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バシリアス ※BL
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二四〇二年一月二八日。
茄遊矢は町へ帰って来た。久しぶりに歩く色のない空、古い建物、灰色の大地。朝の日差し。
建物の射影にβασιλιάςの光が舞っていた。
この光景も懐かしい。何も変わっていない。酷い街並みでも人々は行き交う。
昔の行きつけだった店に寄って、ルイスの誕生日プレゼント用の箱を買う。その箱にあの首飾りを入れた。
色素の薄い髪を持つ人々の中を高彩度の茄遊矢の髪が通り抜けていく。茄遊矢は人々の目に晒され、この感覚も一緒だと考えた。茄遊矢が町を歩いていると、じっと見つめてくる人々の一人が話し掛けてきた。
「君、琉乃茄遊矢くんじゃないか?」
「え? あ、あなたは……」
彼は茄遊矢の知らない人だった。サラリーマンに見えるが。
「君を探している子に会ったんだ。一年前くらいかな……凄く容姿が綺麗な子で……確か名前は」
「……ルイス」
茄遊矢は目を見開いて驚いた。ルイスは町の人を巻き込んでまで茄遊矢を捜索していたのだ。
「彼は学校に通いながら、昼休みも放課後も探していたらしいし。そうだ、最近はこの辺で昼に彼を見かけたって聞いたよ。彼目立つからね」
「そうですか……」
茄遊矢はその後、久しぶりに昔自分の住んでいたマンションの前に来た。
着いた頃には雨が降って来ていて激しい雨音が鼓膜を震わせる。
マンションの玄関先で開かれた傘の背を発見した。傘を開き雨の中を佇んでいるのは女の子だ。茄遊矢が足音を立てて近付けば、傘を差した彼女が髪を靡かせて振り返る。
「シュラン」
「琉乃くん……」
シュランは大きな目を更に大きく見開いた。開かれた分の大粒の涙が彼女の頬を濡らす。掠れた声で彼女は矢継ぎ早に言った。
「ご、ごめんなさい私……琉乃くんのことが好きで……だから、力になってあげたくて……」
「な、何の話だよシュラン。落ち着けって」
茄遊矢はシュランにハンカチを渡した。シュランはそのハンカチを恐る恐る受け取り、そっと涙を拭った。少しは落ち着いてきたようで涙も収まってくる。
「あの日、琉乃くんがいなくなった日、私凄く後悔した。綺麗な男の人に話しかけられて、チラシを書くように頼まれたんだ。その内容を見て私、適任者がいるって琉乃くんの話をしたの。彼は既にあなたに興味を持っていたと言ったわ。それで気が付くべきだった。バカな私は琉乃くんのポストにチラシを入れたの」
「…………羅聖さんが」
シュランを使って企んでいたことなのか。薄々気が着いてはいたけど、いや、実験をすると聞いて確信してはいたけれど。羅聖さんが手回ししてシュランにバイトのチラシを書いていたなんて気付きもしなかった。
「本当にごめんなさい……」
茄遊矢はシュランの頭を撫でる。
「大丈夫だよシュラン。俺は何も酷いことされてないから」
実験は散々されてたけど。
茄遊矢は真顔になる。シュランが顔を上げ、言った。
「ルイスくんに伝えておくね。ここにいるって。いいよね?」
茄遊矢は顔を明るくして言った。
「ああ。頼む」
シュランが去ってから、茄遊矢は昼まで待ってみることにした。羅聖に昼までには帰れと言われているけど、ルイスには会いたい。話せなくても一目だけ見たかった。
家賃を滞納していた為恐らくもう家の中には入れない。茄遊矢が玄関先で待っていると、雨の音の中、何かの落ちる音がして顔を上げる。ルイスのあの美しい瞳が自分を映していた。傍には青色の傘が落ちている。
「な、茄遊矢……っ! お前今まで何処に行────……っ」
駆け寄ってくるルイスを強く、強く抱き締めた。初めは戸惑っていたルイスだが、茄遊矢の背に手を回してくれた。
抱き締め合って、互いの温もりを感じ合う。
今ここに自分がいて、目の前に大事な人がいる。
彼の温もりを感じていると、自分の存在を証明されているような気がした。
ここにいても良いと、言われているような気がした。
俺の、本当の居場所はここだ。
捨てる事の出来ない、俺の大事な故郷。
「──なあルイス。今日お前の誕生日だろ?」
一年以上ぶりの再会を果たし、茄遊矢達は手を繋ぎながら町を歩いた。町と言っても、やはり寂れていて、あの壁の中の世界とはまるで違う。あそこは何もかもが自然に囲まれていて、全てのモノが立派で、良質で、豪華で──……羅聖さんや咲路さんになら似合うだろう世界は、自分が浮いている感覚しか与えてくれなかった。けれど、ルイスの隣は心地好い。例え容姿が違おうと、彼が茄遊矢の特別な存在である事は代わりない。
「よく覚えてたな」
不思議そうに見つめてくるあの美しい瞳に、うっとりとする。
「うん……」
「ずっと何処か行ってた癖に……」
「心配してくれたのか……?」
──突然両肩を掴まれ、顔をぐんっと近付けられる。
「するに決まってんだろ……っ!! 町中の皆で協力して探したんだ……!!」
彼は目を鋭く尖らせて、こちらを睨み付けた。──町中の皆で……か。凄く、嬉しい。ありがたい。
……俺は、この町は好きじゃなかった。
どちらかと言うと嫌いだ。
だが、彼らは──町は、俺を少しでも好いていてくれたらしい。
それとも、ルイスの頑張りのおかげなのか……。
茄遊矢は町へ帰って来た。久しぶりに歩く色のない空、古い建物、灰色の大地。朝の日差し。
建物の射影にβασιλιάςの光が舞っていた。
この光景も懐かしい。何も変わっていない。酷い街並みでも人々は行き交う。
昔の行きつけだった店に寄って、ルイスの誕生日プレゼント用の箱を買う。その箱にあの首飾りを入れた。
色素の薄い髪を持つ人々の中を高彩度の茄遊矢の髪が通り抜けていく。茄遊矢は人々の目に晒され、この感覚も一緒だと考えた。茄遊矢が町を歩いていると、じっと見つめてくる人々の一人が話し掛けてきた。
「君、琉乃茄遊矢くんじゃないか?」
「え? あ、あなたは……」
彼は茄遊矢の知らない人だった。サラリーマンに見えるが。
「君を探している子に会ったんだ。一年前くらいかな……凄く容姿が綺麗な子で……確か名前は」
「……ルイス」
茄遊矢は目を見開いて驚いた。ルイスは町の人を巻き込んでまで茄遊矢を捜索していたのだ。
「彼は学校に通いながら、昼休みも放課後も探していたらしいし。そうだ、最近はこの辺で昼に彼を見かけたって聞いたよ。彼目立つからね」
「そうですか……」
茄遊矢はその後、久しぶりに昔自分の住んでいたマンションの前に来た。
着いた頃には雨が降って来ていて激しい雨音が鼓膜を震わせる。
マンションの玄関先で開かれた傘の背を発見した。傘を開き雨の中を佇んでいるのは女の子だ。茄遊矢が足音を立てて近付けば、傘を差した彼女が髪を靡かせて振り返る。
「シュラン」
「琉乃くん……」
シュランは大きな目を更に大きく見開いた。開かれた分の大粒の涙が彼女の頬を濡らす。掠れた声で彼女は矢継ぎ早に言った。
「ご、ごめんなさい私……琉乃くんのことが好きで……だから、力になってあげたくて……」
「な、何の話だよシュラン。落ち着けって」
茄遊矢はシュランにハンカチを渡した。シュランはそのハンカチを恐る恐る受け取り、そっと涙を拭った。少しは落ち着いてきたようで涙も収まってくる。
「あの日、琉乃くんがいなくなった日、私凄く後悔した。綺麗な男の人に話しかけられて、チラシを書くように頼まれたんだ。その内容を見て私、適任者がいるって琉乃くんの話をしたの。彼は既にあなたに興味を持っていたと言ったわ。それで気が付くべきだった。バカな私は琉乃くんのポストにチラシを入れたの」
「…………羅聖さんが」
シュランを使って企んでいたことなのか。薄々気が着いてはいたけど、いや、実験をすると聞いて確信してはいたけれど。羅聖さんが手回ししてシュランにバイトのチラシを書いていたなんて気付きもしなかった。
「本当にごめんなさい……」
茄遊矢はシュランの頭を撫でる。
「大丈夫だよシュラン。俺は何も酷いことされてないから」
実験は散々されてたけど。
茄遊矢は真顔になる。シュランが顔を上げ、言った。
「ルイスくんに伝えておくね。ここにいるって。いいよね?」
茄遊矢は顔を明るくして言った。
「ああ。頼む」
シュランが去ってから、茄遊矢は昼まで待ってみることにした。羅聖に昼までには帰れと言われているけど、ルイスには会いたい。話せなくても一目だけ見たかった。
家賃を滞納していた為恐らくもう家の中には入れない。茄遊矢が玄関先で待っていると、雨の音の中、何かの落ちる音がして顔を上げる。ルイスのあの美しい瞳が自分を映していた。傍には青色の傘が落ちている。
「な、茄遊矢……っ! お前今まで何処に行────……っ」
駆け寄ってくるルイスを強く、強く抱き締めた。初めは戸惑っていたルイスだが、茄遊矢の背に手を回してくれた。
抱き締め合って、互いの温もりを感じ合う。
今ここに自分がいて、目の前に大事な人がいる。
彼の温もりを感じていると、自分の存在を証明されているような気がした。
ここにいても良いと、言われているような気がした。
俺の、本当の居場所はここだ。
捨てる事の出来ない、俺の大事な故郷。
「──なあルイス。今日お前の誕生日だろ?」
一年以上ぶりの再会を果たし、茄遊矢達は手を繋ぎながら町を歩いた。町と言っても、やはり寂れていて、あの壁の中の世界とはまるで違う。あそこは何もかもが自然に囲まれていて、全てのモノが立派で、良質で、豪華で──……羅聖さんや咲路さんになら似合うだろう世界は、自分が浮いている感覚しか与えてくれなかった。けれど、ルイスの隣は心地好い。例え容姿が違おうと、彼が茄遊矢の特別な存在である事は代わりない。
「よく覚えてたな」
不思議そうに見つめてくるあの美しい瞳に、うっとりとする。
「うん……」
「ずっと何処か行ってた癖に……」
「心配してくれたのか……?」
──突然両肩を掴まれ、顔をぐんっと近付けられる。
「するに決まってんだろ……っ!! 町中の皆で協力して探したんだ……!!」
彼は目を鋭く尖らせて、こちらを睨み付けた。──町中の皆で……か。凄く、嬉しい。ありがたい。
……俺は、この町は好きじゃなかった。
どちらかと言うと嫌いだ。
だが、彼らは──町は、俺を少しでも好いていてくれたらしい。
それとも、ルイスの頑張りのおかげなのか……。
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