃がすまでだ」
 影の一人が腕を振るうと、A棟の施設は悉く消失していった。
「ちょっと待ってくれ聖唖。そんなやり方じゃ実験体まで殺しちゃうだろ」
「じゃあどうすればいい。君の知恵を貸してくれ」
 キラキラと輝く瞳が聖唖と呼ばれた少年でない方の少年へ向けられる。
「うっ……」
 眩しそうに顔を歪める赤銅色の髪の少年。
 ――二つの影の正体は、赤銅色の髪と、空色の髪の、あのラーメン屋に入った二人の少年だった。
「力を貸してほしい」
「ああ! もう! しょうがねえな! ……ったくよぉ!」
「ありがと」
「はいはいどうもどうも~」
 聖唖の前を歩き出した少年に、聖唖は着いていく。
「こっちだよ~おいでおいで」
「どこに行くんだ?」
「物質の保管庫。どの施設もそれが命綱みたいなもんだから襲撃する。覚えておくんだぞ、ここテストにポロリするからな」
「うん」
 聖唖はこくりと頷いた。
「はああ~。どうしても会いたいって言うから、約束してハンバーガー食いに行っただけなのにどうしてこんなところに連れて来られてるんだ俺は」
「ごめん」
「ああもう、責めたわけじゃないから!」
 二人がぺちゃくちゃしゃべりながらの~んびり歩いていると。施設の人らしい男をばったり会う。
 赤銅色の髪の少年は手を上げて言う。
「よお! お疲れさんです!」
 聖唖が真似をして言う。
「お疲れさんです……?」
 施設員がさわやかな笑顔で言う。
「ああ、どうも」
 施設員はしばらく歩いてから、「ん!?」と振り返る。二人は既に猛ダッシュして遥か遠くの廊下まで行っていた。

「し、侵入者だあああああああ―――!?」

 彼らが侵入者だとバレたのは、その服装と胸元にあるバッチのせいだった。それはこの施設とは敵対関係にある組織の証だった。
 追いかけてくる警備員達と追いかけっこをし、赤銅色の男の子は高らかに笑う。
「あははははは! あははははは! あははははは! あははははは!」
「壊れたのか?」
「違わい! 誰のせいでこんなことになってると思ってんだい!」
「君と私がの~んびり歩いていたからだろう」
 赤銅色の少年はハッとして、両手の人指し指を聖唖に向けた。
「確かにっ☆」
「かわいい……」
「黙れ! 俺はかっこいいんだ!」
「かっこいい」
「そうだ! もっと褒め称え崇めたてまつりたまわれ!」
「ごめん。よく分かんなかった」
「つらい! その返しがとてもつらい!」
「ごめん」
「謝らないで! もっとつらくなっちゃう」
 二人は保管庫へ向かって走り続ける。
しばらくして、赤銅色の髪の少年が「へぇへぇ」と息を荒げ始めた。
「聖唖。俺をおんぶして走りなさい」
「うん」
「――ってお姫様抱っこじゃない! 下ろして!」
「こっちの方が落ち着く」
「それはもしかしてそう言う意味で?」
「うん。背中に誰かいると刺し殺したくなる」
「ですよね~」
 聖唖は尋常ではない足の速さで警備員を振り切り、天井や壁を破壊し、跳躍したり疾走したりしながら保管庫へ向かう。
 保管庫へ辿り着き、二人は赤色と黄色の巨大なタンクの前に立ち、警備員達が追いついてくるのを待つ。
「もうどれか消しちゃっていいよ」
 赤銅色の髪の少年がそう言うと、聖唖はタンクの中身ごと薙ぎ払い、消失させていく。それどころかその部屋の半分とその上が、
「うお、ここ何階まであるんだめっちゃたけ~」
 上を見上げながらそんなことを言う赤銅色の髪の少年に、聖唖は答える。
「ここは3階。見えるのは12階だから15階だ」
「地下施設を入れたらめちゃめちゃでかい施設だよな」
「うん。壊すの楽しみだな」
「今のを警備員に聞かせたかった! はやく来い警備員! 俺もう帰りたい! ごろごろしたい~!」
 言った瞬間、大勢の息を切らした警備員が現れ、彼等は膝を抱えてから、突然吹いた風に顔を上げる。そして……目をひん剥いて、仰け反った。
「これ以上タンクを壊されたくなかったら、実験体たちを逃がしなさい!」
 警備員はヒグナルに連絡を入れたらしい。焦ったような声が聞こえてきて、通信が切れたらしく聖唖達に向き直る。
「分かった。A棟の実験体を開放する」
「全部だ」
「そ、それ以上は戦争になるぞとヒグナル様からの伝言だ!」
 赤銅色の髪の少年は「ん~」と考えてから言う。
「したいならすれば? って伝えて」
「……っ」
 警備員はまた通信する。それを待っていれば、返事が来たらしい。警備員の男は聖唖達に告げる。
「実験体を全員殺してもいいんだぞと」
「そんなことしたらこっちも全滅させると伝えて」
「……っ」
 もう警備員が可哀そうである。
「他施設の実験体達もすべて処分すると言っている」
「そうしたいならすればいい。俺は悲しいけど、お前らにも痛手だろ」
「…………っ!!」
 警備員は焦った様子で通信している。
 他の警備員達も顔面蒼白で焦っていた。
 聖唖は早く終わらないかなとあくびをしている。
「全員逃がして良いそうだ。ただ……本人達の意思を尊重しろと」
「洗脳してるくせによく言う。ある男の居場所をはけばその話にのってやると伝えて」
「あ、ああ」
 男が伝えると、通信機の向こうから息を呑む音が聞こえてくる。
「…………分かった、と。彼は第四研究基地にいるらしい」
「それはどこにある」
「鹿児島市だ」
「おっけ。どうもありがとうって伝えて」
 警備員が伝えると、怒鳴り声が聞こえてくる。そんなこと伝えなくていいとでも言っているのだろう。
 実験体達が外に出されると、聖唖達は……。

 

 その日、地下施設とエレベーターで繋がるA棟は消失し、以降、地下施設と地上には階段が掛けられたと言う。
 赤銅色の少年に手を引かれ、聖唖は嬉しそうな顔で森の中を走っていた。
「もうこんなことするなよ、色々いきなりすぎ」
「うん。気を付ける」
「でもあいつの居場所が知られただけでも良かったな」
「それなんだが……おそらくヒグナルが伝えるだろう。今から行っても逃げられた後だと思う」
「そっかぁ」
 赤銅色の髪の少年は立ち止まり、蹲る。
「結構残っちゃったな。実験体」
「また助けに来よう」
「そうだな。向こうが何かしてくる前に逃げよう」
「それにしても……警備が思ったより少なかったな」
「確かに……実験体が暴れてたんじゃない?」
「そうかも。なんかC棟あたりから大きな音してたし」
「げっ。そんなのも分かるのかよ」
 C棟は非常口から実験体を逃がしたと聞いた、実験体が入り口付近で暴れていたことが赤銅色の髪の少年には分かった。
 戦争したっていいとは言ったが、聖唖の力ありきだし、彼に大勢殺させるのは気が引けるので本当は戦争なんてさせたくないし、したくなかった。
 少年は何より戦争が大嫌いだった。
 実験体を逃がせただけでもいい成果だっただろう。
 後は聖唖の所属する組織に連絡して、実験体達を保護してもらうだけだ。
 それ以上何かを行うことは出来ない、相手の逆鱗に触れれば、本当に戦争になりかねないからだ。
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