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ディノル
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茶飯の看病の末、オルトシアは4日後に完全復帰した。その間中楽ドたちは普段はいかない川に魚を捕りに行く日々を過ごし、ラ矢や鵺トは今まで体験したことのない〝食糧調達〟に楽しみを覚えたようだ。偶になら一緒に行動するべきだったのかも……と楽ドは思ったがすぐにかぶりを振る、自分達が何かして追われる身にならずとも大人たちの争いに巻き込まれる可能性だってある。何が起こるか分からない。
そう、分かんないよこれ。
「楽ド、あの子の名前は聞けたかっ? あの子にはいつ会える?」
オルトシアって……顔を真っ赤にして鼻をふんふん鳴らすような変態気質あったっけ?
「凄まじい力だったな、あの力は恐ろしさもあったかもしれないが美しくもあった、あんな力見るのも感じるのも初めてだ。また会いたい」
「はあ……」
「もう一度会いたい! 楽ド!」
「俺にどうしろと!?」
チビたちにも早く会いたいとだだをこねられたが、まさかオルトシアにまでお願いされるとは思ってもみなかった。あ~あ~……アイツの美貌はどこまで人を虜にするんだ。
ラ矢はどうやらあいつのことを女の子だと思っているらしく、早くお友達になりたい、将来のお姉ちゃんなんでしょとか言ってくるし。違う、男の子なのと何度訂正しても信じてくれないし……。次にアイツが来たらズボン脱がせて確認させよう、うん、これは仕方がない、妹のためだ、しょうがない。
今日は茶飯と子供たちが狩りに出かけている。楽ドとオルトシアは留守番だった。その間中あの子供のことばかり話すオルトシアにつなぎ止められ、楽ドはまた探索に出かけられなくなっていた。元気になり過ぎだ、こんなに饒舌だったか? むしろもう傍から離れたいから出かけようか。
「ただいま。今日は偶然武軍の仲間達に会えて、肉を貰ってきたぞ。偶には顔を出せと怒られてしまった」
茶飯が肉や長い布に包まれた何か、子供服などを帰ってきて、楽ドは首を傾げる。彼のそばにチビたちの姿がない。
「え、ラ矢と鵺ト達は?」
楽ドが冷や汗を垂らしながら尋ねると、茶飯は不思議そうな顔をして言う。
「ん? 二人なら出かけた後すぐに引き返してお前達と留守番させたじゃないか。連れて帰ってきただろう?」
「は?」
何を言っているんだ、こいつは。
「帰ってきてないだろ!?」
「い、いや、ちゃんと君のところに行くのを見送った後狩りに出かけたぞ!」
茶飯は焦った様子で辺りを見渡して、「その辺で遊んでいるだけだ!」と荷物を放り投げて、頼むそうであってくれと言わんばかりに顔に緊張を乗せて探し回る。オルトシアも共に探し始めた、楽ドはその姿を見ながら、考えていた。
――オルトシアとアイツの話をしてた時、あいつらが帰ってきてて、話を聞いたんだ。二人もアイツに会いたがってたことも原因だろうけど、また俺が一人でアイツを探しに行くと思って、二人でアイツを探しに行ったんじゃ――……
「ああ、もう! バカヤロウ! 何かあったら茶飯もオルトシアもあのバカキョウダイも俺も恨んでやる!」
大人達と一定の距離を保ちつつ、ラ矢と鵺トの捜索をする楽ド。あの子供と話した公園付近に、白い衣服を纏った者達を発見した。彼らは何かを囲んでおり、その手には注射針が持たれている。
――まさか本当にアイツらが!!
赤毛の髪と青い髪が白服の間から見え、楽ドは不安と焦りが押し寄せて判断が鈍り自棄になって叫ぶ。
「ラ矢!! 鵺ト――ッ!!」
白服達が楽ドの方を向く、指を指して、数人が楽ドの方へと向かってくる。楽ドはチビたちのことしか目に入っていなかったが、男達が歩みを止めて、さっさと退散しようとする様を見て、自分のそばにオルトシアと茶飯が追いついてきたことに気がついた。
チビたち二人を担ぎ、白服達が白く長い車に乗り込む、鵺トはぐったりとしており、ラ矢は懸命にもがいて、楽ドに手を伸ばした。
「お兄ちゃんっ!!」
「大人しくしろ。おい、注射はまだか」
「なさい、ごめんなさい、お兄ちゃ――――うっ」
ラ矢の声が途絶え、楽ドはその首筋に押し付けられている注射器を見て怒鳴り声を上げる。何かを伝える訳でもない、癇癪を起こした子供のようにただ音域だけで喚き散らした。
「落ち着け楽ド、騒いでもどうにもならないぞ」
車はどんどん遠のいていく、奴らはどうやら、自分たちの通る道だけ整備しているようだ。迷いなくハンドルを切っていけるのはそれが理由だろう。
奴らはアリの巣のように張り巡らされたルートを持っていて、この町を誰よりも早く移動している。人間の足では到底追いつけない。
「……お、オルトシア、オルトシアぁ」
「よしよし、大丈夫だ。あの子たちも君も俺が守ると約束しただろう?」
オルトシアの胸で涙を流す楽ドの姿を見て、茶飯が目を釣り上げて言った。
「奴らの居場所は分かっているんだ、ディヴァート・ウェザへ向かおう。必ずあの子たちと私の妻を取り戻してやる」
◇◇◇
空に浮かぶ島の町、島の周囲の広大な大地と、かつて同じ大地であったその場所に、美しい少年が立っていた。誰もがその美しさに脳を吸われ、何も映らないその瞳に蝕まれていくだろう。彼は行き慣れた道を歩み、瓦礫の間やその上をどんどん進んでいく。
少年は身を隠すように大きな瓦礫の山で出来た洞窟の中に入り、見えはしない空を見上げた。
歌を歌い、思い出すように自分の身体を抱き締める。あの時の温もりを、もっと感じてみたいと、そう思って、相手の顔を思い浮かべる。
その歌声はとても美しく、聞く者の脳内を内側から揺さぶるようであった。
そう、分かんないよこれ。
「楽ド、あの子の名前は聞けたかっ? あの子にはいつ会える?」
オルトシアって……顔を真っ赤にして鼻をふんふん鳴らすような変態気質あったっけ?
「凄まじい力だったな、あの力は恐ろしさもあったかもしれないが美しくもあった、あんな力見るのも感じるのも初めてだ。また会いたい」
「はあ……」
「もう一度会いたい! 楽ド!」
「俺にどうしろと!?」
チビたちにも早く会いたいとだだをこねられたが、まさかオルトシアにまでお願いされるとは思ってもみなかった。あ~あ~……アイツの美貌はどこまで人を虜にするんだ。
ラ矢はどうやらあいつのことを女の子だと思っているらしく、早くお友達になりたい、将来のお姉ちゃんなんでしょとか言ってくるし。違う、男の子なのと何度訂正しても信じてくれないし……。次にアイツが来たらズボン脱がせて確認させよう、うん、これは仕方がない、妹のためだ、しょうがない。
今日は茶飯と子供たちが狩りに出かけている。楽ドとオルトシアは留守番だった。その間中あの子供のことばかり話すオルトシアにつなぎ止められ、楽ドはまた探索に出かけられなくなっていた。元気になり過ぎだ、こんなに饒舌だったか? むしろもう傍から離れたいから出かけようか。
「ただいま。今日は偶然武軍の仲間達に会えて、肉を貰ってきたぞ。偶には顔を出せと怒られてしまった」
茶飯が肉や長い布に包まれた何か、子供服などを帰ってきて、楽ドは首を傾げる。彼のそばにチビたちの姿がない。
「え、ラ矢と鵺ト達は?」
楽ドが冷や汗を垂らしながら尋ねると、茶飯は不思議そうな顔をして言う。
「ん? 二人なら出かけた後すぐに引き返してお前達と留守番させたじゃないか。連れて帰ってきただろう?」
「は?」
何を言っているんだ、こいつは。
「帰ってきてないだろ!?」
「い、いや、ちゃんと君のところに行くのを見送った後狩りに出かけたぞ!」
茶飯は焦った様子で辺りを見渡して、「その辺で遊んでいるだけだ!」と荷物を放り投げて、頼むそうであってくれと言わんばかりに顔に緊張を乗せて探し回る。オルトシアも共に探し始めた、楽ドはその姿を見ながら、考えていた。
――オルトシアとアイツの話をしてた時、あいつらが帰ってきてて、話を聞いたんだ。二人もアイツに会いたがってたことも原因だろうけど、また俺が一人でアイツを探しに行くと思って、二人でアイツを探しに行ったんじゃ――……
「ああ、もう! バカヤロウ! 何かあったら茶飯もオルトシアもあのバカキョウダイも俺も恨んでやる!」
大人達と一定の距離を保ちつつ、ラ矢と鵺トの捜索をする楽ド。あの子供と話した公園付近に、白い衣服を纏った者達を発見した。彼らは何かを囲んでおり、その手には注射針が持たれている。
――まさか本当にアイツらが!!
赤毛の髪と青い髪が白服の間から見え、楽ドは不安と焦りが押し寄せて判断が鈍り自棄になって叫ぶ。
「ラ矢!! 鵺ト――ッ!!」
白服達が楽ドの方を向く、指を指して、数人が楽ドの方へと向かってくる。楽ドはチビたちのことしか目に入っていなかったが、男達が歩みを止めて、さっさと退散しようとする様を見て、自分のそばにオルトシアと茶飯が追いついてきたことに気がついた。
チビたち二人を担ぎ、白服達が白く長い車に乗り込む、鵺トはぐったりとしており、ラ矢は懸命にもがいて、楽ドに手を伸ばした。
「お兄ちゃんっ!!」
「大人しくしろ。おい、注射はまだか」
「なさい、ごめんなさい、お兄ちゃ――――うっ」
ラ矢の声が途絶え、楽ドはその首筋に押し付けられている注射器を見て怒鳴り声を上げる。何かを伝える訳でもない、癇癪を起こした子供のようにただ音域だけで喚き散らした。
「落ち着け楽ド、騒いでもどうにもならないぞ」
車はどんどん遠のいていく、奴らはどうやら、自分たちの通る道だけ整備しているようだ。迷いなくハンドルを切っていけるのはそれが理由だろう。
奴らはアリの巣のように張り巡らされたルートを持っていて、この町を誰よりも早く移動している。人間の足では到底追いつけない。
「……お、オルトシア、オルトシアぁ」
「よしよし、大丈夫だ。あの子たちも君も俺が守ると約束しただろう?」
オルトシアの胸で涙を流す楽ドの姿を見て、茶飯が目を釣り上げて言った。
「奴らの居場所は分かっているんだ、ディヴァート・ウェザへ向かおう。必ずあの子たちと私の妻を取り戻してやる」
◇◇◇
空に浮かぶ島の町、島の周囲の広大な大地と、かつて同じ大地であったその場所に、美しい少年が立っていた。誰もがその美しさに脳を吸われ、何も映らないその瞳に蝕まれていくだろう。彼は行き慣れた道を歩み、瓦礫の間やその上をどんどん進んでいく。
少年は身を隠すように大きな瓦礫の山で出来た洞窟の中に入り、見えはしない空を見上げた。
歌を歌い、思い出すように自分の身体を抱き締める。あの時の温もりを、もっと感じてみたいと、そう思って、相手の顔を思い浮かべる。
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