リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディノル

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 楽ド達はディヴァート・ウェザの崖が見える西側、荒田(あらた)にやってきていた。
 茶飯がディヴァート・ウェザのすぐ下の地面を見て、呟く。
「隙間だ、少しずつ島が回っている……………本当に、浮いている」
「ああ、楽ドの言った通りだな」
 オルトシアに頭を撫でられて、まだ涙目である楽ドはスーツの袖で涙を拭って言った。
「気を付けろよ。絶対帰って来いよ」
「ああ。約束だ」
 オルトシアはにっこりと歯を見せて笑ってから、楽ドに背中を向けた。ディヴァート・ウェザの門から降りた橋を登っていき、オルトシアと茶飯の背中が離れていく。楽ドは近くで一番高くて頑丈そうな半壊したビルに登って、本物の南栄軍から漁った双眼鏡で二人の様子を眺めた。腐臭のする双眼鏡だ、正直目に当てたくない、鼻がひん曲がりそうだ。しかしそうもいくまい。
 ――あの後少しだけ楽ド達は話をして、ディヴァート・ウェザの中には大人達だけで向かい、子供の楽ドはその外で待機することになった。
 中は未知すぎて簡単な作戦しか立てられていない。向かった彼らが無事に帰ってきてくれるかさえ定かではない。
 ――頼むからみんな無事に帰ってきてくれよ……。
 念をこめながら二人を見守っていると、楽ドは彼らに近づく複数の影の存在に気がついた。
 ――奴らだ。
 そう思ったのも束の間――――奴らはすぐに攻撃を仕掛け、オルトシアの圧倒的な力で捻じ伏せられる。茶飯も刀なんか持ち出してそれなりに戦えている。さすがは軍人――なんだろうか?
 刀って……おいおい、いつ持ってきたんだ。そう言えば今日の狩りの獲物の中に長い布袋もあったような。誰が持ってたんだよ……。
 しかし、敵の数はどんどん増えていくし、倒した筈の者も起き上がってくる。こちらからはよく見えないが、たまに赤い飛沫が上がって見えるので重症なことは間違いないはずだ、ならどうして。
 夕焼けが少しずつ夜の色へと変化してきていた、その色に緑色の小さな粒が浮かび、舞うように飛び交い始める。
「なんなんだよ、あれは」
 奴らの周りと、オルトシアの周りを埋め尽くさんばかりに光の粒が舞い踊っている。いや、ディヴァート・ウェザ全体が光の粒に覆い尽くされていた。
島の中央の、天に登る龍の如く聳え立つ光の壁は、夜に行動しない楽ドにとっては初めて見る幻想的な光景で、楽ドはいっときその美しさの虜となった。
鹿児島市の夜が明るいのはディヴァート・ウェザの――緑龍子の光に照らされていたからだった。
 なんて不思議な光だろう、恐ろしくもあり、美しい。
 あの光が人を人でなくすのか。
アイツが言っていたことは正しかったのかもしれない。
……俺はあんな風にはなれない。傷を負って元通りになる力などない。
一緒には戦えない。弱い弱い、人間であるから。
 楽ドがじっとオルトシアと茶飯の戦いを見ていると、その周りを赤いものがチラチラと動く。
 ――何だ?
 楽ドはそれに双眼鏡を向けて正体を追った。
「おいおい……!」
 それは楽ドと同い年くらいの子供であった。
 ――……アイツではないよな。
 少し紫がかった暗い色の茶髪と、戦場に似合わない真っ赤な服、そんな目立つ姿の少年が一人、ちょろちょろと戦場を走り回っている。
楽ドは観察していて気が付いた、彼の行動はオルトシア達の周りに敵を集めているようにも見える。恐らく彼らに敵を引き付けて自分は目的の場所へ進むつもりなのだろう。
 おいおい、余計なことするなよ、利用しやがって……。ずる賢い奴だ。いや、余計もズルもないよな、ここは戦場なんだから。
 でも……。
「それ以上集めてくれるなよ、相手は不死集団だぞ……」
 あの時みたいな、痛みを味わいたくはないのに。
 オルトシアと茶飯は倒しても倒しても起き上がってくる切りのない相手に疲労している。さらに敵も増え続け、一斉に飛び掛かられてもみくちゃにされ、地面に押さえつけられる。その上にも複数の敵が飛びかかっていき、覆いつくされてしまう。楽ドの方からはもうオルトシア達の姿は見えなかった。
 赤い子供はと言うと、敵3人に追われている、オルトシアと茶飯はもう戦えないと判断したらしく、子供は諦めたのか退散を試みている。
 茶飯とオルトシアが捕えられてしまった、それを見た楽ドはその赤い子供を恨んだ。何も出来ない子供のくせにでしゃばるなよ。俺の大事な人達が――……アイツのせいで。
 ――よせ。落ち着け。アイツだってきっと何か事情があるんだ。もし俺一人しかいなかったなら、俺だって同じようなことをしたかもしれない。
 楽ドは冷静になるよう心がけ、次に自分がどうするべきか考えた。
「もう俺しかいない。みんなを助けに行けるのは俺だけしかいないんだ……」
 侵入者があったからか、橋は既に消えてなくなっている。楽ドは双眼鏡で、島の大地と同じくらいの高さのビルを探した。超高層ビルのほとんどが崩れていたが、ちょうど良い高さではあった。あのビルなら届くかもしれない――楽ドはオルトシア達がどこへ連れて行かれるか、しっかり確認した後、目星をつけたビルへと急いだ。
 ビルへ着くと、楽ドは息を切らしながら階段を上がっていく。時々足が上がらなくなって、思わず階段に座って休憩したりもしたが、諦めて彼らを見捨てる道の方にだけは行かなかった。
「し、死ぬ……」
 ゼエゼエと息を吐いて、ビルの屋上についてやっと、島の大地が見える。
 天を煽らなければその全体が見られないような超高層ビルが並んでいる。そのすべてが、形を保たれた綺麗な状態で残っていた。なのに、人っ子一人いやしない。
 緑色の光の粒が、人の存在を否定したからなのだろうか。
 楽ドは少し休憩した後、また冷静に考えることにした。幾ら急いでも子供の足ではオルトシア達のところへは追いつけない。もし敵に見つかれば先程の子供のように諦めなければならない状況に陥ってしまうだろう。
 そうならないように、慎重に街中を移動しなければならない。
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