リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディノル

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 楽ドが追いつけずにいると、徐々にスピードを落とし並走してきて手を取り引っ張ろうとする。
「ちょちょ、むり、足がバタつくから、お願いスピード合わせてくれるなら引っ張らないで!」
「しかし。奴らは捕まえた子らをすぐにどこかの部屋に連れていく。私も居場所は把握していない、急ごう」
「あ、ありがとうな」
「君のためじゃないさ。これは私の為だ」
「う、うん。そうか。それでも俺が助けられてるからな」
「ら、楽ド……」
 ぽぉっとした顔で見つめられても、楽ドは気付かず、ヘェヘェと息を荒くして走るのに必死だった。いつの間にか地面に瓦礫がなくなっていて誰かを思い出しそうになる真っ白な床に変わっていたことに気が付いた。そしてその後にようやく、あれ? と思って顔を上げる。
「な、名前! 今名前呼んだ!」
「それがどうかしたのか?」
「今まで呼んでくれなかっただろ! 俺は楽ド、お前は?」
「…………」
「どうして答えないんだよ! ――うぶっ!?」
 突然子供が走るのをやめて、楽ドは子供の頭部に鼻から打つかる。
「いたい! 急ブレブレキはダメ!」
「きゅーぶれぶれき……? それより静かにしたまえ」
「なぁに? なんかあったの?」
「君は急に呑気だな?」
 楽ドは子供の頭に手を乗せて彼の見ている曲がり角の向こう覗き込む。すると、廊下を挟んだガラス張りの部屋の中に白い服の子供たちがわんさかいる様子が見える。研究員らしき大人も複数人出入りしているようだ。楽ドはその光景を見て一瞬呆けてから、「え!?」と声を上げた。
「な、なんなんだこの子供たち」
「実験体さ。彼らの従順さを見るにずっとここで暮らしてきた者達だろう。君の家族は多分ここにはいないな」
「じ、実験体……」
「行こう」
「――待ってくれ! あの子達も助けよう!」
「君には関係ない者達だ」
「オルトシアみたいになりたいんだろ、オルトシアなら絶対に助けると思う!」
 子供を抱き止めて必死に訴えるが、子供は納得がいかないのか首を傾げる。
「思う……?」
「ま、まだ会ったばかりで良くは知らないから。でもオルトシアはそう言う奴だって教えて貰ったし、俺もそれに納得してるから……!」
「…………わかった。君がそう言うのなら、それが正しいことなのだろう」
「そこまで信頼して貰ってると逆に困る……」
 楽ドが照れ臭そうに頰を掻くと、子供はきっぱり言い放つ。
「信頼はしていないさ」
「おい」
 楽ドがむっとして睨み付ければ、子供は唇の端をふにゃっと上げて笑う。
「君とは会ったばかりだろう?」
「そ、そうですね」
 笑ってる顔かわいいなんて思ってない、絶対に思ってない。
「では行こう」
「え?」
 手を握られたと思ったら、もう身体が斜めに傾いていて楽ドは「ひょええええ!?」と声を上げる。
 子供はガラス目掛けて角から飛び出しており、片方の手は楽ドの手を握って一緒にガラスへ飛び込む気である。
 楽ドはそれを悟る間もなく、強い衝撃だけを受けて一瞬だけ気を失った。しかし、すぐに子供の手が離れたことで覚醒し、子供の姿を目で追うのに必死になる。
 子供たちが泣き出し、部屋中に亀裂が入った。まるで叫び声に反応しているようだ。
 楽ドの髪が後ろから発生した風でぶわっと前に靡き、楽ドは思わず髪を押さえる。
 風と同じか、それ以上の速度で子供の背中が楽ドの前に飛び出しており、一度瞬きしただけで、遠く離れた研究員の上半身まで跳躍していた。
「ち、ちっちゃい子達は俺に続けええええええ!」
 あの子供が粉に変化させ、穴を開けたガラスへ、楽ドは腕を上げて走るが、ちっちゃい子達は付いていこうとしない。なんなら立ち尽くして楽ドや子供に見向きもせずにぼうっと前だけを見つめて叫んでいる。
「お、おい、ちっちゃい君達、ほら、今のうちに逃げよ。イケメンのお兄ちゃんが助けに来てあげたぞ~」
 楽ドはほらほら、と手を叩いて見せると、ちっちゃい子達は黙り込み、微動だにしない。
「な、何がどうなって……おかしいぞ。まさかお腹空いててぼうっと。俺も偶に空を見上げて曇って美味しそうだなどんな味かなとか考えちゃうけど、空腹でここまでぼうっとするかな……するかも」
 楽ドはすうっと息を吸い込んで、ふはーっと息を吐き、カッと目を見開く。そしてスーツの上着のボタンを外し、その内側をちっちゃい子達に見せつける。
「見よ! これが我が力だ! 空腹のものは我が力にありつけぃ! 今なら許す! さぁ我に続けぃ!」
 我が力――沢山の駄菓子をガムテープで留めて溜め込んだ力が解放される。子供達は目を輝かせて楽ドの方へやってきた。
「ふ、我が力に掛かれば子供の誘惑ほど容易いことはないわ」
「何をしているんだ? もう奴らは倒したぞ?」
「これは俺のお菓子だから誰にもあげませーん」
 楽ドはスーツを着直す。どうやら力の解放をやめ、力を溜め込むことにしたらしかった。
「よし君たち逃げるぞ~!」
 子供達は首を傾げ、走り出したラドを眺めた。ラドは子供たちに「ついてこれたら我が力を与えてやろう」と言い、力を見せびらかした。
「行くぞ楽ド」
「ほらほらついておいでー!」
 子供たちはきゃあきゃあとはしゃぎながらついてくる。楽ドは廊下を走る最中、壁に記された文字からここが4階であることを知る。
 外から見たところ階数はそれ以上あったように見えた。いったいどの階にチビたちはいるのだろう。
「こっちだ」
「え!? そっち!?」
 子供がただがむしゃら院は知っているように見えて、楽ドが「待って」と呼び止める。
「そっちであってるのか!?」
「君たちの匂いは覚えた。君の妹たちはこっちだ。大人たちも捕えられているみたいだな」
「え? 捕えられてる? そんなことまで分かんの?」
「場所は把握している」
「え、なんで……」
「ここに住んでいるからな」
「え、ここに? さっきの場所じゃないの?」
「私の家はこの島全体だ」
「うわお……」
 でも確かに、誰も近づかないし隠れ住むにはいいのかもしれない。奴らの拠点になったのも同じ理由だろう。
 チビたちのいるらしい2階に到着する。また壁はガラスで部屋の中の様子が見える。
「何だよここ……っ」
 中にいるのはもちろんさっきとは別の子供たちだ。彼らは天井からつるされた鳥籠のようなものに入れられている。股上は檻におさまり、足はだらんと鉄格子の外へ投げ出されていた。その足には緑色に光る管がつなげられている。きっと我々を人間でなくする緑龍子だろう。
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