リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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カナキリ

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 能力協会は各国の能力者の保護を行う機密組織である。会員のほとんどが人間だった。しかし、実力のある隊に上へ上へと行けば行くほど、能力者の割合が多くなっていく。
 中でもシェハイン協会と呼ばれる組織に関しては別格であった。彼等にはどんな軍隊でも手が出せない。国家にも手が出せないシェハイン協会には、敵に回してはいけない人物がいるからだ。――特殊部隊隊長──威稲樹いいなぎ聖唖。
 裏社会で彼は人間最強と呼ばれ、世界中に名を轟かせる人物である。
 能力者の多い能力協会でトップを維持し続ける、能力協会最強の名を持つ実力者だ。
 超色男の癖その自覚もなく、実力も圧倒的で周りと違う空気を纏っている。人を無視するような奴だが、いかんせん人気者だし、忙しい奴だし、ひとりひとり相手している暇はないのだろう。彼と話したい人は、彼が少人数と行動している時か、彼が一人で行動している時を狙うのがベストだ。話し掛ければ受け答えくらいはしてくれるし、性格もいい方だと思う。
 何でもできて、顔も性格も良くて、本物の完璧人間だな──……
「──ぅ、うぐ……女臭い女臭い! また洗わないといけないじゃないか! 洗剤とお水がもったいない! 何なんだ彼等は! わらわらわらわらしてきて!」
 ────と、幡多は、数年前まで思っていたのだが。
 幡多は聖唖の脱ぎ捨てた服を拾い集めて部屋の中央にある大きな机に乗せる。そこは聖唖個人の為の資料室だった。聖唖は机の上に用意されていた資料を手に取れば、すぐに奥の書斎に消えてしまった。幡多は聖唖の後を追い掛けて書斎へ入る。
「聖唖……本当に相変わらずの女嫌いだな……」
 聖唖は自分の机に資料を置いてから、壁際のロッカーを開けて衣服を取り出す。
「嫌いな訳じゃないさ、あの匂いが苦手なだけだ。甘ったるくて鼻がひん曲がりそうになる」
「ああ、なるほど……ラ矢は香水なんてつけないもんな」
「ラ矢のいいところのひとつだな」
「俺はラ矢も少しくらい女の子らしくした方がいいと思うけど……」
 聖唖は衣服を纏うと、椅子に座って資料を食い入るように眺め始めた。
「眼鏡また変えたのか?」
「女達が触って汚くなったからな」
「お前絶対女嫌いだろ」
 聖唖は目が悪い訳ではないが、資料を見る時だけ眼鏡を掛ける。
 その眼鏡は双眼鏡のような役割を果たしており、内蔵された機能で写真の細かい部分まで分析して表示してくれる。つまり、高性能虫メガネだ。
 ――その為、聖唖のように仕事の多い協会の会員──会員は、これを愛用していることが多い。
「また仕事に出るのか? それ、何の資料だよ……?」
「カナキリだ……魔力はかなり高いらしいな……」
「は? そんなこと書いてないじゃないか。どこ見てるんだ」
「ここだ、ここに書いてある」
「んん?」
 幡多は聖唖の指し示す箇所を見つめた。どうやら写真だが、何処にもそんなことは書いていない。どうやら聖唖の眼鏡が機能を果たしているようだ。その状態を聖唖が読み上げる。
「全身骨折、出欠多量……肌を埋め尽くすほどの切り傷」
 言葉にしなくても写真を見れば惨いことは丸わかりだが、それは黙っておく。幡多は被害者が死んでしまったことを悟った。それを読み取るかのように、聖唖は一言添える。
「この被害者は死んでいないよ」
「はっ!?」
「被害者もカナキリだったらしい。まあ、あと20秒くらいしたらお亡くなりの電話でも来ると思うが?」
 幡多は腕時計を確認する。時計の針は、午前11時32分18秒を示している。
「じゃあ38秒に電話来るんだな? 前で待っててやろうか?」
 幡多はそうからかって、電話の前に立つ。
 聖唖がイラッとして、言った。
「いや、やっぱりあと3秒だ……」
時計は午前11時32分28秒を指している。
「え、3秒!? ちょ、ま────」
 幡多の腕時計の秒針が丁度31を示した瞬間、眠っていた古電話は目覚め、産声のように叫び出す。幡多が呆気に取られていたら、聖唖が呟いた。
「カナキリにも負けないな、このポンコツ」
「すげぇ……って、感心してる場合じゃないッ! 出ないとッ!!」
 幡多は受話器を取って慌てて耳に当てる、聖唖は幡多が話さないので、相手の噺でも聴いているんだろうと思っていたが。
「お、お前……」
 幡多の動揺しきった表情を見て聖唖は席を立ち、幡多の傍までやって来た。聖唖が受話器に耳を近づければ、幡多の顔が真っ赤に染まる。幡多はすぐにスピーカーのボタンを押した。聖唖が離れて、ほっと息をついて幡多は考える。――無駄に顔がいい……寄越せ。
 しばらくして、ポンコツから、相手の声が聞こえ始める。
『──今回は間違えてしまっただけなのですよ、標的を……。ああ、それと、あなた方が探しているカナキリ、うちの部隊の者なのでお気になさらないでくださいね。我々が狙うのは常にひとつ──……』
「──ヒグナル……?」
 聖唖が呟けば、音を拾ったのか、話し相手の話し声が止む。
『…………おっと、その声は聖唖さん、帰って来られていたのですか。危ない危ない。目的を言うところでした。あなたがいなければ……この電話でカナキリを何匹か貢がせようと思ったのですがね。今そんなことしたらあなたが貢がれそうだ』
「ヒグナル、お前、何を考えている……さっき言い掛けた言葉は何だ」
『そうですね、我々が狙うのはひとつ──……って、答えるはずがないでしょう。相変わらずのバカですね。ではこれにて失礼します。我々にはまだ仕事があるので──……』
「――なっ!? おいお前……!!」
「――待てッ!! ヒグナル!!」
 幡多と聖唖の耳に届くのは、静かな電子音だけで、先ほどまでの丁寧な声は消えていた。
「くそッ……またあいつ何か仕出かす気かよ……」
「標的、か……」
 幡多は受話器を元の位置に戻すと、呟いた聖唖に目を向ける。
「──ボスに報告するぞ、ついて来い幡多」
「お、おう……!」
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