リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ヴァラヴォルフ

20

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 拠点では食事とおやつを食す時間を終えた集団と一族たちが、壊れた建物や道端で眠りについていた。肩を貸したり、頭を預け合ったり、地面に寝そべったり、壊れた建物の壁に背を預けたりしている。
 寝静まった真っ暗な拠点の上に、眩しい光が生じる。
 光は炸裂音と共に地面に叩きつけられ、一族、集団達は目を覚まし、何事だと警戒した。

 黄金の炎の中で黒い影が動き回り、悲鳴を上げる。
高く高く昇っていく天の柱は、人々を容赦なく焼き尽くす。
 拠点の天井の大きな穴から、白いスカートをふわりと靡かせて、ゆっくりと一人の少女が降りてくる。

 ルビーの瞳の……少女が。



        ◇◇◇



 ティーネと鵺トがセイナを埋葬している間に、拠点のある方向から焼け焦げた匂いがしてきた。
 異変に気付いたのはティーネだけだった。そしてその予想も今度こそついた。
「炎の魔王だ! 鵺ト!」
 死体も人も燃やし尽くされ、ティーネたちが帰る頃には黒く焦げた大地だけが残っていた。数年前と同じ光景であった。
 ティーネの元にボロボロの躾がやってきて、二人はゆっくりと目を合わせる。

「「炎の魔王……」」




        ◇◇◇



 みんなが恐ろしさを忘れ出した頃だった、國哦伐家の者が一族の者に掴み掛かる。
「なぜ化け物の存在を隠していたのだ!」
「か、隠していた訳ではない!」
「ふざけるな! やはり知っていたんだな!」
「でも隠していた訳ではないんだ!」
「うるさいッ!!」
「この、……この野郎!!」
 一族は芽柳主の死で人間の血を分けて貰えなくなり冷静さを欠いていた。集団は疲労もあるのだろう、また揉め始めて乱闘になり、また数が減る。
「アタシたちは皆で帰らないといけないの! なんで黙ってたわけ!?」
「薦お姉さまの言う通りよ。あんな恐ろしい存在を隠しておくなんて……想像しただけで頭がおかしくなりそうだわ」
「あんな化け物だからこそ隠していたんですわ!」
 彼女達の炎を操る力はトラウマになっていた。
 なので彼女たちは着火剤を使わず、素手で戦う。
 鍛えられてきたので素手でもかなり強い。
 閻夏供家の者たちもそれは同じで、火を付けず、刀に炎を纏わせることもしない。
「成は救えたけど、虚姉ちゃんは燃やされた! 黙ってたこと、絶対に許さない!」
「咲ちゃん、私も同じ気持ち。私、最初から炎は怖いけど、黙ってたのは許せない……」
「お姉ちゃんたち落ち着いて、虚お姉ちゃんが……し、しんじゃ、ったのは悲しいけど、争ったらまた誰か死んじゃうよ!」
 成は姉達を止めようとしたが、彼女達は怒りのままに乱闘の中へ飛び出して行った。

 炎で失った者も多かったが、乱闘で失った者も多かった。

「何なんだ、何で争うんだ、そのせいで大切な人を失うのに!」
 ティーネは本当の怒りを知らない。
 家族と喧嘩した時の怒りより、家族を奪われた時の怒りは、どれほど己を守ることができるのだろうか。
 本当の怒りとは何だろうか。
 彼女は本当の悲しみを知ったのだ。
 ティーネから眩しい光と凄まじい衝撃が発生する。
 風に靡く、白く輝く金の体毛。
 黒くしなやかな爪と、当たるだけで一溜まりもないであろう巨大な牙。
 体長60米の巨体。
 何と言う、神々しさだろうか。
 下敷きになった者達は、神の手によって死を与えられただろう。
 ティーネは、己を忘れて暴れ狂う。
 イブリヴォルフより質の悪い何モノも喰らうヴァイアヴォルフとなり、強大な力で地下都市を壊し大地を壊していく。
「ティーネ落ち着け! 我を見失うな!」
「ティーネ、大丈夫だ。もう争わない、だから頼む。もう暴れるな!」
 鵺トと躾がティーネに呼び掛けても、彼女には声が届かない。地下都市を壊滅させ、彼女は森へ飛び出した。
「待ってくれティーネ!」
 ティーネは鵺トの言葉に振り返る……と言うよりは。
 涎をダラダラと流し、獲物を見つけたと言いたげに見た。
 鵺トが逃げ出すと、彼女は彼の近くの者達に喰らい付いた。
 しかも一族の者をだ。
「てぃ、ティーネ」
 躾はこんなことがあってはならないと心の中で思い続けたが、そんなことしている場合ではない。
 同胞だけでなく、國哦伐家の者まで食らっていく、閻夏供家は人数が少ない分逃げおおせているが、時間の問題だろう。
「あの子を止めましょう!」
 銀杏がそう叫べば、國哦伐家の者達が立ち上がる。
 仲間や家族を食べた恐ろしい相手だが、立ち向かわない限り一方的に食われておしまいだと思ったからだった。
 それを聞いていた梁翼牡家と閻夏供家も立ち上がる。
「私の右腕が食べられたわ!! そう簡単に許せるものじゃないわよ……!」
 菴が取り乱してそう言うと、銀杏がやってきて言った。
「落ち着いて菴さん。あの子は今我を失っているの。これ以上被害を出さないためにも手伝って。お願い」
「……分かったわ。貴方がそう言うなら」
 銀杏たちの仲間の方が多い分大勢亡くなっている。そんな銀杏が怒りを抑えてティーネを救おうとする姿に菴は感銘を受けたのだった。
「家族を食べちゃうなんて可哀そう。この咲ちゃんが止めてあげるよお!」
「怖いよぉ。でも咲ちゃんが頑張るなら私も頑張ってみようかな……」
「ティーネちゃんを止めます! 彼女は私を救ってくれた人だから!」
 全員で止めに入るが、いっさいティーネには効果がない。
 ただ、喰らうことだけが彼女の攻撃ではない。
 右足を少し上げて下ろすだけでも攻撃になってしまうのだ。そんな相手に勝てる訳がなかった。
 多くの命がティーネの手で失われた。
 同胞が躾と、稟終、胚邪、3人にまで減った時だった。
 彼らを喰らおうとする様を見て、鵺トが咄嗟に飛び出して両手を広げる。
「俺を食べていい! 俺で最後にしてくれ!」
「…………っ」
 ティーネはあの時のことを思い出す、口を閉じれば、鵺トが死ぬ、そんな怖い思いをしたことを。
 母親の死体が、まだ暖かくて柔らかくて、助けられるんじゃないかと思っていた怖かったあの時を。
 ティーネは正気に戻った後、自分の引き起こした惨状を見て涙を溜めて首を振った。
『ご、ごめんなさい』
「ティーネ!」
 正気に戻ったのは良かったことだったのか、ティーネの口から血まみれの男が落ちてきた。國哦伐家のリーダーらしき偉丈夫の男だった。
「出ていけ! 二度と戻ってくるな!」
 と黒髪黒目の――真黒と言う男の子がティーネに石を投げつける。すると他の者も、同じように出ていけと石を投げつけ始めた。
「ティーネ逃げろ!」
『鵺トぉお』
「逃げるんだ!」
 ティーネは森へ出てその中を疾走した、疾走しているうちに変身は解けており、湖の近くの花畑でわんわんと泣いた。
 一人で泣いていると、泣き疲れて眠ってしまったらしかった。
 朝になり、ティーネは両足を抱えて蹲る。
 悲しみに浸っているところを虫に邪魔され、手で振り払おうとして、気が付いた。
 傍に花冠と綺麗なまんまるの饅頭が置いてあったことに。
「あの子だ……」
 ティーネは微笑み、それを握る。
 花冠を頭につけて饅頭を食べた。
 池で水浴びをし、血を洗い、ティーネは一人、ウイルスについて聞くためにあのルビーの瞳の女の子を探すことにした。
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