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ディーヴァ
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しおりを挟む無音。
何も聞こえない。匂いもしない。暗い真っ暗。誰の声も聞こえない。
──そうであってほしかった。
奏の耳が受けとるのは……悲鳴と銃声と爆発音。
銃声や叫び声が聞こえてくる。もう敵は学舎にまで入って来てしまっているようだった。
奏は頭を抱える。
苦しみと憎しみ、哀れみに悲しみの声が頭の中で飛び交う。
奏は強く在らねばならないと思いながらも、飛び出していく勇気がなかった。
むしろ、壁が立ちはだかって見えてこのまま閉じこもって泣き続けるしかないのかとすら思った。
奏は勇気を持っていなかった。
奏の勇気はあの日遠くへ行ってしまっていた。
暗い部屋に一人ぼっちだ。
それはものすごく過酷なものだ。
いつ誰がこの部屋に入ってくるかも分からない。
奏は耳に聞こえるその音にそれ一つ一つに怯えながら戦いが終わることを待ち続けなければならないのか。
もし今外に出たら、皆地面で寝ているかもしれない、赤い赤い絨毯と一緒に。
怖い。
1人かもしれない。
今ここにいるのは、私だけかもしれない。
ただ怖い。
──リカコさん、私はいつまでここに入ればいいの……。
込み上げてくる不安と可能性に、奏は対応できずに怯えるばかりだった。
──もし、もし皆いなくなったら……? 私はいつ出ればいいの……。
「──……お兄ちゃん……」
──ここにいたらおかしくなりそうだ……。
カナタもミドノも頼れない私には、今お兄ちゃんしか信じられる人がいない。
奏の脳は混乱の渦に巻き込まれ、血圧が上昇し、もう少しで激動していただろう。
そして、それを止めてくれた、突如耳に届く音。
──コンコン……。
それは、ノックの音だった。
──え……?
抱え込んでいた頭を上げ、扉に目を向ける。
脳内には疑念と言う名の恐怖と安心感が溢れ出る。その2つは見事なほどに掻き乱され、奏の身体を熱くする。
──終わったの……? 速くない……?
──もしかして敵? お兄ちゃん? 譜王様?
──奏は扉の前に立った。
そしてドアノブに手を伸ばす。
心の中で、傍にいて欲しかった人の名前を呼びながら。
──…………カナタ……?
──その時だった。奏の目の前の扉が突き破られ、暗かった部屋に眩しいくらいの光が射し込む。
奏は思わず目を細める。
それは本の一瞬で、手を握られ手前へ引かれ、熱い胸へ触れる。
優しい暖かい手と共に。
「やっと見つけたぜ……奏」
奏は、抱き締められる。
その存在はいつも、いつも来てくれる。
必ず来てくれる。
偶然なのかもしれない。けどいっつも、来てくれる。いつもいつも現れる。安心させてくれる。
──どうしてあなたは私の前に、現れるのだろう。そう、いつも何故か、ひき逃げされた気分になる。
「──ミドノ……」
ミドノ。
ミドノ。
ミドノ……。
何度も私の名を呼んでくれた。──私も呼ぶよ。
──ミドノ。呼ぶよ。だから呼んで。
「──奏……」
最近別れたばっかりなのに、何年も会ってない気がする。感覚が可笑しい。
ミドノと奏は、抱き合っていた。
身体と身体が密着する。
強く抱擁される奏の身体は、その暖かい温もりに酔いしれていた。
──ずっとずっと、このままでいい。でも、それはダメだと神は言う。
──…………え……?
銀に輝く刃先が見えた。
奏の胸の間に、鋭い牙のようなものが見えている。
それはとても美しく、輝かしい宝石のようだったが──塗り込まれた赤の血黒によって光輝は軽々と押さえ込まれてしまう。
ミドノの手のナイフは奏の背中に突き立てられた。
その痛みに奏はハッとして、
「な、何を!」
と、すぐに離れた。離れる際に、見越したようにナイフも抜かれる。
ミドノは手に持った血液の付いた片刃のナイフを指でクルクルと回す。
パシッと掴むと、奏の首筋に切っ先を当てた。
「どうしたら奏が死んでくれるか考えてみたんだ」
「…………どうするって言うのよ」
ミドノはただ妖艶にため息をつく。
「心臓を破裂させても生き返ってくる。身体を分解しても生き返ってくる。髪の毛1本でも残れば奏は生き返ってくる。じゃあどうすればいい? 全てをなかったことにすればいい。それをするにはどうすればいい?」
奏はごくりと喉を鳴らしてミドノに聞いた。
「どうするのよ」
「食べるんだよ」
「…………は?」
「奏を俺が食べるんだ」
「…………ッ!!」
奏は真っ青になってミドノから距離を取ろうと飛び退く。
「俺の中で奏は死ぬ、つまり奏はこの世からいなくなる。お前の全てがなかったことになるだろ?」
「ミドノおおおおおぉぉぉ――――ッ!!」
「カナタの時みたいに叫ぶだけじゃ俺は止められないぜ」
狭い教室に二人きり。
助けを求める相手はいない。
一人でどうにかするしかない。
外では轟音が鳴る。
それを合図に奏はミドノに飛びかかった。
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