リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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コノカ

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 アリシアが度肝を抜かれたような顔をしたのは何かがあったからだった。
「私と友達になりましょう! 私の名前はシティア・ダーワーク。ジェキシイン・ダーワークって知らない? 貴女の父親とお友達だったのよ!」
 まず、彼女が自分の正体に気づいたいたことも驚きだが、部屋の隅でビクビク震えているような少女が自分と友達になりに来るとは思いもしなかった。
「……あら。知らないわね。私が知ってるのはオトウサマの恋人だったジェキシイン・ダーワークよ」
「こい……び、と」
「そう。知らなかったみたいね。同性同士だって恋人になれるのよ。今やオトウサマの忍ぶ恋だけれど?」
 シティアの戸惑う姿を見て、アリシアは教えてあげることにしたらしい。
「オトウサマはジェキシイン・ダーワークと恋人になったわ。なのに人拐いに連れて行かれたジェキシインはオトウサマの事を忘れていた。彼は玩具になったのよ。私達より有益な道具へなったわ。オトウサマは其れが赦せなかったのよ」
「玩具って……私のお父さんが?」
「そうよ。オトウサマは狂ったように人身売買を始めたわ。歌う者・歌でヒトを操る種族みたいに心を使って力を発揮する種族にオトウサマの洗脳は使えないわ。オトウサマの洗脳は一度心を無くすの。其れに一般的な歌う者は弱すぎる。人間でも殺せるわ」
 シティアはアリシアの話を真剣に聞いていた、悪い想像ではなく初めて聞く真実の話かもしれないからだ。
「オトウサマは初めて掴まえた叫ぶ者・叫ぶとヒトを殺してしまう種族を人拐いに洗脳させたの。追加報酬を払ってね。だけどオトウサマは人拐いを殺したのよ。掴まった叫ぶ者の前でね。そしたらどうなると思う? オトウサマに救われたと思った叫ぶ者は異常な迄にオトウサマに執着したわ。信仰も一種の洗脳よ。彼は其の叫ぶ者に次の叫ぶ者を洗脳させた。そして叫ぶ者の前で叱り付けるの。そうやってどんどん僕(しもべ)を増やして、洗脳され過ぎた不用品は商品にするの。オトウサマの一言は彼らにとって神の一声なのよ」
 シティアは信じられないと言わんばかりに口元を抑えた。
 アリシアの話に感想が言えるものなら言いたいのだが、そんなもの浮かぶ方がどうかしている。
「何故オトウサマが叫ぶ者に手を出したと思う? 歌う者は人の心が操れるのだから、彼等を使えば簡単に世界なんて支配出来たわ。でも彼等の歌声はもう衰えているの。先刻も言ったけど弱すぎるのよ。力の源である歌すらも下手くそな奴がいるわ。そんなのより叫ぶ者みたいに力の制御が出来なくて誰か一人殺してる位の奴の方が洗脳しやすいのよ」
「そんな……」
彼奴あいつ等は生まれた頃から人として扱って貰えないの。何でかわかる? だって生まれて叫ばない赤ちゃんなんていないじゃない? 彼奴等叫んだだけで力を暴発させるのよ! 操る術を知らない内に沢山の命を奪う奴等が正気でいられると思う? 彼奴等は初めから欠陥品よ。自分達でも自覚してるのが更にいいわ。其れに比べて歌う者はプライドが高いの。自分達を絶滅危惧種扱いしているけれど、確かに其の通りだわ。歌う者の血が完全に引き継がれていれば、其奴そいつ等は最高の商品よ。でもね、叫ぶ者は違うの。自分が生きてちゃいけない存在だって生まれた頃から知る事になるのよ。しかも叫んだだけで人が死ぬんだから、軍が捕獲しようとしても皆死ぬ。そうして子孫を残すの。彼等が種族の中で最も多いのは身を守る術が強力すぎるからよ。危険だと感じたら其の相手が皆死ぬんだもの。──でも、人拐いの手口は軍とは違う。彼等は優しく話しかけるの。然もいい人のフリをしてね」
 シティアは想像していた以上の悪い真実を聞いて、真っ青になり立ち尽くしていた。ほとんどアリシアの話は耳に入ってこない。それが分かっていても、アリシアは話をやめることは無かった。わざとシティアに聞かせた。
「ホースの口を潰してから離すと水が勢いよく飛び出すじゃない? 其れと同じよ。叫ばない様に溜め込んで溜め込んで、何かの拍子に叫ぶの! すると如何!? 周りの人の身体も建物も何もかもがバラバラに吹っ飛んで壊れていくわ! だからみぃんな見付けるのが簡単なのよ」
 真実を話していくことにやがてアリシアは心を静めることが出来ずに、白熱していく。
「自分を人だと云ってくれた、必要だと云ってくれた人拐いにまんまと嵌められて叫ぶ者だらけの地下室に閉じ込められるわ。地下室だから叫んで天井を破ったら皆生き埋め。だから誰も叫べないの。拷問の時に叫び声を相殺するのは既に洗脳された叫ぶ者の役目よ。同じランクの力を制御出来る叫ぶ者を牢の外に置いておくの。希望から絶望に落とされて、更に苦痛を味わう叫ぶ者に手を差し伸べるのはオトウサマの役目よ。そうして皆皆オトウサマに依存していくの。苦痛を与えて憎しみを与えられるより、希望を与えて感謝される方が理想的な洗脳でしょう?」
 アリシアがそう尋ねて、シティアを見た時、彼女は酷く眉間に皺を寄せて眉を釣り上げて俯きがちに地面を睨んでいた。
「何怒ってるのよ」
「別に怒ってなんかないよ」
「あらそう。なら其れやめて。自分の腕引っ掻くのが趣味なら止めないわよ」
 シティアはアリシアには怒っていなかった。彼女はただあまりにも酷い光景を想像した自分に怒り、そしてそれが本当に起きた出来事であることに、怒っていた。
「アリシア……皆貴女のことを〝冷酷女〟って呼んでる。悔しくないの?」
「知ってるわよ其れくらい。単調な呼び名だわ。もっと捻りを入れなさいよ。此れだから低脳は」
「低脳低脳って……!! 貴女だって同じ人間でしょ!!」
「違うわよ。脳の作りからして私の方が上だもの。彼奴等は道端の芥よ」
「そう言うことばっかり言うから毎回対立するんじゃない!」
「──そして怪我人が出る? 私がそう仕向けてるとは思わない訳? 貴女って、ホントお気楽なお嬢さんね」
 シティアは初めてカッと頭の中が熱くなるのを感じた。それからは自分の言葉が考えてもいないことを言い出してシティアは大いに戸惑った。
「捻りを付けた呼び名が欲しいって言ってたけど――」
「別に欲しがってはいないわよ」
「――貴女なんか冷酷女で充分よ! 其れ以上でも其れ以下でもない貴女にぴったりな呼び名じゃない!!」
 シティアはそれが怖くてその場から逃げ出した、その向かいからやって来ていた者の存在にも気付けずに、精神的に追い詰められていた。
「いいのかオいかけなくて?」
「いいのよ」
 蕁はアリシアが遅いので、シティアと何かあったんじゃないかと再び戻ってきたのだ。
「貴方も私を冷酷女って呼んでるの?」
「そんなワケないじゃん。呼んで欲しいなら呼ぶけど」
「別に何方どちらでも構わないわ」
「スナオじゃないな。イヤならイヤってイえばいいのに」
 蕁はふぅ、と溜息をつくと、アリシアに向き直る。彼女はもう自分の言いたいことを分かっているだろう。
「貴方も名前で呼ばれたいってはっきり言ったらどうなの?」
「ワかってるならヨんでくれ」
「気が向いたらね」
 蕁はムッとしてから、そういえば、とアリシアに目を向ける。
「アリシアはドウしてシティアにイジワルするんだ?」
「嫌いだからよ。彼様な偽善者視界に入るだけで目障りだわ。彼奴の声が蝸牛に入るだけで悪心を起こすくらいよ」
「へえ。オレはスきなコをイジめるのとオナじでカノジョがスきなんだとオモったんだけど」
「あら、そうね。そうだわ。彼女が好きで好きで堪らないのよ。手を繋ぎたいし、キスもしたいわ。セックスだってそうよ」
「……そうか、へえ」
 もしかして蘭の姉上とオナじタイプのヒトなのか? と蕁は何とも言えない顔をする。
「変だと思う? 私を嫌う? 私もオトウサマに伝染されたのかしらね。彼様(あん)な奴と同類だなんて虫酸が走るけど此ればかりは譲れないわ。彼奴は犬尻に興奮する様な不浄の塊だけど私は違うの。そう思っていれば少しは楽かしら」
「ビックリしただけだよ。おトウさんのコト、ホントにキラいなんだな」
「大嫌いよ。オトウサマの事なんて」
「ナンでキラいなのかキいてもいい?」
「嫌いだからよ。他の理由なんてないわ。彼奴の全てが憎いのよ。私が彼奴に抱いている感情は嫌悪と殺意しかないもの」
 蕁はアリシアの苦虫を噛み潰したような顔を見て苦笑を浮かべる。
「はは……ホントのコトなんだな。キミのココロがヨめてもイマのはウレしくないな」
 やはり家族は仲良しが1番だと思うんだ。例えキョウダイの中に爆弾がひとつ紛れ込んでいたとしても。
「何よ。急に素直になったわね」
「だってキット、キミのホウがボクをリカイしてるんだろう」
 にこっと蕁が笑うと、ふんと鼻を鳴らしてアリシアが言った。
「恨むなら彼奴を恨んで欲しいモノね」
「ウラんでるなんてイってないだろう?」
 アリシアは自分が恨まれるようなことをしていると理解している、やはり本当は優しい人なんだろう。
「先の事を言ってるのよ」
「サキのコトなんかダレにもワからないさ」
 蕁が笑いかけても彼女の本当の笑顔は出てこないらしい。
「分かるのよ」
「……アリシ──」
「終わりにしましょ。此の話はまた其の内ね」
 蕁は呼び止めようと思ったが、部屋で待っている生徒たちのことを考えてそれをやめた。それに次に話す約束を向こうがしてくれたのだから呼び止める必要は無いだろう。
「ダンスはアリシアがオシえてね。オレオドったコトナいし」
「考えておくわ」
 アリシアと蕁が戻ると、生徒たちはもう、怪我の手当を終わらせ、また着火剤の補充なども済ませて準備を整えていた。汚れた、敗れた制服も2、3着持つ中で綺麗なモノを着たのだろう。修復に出すより買った方が安いので発注が相次ぎそうだ。
 生徒たちとアリシアは施設のバスに乗り任務の会場――パーティ会場へと向かった。
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