リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
168 / 299
ディノル

16

しおりを挟む
 焚火の周りをロースト魚が串刺しにされてローストされている、さらにその上には鍋が置かれ、どこかで嗅いだことのあるような香しいロースト臭が漂ってくる。椅子石に座りそれらを囲んでいるのは、我が妹と、見知らぬ男。後姿だから顔は分からないが、真っ白な髪をして真っ白なコートとズボンを着ているうえ、肌も真っ白な全身真っ白星人だった。
「ばかーにーしちゅ~」
「ちゅ~? ちゅうしてくれるのか? 姉と違ってかわいいな~甘えん坊さんだな。かわいい。鵺ト~ちゅ~」
「しちゅ~!!」
 ほっぺたをべっちと叩かれ、拒絶される。お兄ちゃんショックなんですけど……。
「ん? シチュー……だと?」
 この焦げた匂いの正体はロースト大量魚、ならばこの香しいクリーミーなロースト香りは!
「わ~い! シチューだ~! ぬすめ盗め~☆」
「ううめ~」
「その通りだ。シチューはうめえぞ! ぬすめ~☆」
 うわあいと、傍にあった誰かのリュックから入れられそうな容器を盗み、誰かの手から誰かのお玉を盗み、容器の中に誰かのシチューを注いで盗む。
「ん? 食いしん坊だな、まだ完成してないぞ?」
 誰かの手が楽ドの頭を撫で、楽ドの心が盗まれる。
 縁だけ蒼く、美しい白い瞳、シミほくろ一つない白い肌、笑った時に見せた歯は歯の模型の如く揃っていて真っ白で、なぜかさわやかな風が吹いた。
……瞳や口の中や周辺の空気まで真っ白だなんて思わなかった。拾った雑誌とかによく出てくるモデルさんより顔がいい。シチューの傍に座っているだけなのに様になっている。
「な、なんだこの胸のときめきは! もしかしてあなたが僕のお父さんですか! 僕はこの手を知っている気がする!」
「ん? いきなり過ぎる気もするが、お父さんと呼ばれない分なら好きに思ってくれて構わないぞ」
「かしこまり☆ …………本当に頂いてもよろしいんでしょうか?」
 こんな親切な大人がいてたまるか?
たまにいい人かと思えば人攫いだったってこともあったし、正体不明の集団だったり、彼らに洗脳されかけてる大人たちだったり、茶飯もしつこいし、大人にはいい記憶がない。
でもこの人に対しての警戒心が全く持てないのはなぜだ。心の底からこの人は安心して頼ってもいい存在だと思えてしまう、会ったばかりなのに何故……。
「多人数で食べる食事はいいな」
「ありがとうございます。それと気になってたんですけど、あのベッドは一体?」
「あれは落ちてたから使っただけだ! ちゃんと清潔なものを選んだから安心して欲しい」
「お、落ちてた? どこに?」
「ん? 君の横、その瓦礫の向こうに」
 俺の横の、その瓦礫?
 楽ドは横と言われるであろう場所を見たが、周りには半壊した建物の巨大な瓦礫しか存在していない。中に入れそうな処も見渡らないし、この人は何を言っているんだろうか。
「さあ、出来たぞ。君も座って食べるといい。一人で食べるには作り過ぎた。この鍋が大きいせいだな、どうしても鍋いっぱいに作りたくなってしまう性分で、いつもこうなってしまう……まあ無駄にしたことはないからいいか!」
 ぱくぱく美味しそうに食べていく姿を見ていれば、ぐう、と楽ドのお腹が鳴る。ラ矢も目をキラキラさせて魚やシチューを眺めていた。
「鵺ト、おいで~」
 ベッドが珍しいのか、ぐるぐるとその周りを歩いていた鵺トに声を掛ける。鵺トは楽ドに駆け寄って、大きめの椅子石の楽ドの隣に座った。物珍しそうに鍋を見てから、楽ドの顔を見上げてくる。
「にー」
「そう! それでいいんだよ!」
 抱きしめてほっぺたにちゅ~っとすると嫌がられて暴れられてしまった。それを見て聞いていたラ矢がむすっとした顔で言う。
「バカ兄」
「ばかーに」
「おいクソラ矢」
「おいそあや」
 それを聞いたラ矢が全人類を滅ぼせそうな目で、我らがかわいい弟を睨んで言った。
「……バカ弟めが」
「ばかおうとめ」
 鵺トの視線は楽ドに向けられている。
「え、俺じゃないよ!?」
 もしかして〝ばか〟は俺だと思っちゃってないか?
 しかし否定したからか、鵺トは姉を見る。楽ドがこくこくと頷くと滅ぼされそうになったので、頷くのをやめて頭を振る方に変える。ラ矢はそれで満足したのか、滅ぼすのをやめ、同じように頭を振った。
 すると、今度は誰かさんに顔を向けてじっと見つめる。誰かさんはばか認定されそうになっていると言うのにご飯を食べることに夢中で気付いていない。ばかである。
 彼が否定しないので〝ばか〟だと認定されてしまったらしい、鵺トは「しちゅ~」とか言い始めてしまった。そう言えば……
「あなたの名前は?」
「俺はオルトシア。セル・オルトシアだ」
「俺は楽ドです。美幸みしあ楽ド、こっちのかわいいのが鵺トで、そっちの怖いのがラ矢」
「……みしあ? どこかで聞いたことがあるような……ん~?」
「もしかして本当に僕のお父さんですか!?」
「お父さん? ああ、茶飯が探していた子達だったのか!」
 何いいいいいいいいいいいいいいい!?
「そうかそうか、だから聞き覚えがあったのか」
 またもやよしよしと頭を撫でられ、警戒心が薄まっていく。すぐ報告するようなことはないみたいだし、今のところは警戒しなくていいか。そもそも報告するようなモノなんて無線か高価で取引される通信機スマホくらいしか――……
「あ、もしもし茶飯か?」
 左手に嵌められていた腕輪に話しかけているそれを見て、呆気に取られる。冗談かとも思ったが、彼の手首から茶飯の怒鳴り声らしき音が聞こえてきて、楽ドは逃げる準備はしておいた方がいいなと考える。
「何だ何を怒ってるんだ? 何かしただろうか? さっぱりだ。だが謝る、すまん。許してくれ。そうだ、君の探していた子達は私が責任をもって預かり、守ってやろう! だから追いかけて怖がらせてやるなよ。じゃあな!」
 茶飯はまだ何か話していたが、その声が突然途絶える。一方的過ぎる……。絶対に理解が追い付いていない……。憐れな茶飯よ。
……と言うか、預かられてしまうのか、俺たち。でもご飯喰えるし、茶飯の知り合いなら、確かに危険性はないかもしれない。でも怪しい、あの腕輪はなんなんだ。あんな機種は見たことがない。もしかして、正体不明の組織の……
「ああ、壊れた! 今の一回しかしゃべってないぞ! あ~やっぱり自分で修理したもんなんてこんなものか……俺のスマホは本当にどこへ行ってしまったんだ!」
「…………え? 修理!? 自分で!?」
 ますます怪しい、この瓦礫の山のような町で修理ができるような場所なんてないだろ!
「うん。偶に侵入した施設なんかでついでに拾ったものなんかを直してくるんだ。懐かしいな~。これは地球がこんなになる前に発売されたばかりのセット機種なんだ。通話ができるだとか、キャッシュレスだとか、音楽が聴けるだとか、指でスワイプするだけで次の曲が聴けるだとか、スマホと連携出来るだとかで売り出されてた。まあこれは通話の機能しかないんだが……まあたった今通話の機能さえもなくなったんだが……」
 だんだんと項垂れていって、酷く落ち込んでいる様子だ。
 本当に警戒心を悉く薄めてくる相手だなぁ。まだまだ警戒は怠らないとしても、少しくらいなら安心してご飯を食べてみてもいいんだろうか。
 そんなこんな悩んでいるうちに、楽ドはお腹いっぱいになるまで温かくおいしい食事を食べ、ふかふかベッドで妹と弟と寝かしつけられてしまい、身体に与えられる幸せの絶頂と、頭を撫でられる気持ちよさと同時に与えられる安心感に、その日は次の日の朝までぐっすり眠ってしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

処理中です...