リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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バシリアス ※BL

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 茄遊矢は屋敷を出て、壁の中を散歩していた。茄遊矢の目に映る緑や湖、そこへ暮らす動物達などの自然は、全て感動へと変わっていった。茄遊矢は壁の中央のやや南東にある小さな森を見つけ、茄遊矢はそれをぐるりと一周した。見た事もない木々の姿に、茄遊矢は導かれるように森の中に入って行く。
 茄遊矢は満足したら森の外に出ようとしたが、軽く遭難しかけていた。森の外に出る事が出来ず、茄遊矢の精神的疲労が目に見えるようになった時だった。茄遊矢は薄暗い森の中に小屋の姿を発見し、そこへ駆けつけた。羅聖と咲路しかいない壁の中で人がるわけがないが、逆に言えばここに小屋を建て利用しているのは羅聖か咲路だ。今日赴くとは限らないが、ここにいれば見つけ出してくれるだろう。そう思って小屋の中に入ると、結構な生活感があって戸惑う。焚火は燃え尽きておらず、その近くに木彫りのコップも置いてある。獣の毛皮が剥がされ、絨毯にしてあり、剥がされた獣の肉は天井からつるされている。血抜きはもう済んでいるようだ。
 このまるまる保管している様を見ると、ここに誰か住んでいて、誰が住んでいるのか分かってくる。
キィィィ……と、茄遊矢が先ほど入って来た扉が開く。その先には、ぽかんと茄遊矢を眺める咲路の姿があった。肩には血を流した鳥が担がれている。
「さ、咲路さん……」
「お、お前がどうしてここに!!」
「すみません、森で迷ってしまって。ここを見つけたので」
 咲路の警戒心は最高潮に達している。歯を食いしばり、滝のように汗を流して後ずさる。
「す、すみません。すぐ出ていきますから」
 茄遊矢が咲路の隣を通り過ぎようとすると、その肩が血塗られた手に掴まれた。茄遊矢はそれを見て失神を起こしかけたが耐える。血を見るのは平気だがそれに触れるのは抵抗があるのだ。
「案内してやる……」
「あ、ありがとうございます!」
 咲路は鳥の死体を玄関先に置くと、茄遊矢の手を取って森の中を進んでいった。茄遊矢は手を引かれるまま歩いた。はぐれないように手を握ってくれているのだろうが、手汗が凄い。かなり無理をしてくれている。
「あ、あの服の裾でも掴んでましょうか」
「いい」
 少し怒り気味にそう言う。茄遊矢は不安でいっぱいだった、なぜ嫌なのに離さないのかと。
 森の外へ着くと、その手はパッと離される。茄遊矢がお礼を言おうとすると、咲路はある一点を見つめて動かなくなっていた。咲路の視線を見て、茄遊矢は首を傾げる。
「屋敷がどうかしたんですか?」
「思い出せないだけだ」
「おもいだせない?」
「羅聖は俺の弟らしいんだが、実感がわかなくて」
「記憶喪失ですか?」
「違う。記憶を失っていくんだ。長い間此処に住んでいるからな」
「…………?」
 咲路は気に掛ける茄遊矢をよそに、森の中へ帰っていく。昼ご飯の時間、彼は屋敷に訪れなった。夜ご飯には鳥を二匹持ってやって来て、一緒に調理を手伝ってくれた。
 少し距離が近づいた気がして、茄遊矢は口には出さないが喜んでいた。
 羅聖が来て、一緒に食事を取る。壁の中に囚われているのに、茄遊矢は不思議と寂しくなかった。むしろ楽しささえ感じていた。一人で暮らす寂しさを感じず、不自由なくおいしいご飯を食べられて。茄遊矢は幸せだった。ただ、ルイスに会えない事だけが、壁の中で暮らす事を拒絶していた。
 茄遊矢は何年も壁の中で暮らした。暮らすうちに、咲路の警戒心も、羅聖からの茄遊矢への興味も薄れていった。
 茄遊矢は羅聖に会わない日々が続いた、彼は研究室に籠ってばかりであまり表に出てこないのだ。食事の時は偶に出てくるが、咲路もしょっちゅう森に籠るので、茄遊矢は一人で食事をする事が多くなっていた。
 茄遊矢はその日、仕事を終えると何となく羅聖のいる地下室へ向かった。
 エアシャワー室の扉から部屋へ入ると、羅聖は集中しているのか一所懸命にβασιλιάςバシリアスで何かしている。
「……浸透しないな」
 声をかけるべきか迷って、何も用がないのに来てしまったから話す事もない、話しかけるべきではないなと踵を返そうとした時だった。
「茄遊矢」
「はひっ!?」
 まさか気づかれているとは思わず悲鳴に似た返事を上げる。羅聖はゆっくりと振り向く茄遊矢を壁に追い詰め、腕を壁にダンッと押し付けた。
「………………」
 何で男の人に壁ドンされてるんだ……。
「顔上げろ」
「はい?」
 顔を上げると、羅瑛はおもむろに顔を近づけてくる。
「ちょっと!?」
「動くな。ちょうどよく実験対象が来たんだ。試したい事がある」
「…………」
 黙って従う事にすると気分を良くしたのか、いつもは出さない雰囲気を出して深い口づけをしてくる。シャツの裾から羅聖の暖かい手が侵入してきて、身体を執拗に撫でられる。
 茄遊矢は羞恥が限界に達し、羅聖を押しのけてしまった。
「な、なんでこんな事出来るんですか!」
「今更なんだ。実験の為に決まってんだろ」
「……お、俺は」
「もしかして俺を愛したのか?」
 は!? と叫びそうになったが、のどに詰まって声が出てこない。図星を突かれたのだ。
 羅聖は茄遊矢の様子を見て察する。
「そうか。俺を愛したのか……」
「…………っ」
「否定はしないと言う事はそうでいいんだな」
 羅聖の低い声が鼓膜に響く。茄遊矢の心臓はいつもに比べて異常なほど速く脈を打っていた。
「そ、そうです……俺は。羅聖さんの事が……」
「…………」
「すき、です……」
 羅聖はいつも冷たい目をして茄遊矢を見る。それは元から冷たいからだと思っていたが、嫌われているからだと気が付く。大きなため息をつく羅聖に、茄遊矢は身体を揺らす。
「全ては実験の為にした事だ。お前はいい実験体だ。それ以外はあり得ない」
「…………あなたが悪い、あなたがいつも」
「キスをするからか? 俺は実験体に興奮なんかしない。気持ちの悪い事を言うな」
「じ、けんたい……きもち……わる……い」
 羅聖は冷たい目で茄遊矢を見ていたが、次の瞬間その目を見開く。茄遊矢の作った優しい笑顔にひどく驚いた。
「すみませんでした」
 茄遊矢が去ろうとすると、その腕を羅聖は無意識に掴んでいた。振り向かせたその顔は悲痛に歪み大量の煌めく雫を頬に伝わせる。茄遊矢の目から零れ落ちる彼の瞳と同じ宝石のような輝きの涙に、その美しさに、羅聖は見とれる。
「あ、あの……すみません俺、泣くつもりは………………あの……?」
 それを拭い取りながら、茄遊矢は不思議そうに羅聖を見た。
「食事の準備はしておけ」
「は、はい……」
 乱暴に腕を離され、茄遊矢は返事をするとすぐ、逃げるように去って行った。
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